今回の記事でいくつかお知らせがあります。良い知らせと悪い知らせの2つでして、

良い知らせはまずは感想記事が連載に追いついたことでしょう。8月にチャカポンさんの歴史記事にエネルギー使い果たした影響で一時期ちょっとスランプ気味になっていたためにだいぶ引き離されてしまい、その後は何とか追いつこうと必死の毎日でした。悪い知らせとは今週はこれ

今週の逃げ若は休載となってしまったことですよ!

こんな形での「追いつき」は本意ではなかった。まあジャンプ自体が休みの週くらいなら仕方ないのですが、何しろ松井センセイはネウロ以来、休載の無かった漫画家。その辺の事情を考えるとかなり不安がこみ上げてきます。そして、今週月曜日ほど空虚に襲われた日は無かった。自分でもいつの間にか「逃げ若」が自分にとってはなくてはならないものとなってしまっていた。これ、果たして「逃げ若」が終了してしまったら、どうなるんだろう…それでは本編感想参ります。…とその前に

 

雫ちゃんのスペックに異議あり!

 

単行本3巻の雫ちゃん表を見て、これはちょっと…

 

家族として扱うと照れてフニャるという弱点はその通りですし、まあ子供ということだから多少スペック値低いのは仕方ないにしても、まだしも「知力」と「政治」が頼重さんより下とかありえないでしょう!今回なんか古の名将にも匹敵する軍略と凄まじい調整能力発揮しているんだからさぁ・

そんな登場人物たちの軍略性の高さ、それを読者にも分かりやすい形で表現できる上手さが本当に大河顔負けなのよ。おまけに主人公陣営ばかりがスペック高いわけではない。ちゃんと敵キャラもやられ役などではなく、主人公たちの裏をかこうと手ぐすね引いて待ち構えている。そんな味方も敵も高スペックな展開で、めっちゃ次回が気になる展開だっただけに、よりいっそう今週の喪失感大きいのよ…

 

 

〇戦略その1、拠点放棄による戦力温存

燃え盛る北条砦を見て、絶望感に襲われる逃若党一党。もはや砦を守る常岩軍と援軍として派遣されていた望月重信の戦死を見届ける羽目になってしまったショックは大きい。誰よりも涙を流していたのは望月の庶子という出自が明らかになった亜也子です。よく考えて見れば、本作は第1話の鎌倉炎上以降は主要人物やその関係者が死んだ場面はありません。死ぬのは大抵敵キャラか名もなき民衆だったので、実は逃若党結党以来の縁者死、それはショックも大きい筈です。涙にくれる逃若党一党

???「うぉぉぉぉん、悲しいのうぅ。恰好良い望月様が死んでしまったあああ」

時行くん「望月殿ぉ!?」

望月重信「よ、長寿丸」

といきなりの展開で望月登場!これには時行くんも目玉飛び出すドッキリオチでした。相変わらず豪快なキャラは変わっていないようです。生きていた父親が健在とわかって、感動の再会で抱擁しあう父娘。

亜也子「あいたた、父上痛い。アバラ折れてる」

望月重信「なにを軟弱な。望月家ではアバラを折って強くするのだ。おまえも折ってみい、ほれほれ」ギュウウ

時行くん(親子(・・;))

うん、たしかにあの父親にしてあの子ありだわ。って感動の再会に浸っている余裕はありません。ここで戦わずして北条砦を放棄した理由が明らかになります。常岩らの戦力及び砦の防備力ではとてもあの市河相手に守り切れるものではなかった。援軍も期待できない以上、ただ無駄に兵士を無駄に死なせるだけで意味はない。

そして拠点死守が無意味な以上は貴重な兵力を温存して置いた方が利点がある。山中に潜むことで市河軍の行動をむしろ掣肘できる。もし「中」の川中島の保科勢に向かえば、その背後を突くように見せかけるし、場合によっては挟撃することも不可能ではない。少なくとも市河は姿をくらました望月らを警戒して動けなくなる。

重要拠点を放棄して、逆に自由に行動することで大軍を戦わずして自縄自縛にしてしまう。

『銀英伝』で言えば、イゼルローン要塞を放棄して正規軍によるゲリラ戦を仕掛けたヤン艦隊

を彷彿させる軍略を出すとは凄いもの…

って即興で実行したために肝心の保科勢との連携できていませんでした。うーん、軍略としては見事なのに爪が甘い。とりあえず市河軍が動き出す前に至急川中島への強行軍で伝令に向かう逃若党。亜也子は父娘一緒にという時行くんの配慮で北への残留となります。

望月「線は細く頼りないが…なかなかの将器だな、お前の若様は」

亜也子「…うん。最近忠誠心爆上がりで困っちゃうの」

いや、どう見ても亜也子の中には忠誠心以外の心理働いているぞ。絶対にヒロインの座を狙っているぞ。すっかり無口なクールキャラだった雫ちゃんがすっかりデレデレになっているからも分かる通り、時行くんはすっかり天然モテ王子としての素質も開花させてきたようで…けし…けしから…見事なものですな。

