いつの間にか『ナポレオン』感想記事が更新滞っていた…すみません。

何しろ週刊漫画の感想および城郭記事更新と続くと月刊誌の本作がなんと気が付いたら、3か月も滞っていたことに愕然とする私。「宿題」がたまる一方でこれはいかんと思い、しばらく記事作成活動に入ろうと思う次第です。それでは本編感想参ります。

 

〇皇帝去りしパリ近況

ナポレオンが去り、ブルボン王家が復古して平穏を取り戻したパリでしたが、やはりかつてナポレオンに仕えていた者たちにとってナポレオンは意識せざるを得ないもの。その一人が、皇帝からも周囲からも「裏切者」(殆ど成り行きだけだけど)と見られているマルモン元帥。兵士たちからはマルモンの部隊は「ユダ中隊」などと言われ、不名誉な扱いにされる存在。

まあこれでもまだマシで後には裏切り者の代名詞扱いされちゃうんですけどね。

しかもマルモンにとって屈辱なのは元帥なのに中隊長扱いされるのもまた辛いもの。そういう兵士たちの陰口を聞きながら軍務をするのですからストレスはMax。マルモンにとってはあまりにも理不尽な扱いでした。パリを無意味な戦火から救おうとしたら、そのパリ市民や兵士からは裏切り者の扱いを受ける。なぜ自分だけという思いがありました。ネイなんかは皇帝と面と向かって脅迫して黙らせたほどなのに。そのマルモンの頭に去来するのは犬猿の仲で戦死したベシェール元帥の影。かつてベシェールを「皇帝に忠実なだけで能力で劣る」と蔑視していたマルモンでしたが、そのベシェールは皇帝のために命を落として「忠臣」として名声を保っていられる。

ベシェール(幻影)「だが地位や名声を手に入れるとそれ(ナポレオンに忠節を尽くすこと)ができなくなる」

かつてベシェールが言ったように人は地位や富貴を手に入れるとそれを守ろうとするあまりに保身に走ってしまう。そんな人間の一面をほかならぬ自分に指摘されたことを意識していたマルモン。もちろんこの幻影はかつて奇しくも同じ親友のミュラが不仲のランヌの幻影を見たようにマルモン自身の後ろめたさの深層心理が生み出したもの。ほかならぬマルモン自身がそう思ってしまった状態から発せられるものでした。本来、手違いで「裏切者」扱いされて皇帝からも「変節者」と呼ばれてしまったことに対して本当はナポレオンの元へいたかったと抵抗するまるもんでしたが、

ベシェール(幻影)「では今すぐエルバ島へ行け」

マルモン「できねえよ・・・俺は元帥だぞ」

最早どうにもならないことを自覚していたマルモンなのでした。仇敵という幻影を通して、もう自分が「裏切者」としての境遇に甘んじなければならない苦悩の一面です。

 さてそのころ、タレイランがナポレオンに皇帝の称号を残した真相を明らかにします。フランス皇帝の座を追われた彼に与えられた

「エルバ島の支配者兼皇帝」

地中海の小さな島の皇帝の称号なんてそれこそ常識的な感覚の人間からすれば、あまりにも羞恥心を感じずにはいられない代物。連合国もそしてフランス人たちも皆そう考えていましたが、誰よりもナポレオンを知るタレイランは違いました。ナポレオンは心底自分が皇帝であるという強い思いがある。だから「エルバ皇帝」の称号も当然と思っているからこそ、それを残したのだ・・・つまり誰も傷つかない一石二鳥の策であると。

しかし事態はこの後タレイランの予想すら覆す事態となるのでした…たとえ小島の支配者にすぎなくなったナポレオンでしたが、そのカリスマ性は未だ健在であることを如何なく発揮したのが今回の話。

 

〇エルバの「国づくり」

ナポレオン・ボナパルトという人はもちろん君主としてみた場合、色々な欠点が取りざたされています。(特に後半生)その行動原理は一言でいえば熱狂情念。その「熱狂」する対象が戦争であったために多くの惨禍をもたらしましたが、本来政治に向けば少なくともこれほど勤勉な政治家はいないというぐらいの情熱的な為政者となる。それはエルバ島という小さな島の支配者という立場になっても変わりませんでした。

