逃げ若ってどこか大河『太平記』を意識しているように思えてならない

いや、何となくですが、どこかそういう物語上での構成にどことなく感じ入るのですね。今回なんて主人公が楠木正成と邂逅して、大きな影響を受ける、やはり大楠公がこの時代を語る上で欠かせない重要人物なんだな…そして今回は将来の敵方となりながらも互いに惹かれあう大楠公と時行くん。それにしても本作の大楠公、普段はシュッとしたそれなりのイケメン顔なのに、

俗に「スキャナー」モードになっている時の変顔が金八大楠公と雰囲気的に似ているのはご愛敬。そんなこんなで今回は物語上での時行くんが今後に向けての成長となる一幕とそして重要展開を迎えます。それでは本編感想参ります。

 

〇かかあ天下も共通項

前回の衝撃的邂逅を果たした時行くんはたった一人で京の楠木正成邸へと赴きます。心配ながらも門前で待つしかできない逃若党。吹雪「しかし意外だ。日本全国で武名が轟くあの楠木正成が

あのような…時として卑屈さすら漂う男だったとは」

というこれまたヒドイ、そして的確な評で語られる大楠公。そして台詞に被せられるように台所の握り飯を頂戴する軍神もそうはいません(笑)それにしてもここら辺の庶民のオッサン風であるのもご愛敬。どうにも「帝から頂いた」広い屋敷ですが、大楠公にとっては「逃げ放題」の屋敷なのが持てあましている感があります。「軍神」とは似ても似つかない有様に困惑を欠かせない時行くんでしたが、前回教えを乞いたかった「弱者が強者に勝つ方法」を教えるために手合わせを要求します。計算されているのか、目の前の若君の正体を察したかのように「北条の大軍を打ち破った」というセリフが北条の御曹司であった時行くんに挑発するかのようです。時行くんが用意したのは以前に吹雪から教えてもらい、瘴肝を一度は死の淵に立たせた「鬼心仏刀」でした。かつて千早赤坂で挙兵した時のことを語る大楠公。あの時は味方の兵は寄せ集めで剣術さえ知らない者も多かった状態。そこから勝ったのは何故であるかを教えると

こういうメリハリついた迫力あるアクションを描けるのも松井センセイの持ち味ですね

さっきまで奥さんにヘコヘコして卑屈さ満載だった変顔オッサンはどこにいったやら凄まじい戦士の顔で斬りかかります。さて時行くんの「鬼心仏刀」は決まったかに見えましたが、なんと

一瞬でその技の正体を察し、先ほど台所からくすねた握り飯で防いでしまいます。

大河ドラマでは「悪夢」の代名詞として名高い「おにぎり」ですが、ここでは非常に効果的に使われています。

刀での対戦だから、刀で戦うものと思っていた時点でそこには「囚われている」ということを教える大楠公。刀で勝つことに囚われれば刀が強いものしか勝てない」…固定観念に囚われていては結局のところ強者には勝てない。弱者が強者に勝つ秘訣は「固定観念」という囚われの檻から飛び出てしまうこと。満足な武芸を持たない者でも戦えるようにしたこと、それを巧に表現したのは

「赤子でも糞を出して投げる」最弱の者でも戦える方法で戦えば、いかに強者の軍隊といえども互角に戦うことができる

逃即是生

「体面を重んじ、何よりもそれに命をかける」という武士の価値観とは全く異なる論理を時行くんに教える大楠公。それにしても

相変わらずヒドイ言われようww

それにしてもこれほど「固定観念」という檻から脱した「自由」な人が最後は「忠誠という不毛の檻」に囚われてしまうとは皮肉な話です。後醍醐帝というカリスマの怪物に囚われてしまったことに…

 

〇同志として

更に部屋へと案内されますが、俗にいう「汚部屋」それにしてもウサギやら土偶やら不思議なものが一杯ありますが、なんでも「戦に使える物はないか試している」そうです。そこで時行くんに与えたのは「後醍醐帝から執筆を命じられた記録書」の下書き。もしそれが現存していたらどんなに後世役に立ったことでしょうか…それこそ『太平記』の「うーん、これ怪しすぎるんだけど他に史料ないしな~」なんて苦悩することもなかったでしょう。さてその下書きとして与えられたのは

まあ字の良し悪しと知的教養は全然関係ないので仕方ない。有名な『資本論』のマルクスなどもその草稿は恐ろしく悪筆で、当人が亡くなった後で著作として出版しようにも常人には判読不可能。盟友で彼の思想や知識を誰よりも理解していたエンゲルスが解読しながら、ようやく完成にこぎつけたくらいですので。いずれにせよそこに書かれた内容は同じ「逃げを愛する同志」として託すのだと。僅か一瞬の邂逅で「同志」として惹かれあうまでに至った時行くんと大楠公。この邂逅がやがて彼の後の軍歴に大きな影響を与えることになるでしょう。

そこへ現れた少年、その名前は多聞丸。楠木正成の息子にして後の小楠公です。

『桜嵐記』の主人公キター!!

この人はこの人で後に数奇な運命をたどるという意味では時行くんと非常に似た境遇の少年。共に同じラスボスに親を滅ぼされたという意味で…問題なのは多聞丸が語った内容で、何と他ならぬ仇敵・足利尊氏が明後日大楠公の屋敷での宴席に出席すること。ご丁寧に時刻、そして経路までも明かす内容を聞いて息をのむ時行くんと逃若党。

吹雪「尊氏を殺す千載一遇の好機、天下を目指すなら逃すべきではありません」

いきなりのラスボスとの対決が巡ってきました。もちろん神の視点である読者からすれば

 

 

 

 

こんな圧倒的な強さのラスボスに戦って勝てるわけないやん

クリリンが宇宙の帝王フリーザ様に挑むようなものだって、無理だって

という感想しか出てこないのですが…遂に巡ってきた第1話以来の主人公とラスボスの対峙、どうなりますか?