島の有力者たちと交流して彼らの心すら掴んでいくナポレオン。その一人がエルバ島の数少ない産業である鉄鉱山の経営者ポンでした。彼は元々熱烈な共和主義者であり、皇帝という存在を嫌っていました。ほかならぬナポレオンに対して「陛下」ではなく「伯爵」と呼んでしまう。しかも当人はその自覚はないくらいです。本来、根っからの共和主義者など皇帝にしてみれば不愉快な存在でしょう。しかしわれらがボナパルト君は違いました。

 さて早速エルバ島の国づくりのために島の状態把握に努めるナポレオン。流石にかつて「ナポレオン法典」起草に自らも人一倍働いただけにその勤勉ぶりが健在。彼はボンのことも高く評価していました。エルバ島は貧しい島で農作物はそんなに取れない。そんな島で数少ない収益を上げているのが鉄鉱山であり、その経営に大きく貢献したのがポン。そしてその鉄を原料としているのが、ナポレオンが活用していた「レジョン・ドヌール勲章」である。こういうきちんと細かいところまでもちゃんと見ていたのが為政者としてのナポレオンの美徳でもあったといえるでしょう。 

 領内の視察を朝から晩まで行い、学校やインフラの整備までエルバ島そのものを改造するかのように勤勉な統治者となったボナパルト。色々、批判があるにせよ、こうした勤勉な統治者としての側面はやはり高く評価されるべきものでしょう。しかし、彼にはある悩みがありました。

ナポレオン「このエルバを欧州一の楽園にしたいのに資金が無い!」

本来の連合国の取り決めではナポレオンには200万フランの年金が支払われる予定でした。しかし、それを負担するはずのルイ18世のブルボン王朝は「そんな約束俺らは結んだ覚えないもん!」と支払いを拒否。まあ結果としてみると彼らは200万フランの年金をケチったために後でそれとは比較にはならない莫大な損失を被ることになるのですから、まったく愚かしいというもの。

約束された年金はきちんと支払いましょう。特に英雄への年金を惜しむと後で離反されて、国をひっくり返されることとなってしまいます。

そんな事情のために鉱山の収入を原資にしようと明け渡せと要求するボナパルトでしたが、ポンは敢然と拒否。実はナポレオンのほうはポンと面識があったことを覚えていました。かつてツーロン戦(ナポレオンのデビュー戦)のころに料理をふるまってくれたことも覚えていたほどのすさまじい記憶力です。いつしかエルバ島では無茶な命令を出す皇帝とそれを拒否するポンの間の口喧嘩が定番となっており、むしろ周囲はニヤニヤするくらいというのもほほえましいことです。そうナポレオンは決して単なる暴君ではない。

たとえ面と向かって反対するものであってもその気骨をも称賛してしまうのがナポレオン・ボナパルトという男が凡百の独裁者との決定的違いというものです。

そしていつの間にか根っからの共和主義者であったはずのポンすらナポレオンに影響されるようになっていました。

ポン「わしを牢にぶちこめばええだろ!」

ナポレオン「君は法を破っていない。私は暴君ではない。だが!

君は勇敢で正しい。さらにこの私を何度も負かした」

手製で作り上げた勲章を授与してすっかり心奪われてしまったポン。

ポン「ありがとうございます『伯爵』!!」

ナポレオン「あんたは男だ」

出たよ、もう本作では鉄板の展開です(笑)

カルノーといい、たとえ面と向かって反対する者であってもその気骨を称賛するのはナポレオンの美徳の一つ。本作はナポレオンの負の側面を容赦なく取り上げますが、それ以上に彼の正の側面もあますことなく描く。まさに絶妙なバランス感覚のうえに成り立っている傑作なんですよ!そんなこんなで皇帝から勲章もらったことにウキウキして見せびらかす共和主義者(笑)

近衛兵からは嫌がらせで「木製の手作り」勲章ではない正規の勲章と交換してやろうかといわれますが…

 

ポン「100万フラン貰ったって断る!!」

この後ポンは根っからの共和主義者からすっかり皇帝崇拝者へと転身。後には自らセント・ヘレナへの随行を希望するくらいと解説で締めくくられます。

 

根っからの共和主義者をも心酔させるナポレオンのカリスマはいまだ健在なのでした。これは欧州諸国の支配者からすれば、セント・ヘレナ行にしないと枕を高くして眠れないのはある意味当然だったでしょう。