 

 

 〇戦略その2、予備兵力抽出と戦力の集中

その日の晩のうちに保科の盟友・四宮までの強行軍を果たした逃若党。さすがの時行くんでさえ目が死んでいる。ましてや郎党たちは疲弊が半端ない。吹雪はもう目があらぬ方を向いてしまっている。

意外にも人使いの荒いブラック主君となってしまった時行くんなのでした。

ちなみにこの日の推定移動距離は諏訪〜深志(松本)〜川中島〜北条(飯山)〜川中島。

実に200キロ以上の距離を1日で走破したことになる逃若党。流石にこの日の晩は保科の陣で就寝。怒涛の1日を終えたのでした。その姿に1年前以上の成長を感じる四宮。なんだかんだで望月ら三大将や信濃国衆たちの心を掴んでいく時行くん。

 

翌日、保科と祢津の陣で開かれる軍議。

祢津頼直「望月は相変わらずだ。雑に動くがなんだかんだで良い方へ転ぶ」

どうやらこれが望月の特性のようです。童貞修羅の海野幸康、鷹による戦況把握の祢津頼直、豪快かつ出たとこ勝負の望月重信。それぞれ三大将の「強さ」の特性が3話かけて説明してくれました。さて、そのうえで現状、それぞれに均衡状態に陥っている戦況を打開するためにはやはり敵軍にとって一番の弱点である麻呂国司が焦点となります。小笠原貞宗と市河助房は強豪であり、それぞれ特異能力に秀でた武芸のものであり、撃破は容易ではない。そのため、「中」において人数は守護・国司陣営では最大の兵数がある国司軍だが、指揮官は無能。一方の保科勢は勇猛果敢な歴戦の将兵であることは前年の川中島の戦いで証明済みですので、何とか膠着状態を打破する必要がありました。そこで雫ちゃんが発言。前話で吹雪が何か「考え」があったのを見越していたようです。吹雪曰く「南」の深志砦は防備も固く、守備兵力が過剰であると感じられるよう。敵兵がどこに戦力を集中させるかが分かるなら、海野の武勇をかけ合わせれば、兵力を節約できる。その見立てでいけば、50騎は予備兵力として「中」の戦場に転用できる。しかし、雫ちゃんは更に奥のビックリ策を提言します。それは

祢津と鷹を「南」の深志砦に向かわせるというもの

祢津自身とその鷹を駆使すれば、偵察の人員でさえ、不要になる。100騎も残せば、十分持ち堪えられる目算でした。

雫ちゃん「祢津様が「南」へ行くのと引き換えに「南」の戦場から二百を引き抜き「中」に集中」

まるで魔法のように見事なトレードで一気に予備兵力を抽出し、「中」へ戦力の集中を可能にしてしまう。実はこれ、WWⅡ時のドイツ軍きっての名将フォン・マンシュタイン元帥が最も得意とした戦略なのですよ。その用兵の神髄は「重点形成による兵力の集中」少数の戦力で物量で圧倒的な連合軍に互角以上に戦えたのも、時には突破されるリスクを考えたうえで敢えて他方面の戦力を節約させて、主攻勢方面に戦力を集中、局所的な優位にたち、敵を撃破する。もっとも多くの将帥たちにしてみたら「そんなことをしたらもし敵が他から攻撃してきたら持ち堪えられない」というリスクを恐れて、出来るものではない。しかし劣勢な側が戦場の主導権を握るためにはそれしか方策はありません。

超一級の将帥が出すような軍略を披露してしまった少女・雫ちゃん

しかもこの大胆な提案は彼女自身の口から出たことが重要。何しろ、時行くんは表向きは未だ諏訪大社の見習い稚児、弧次郎と亜也子はそれぞれ諏訪神党の傍流、そして玄蕃は盗人、吹雪は流れ者と来ており、逃若党においてはもっとも対外的に顔を知られている存在。父親の頼重さんの名代として、諏訪神党の武士たちと調整を行ってきた彼女だからこそ多くの人も耳を傾ける。

時に大胆な軍略というものは「誰」の「口」から出たかで受け入れの成否が決まる時があります。

如何に優れた策であろうとそれがポッとでの人間が出したところでブーイングを買うだけの場合がある。しかし、雫ちゃんだからこそ受け入れられた。

こんな高度な行動が取れる雫ちゃんのスペックが↑とかやはりおかしいよね。

かくして大胆な配置転換を行われることになり、戦局を左右する重大な局面を迎えます。

 

 〇戦略その3,敵の最も重要な弱点を衝け

「南」においては既に砦の200の兵が「中」に向かい、海野・祢津の2人と少数の兵で守られることになった深志砦。もっとも流石に彼らの見立てでもこの状態では長くは持ち堪えられず、なんとしても「中」で三日以内に決着をつける必要がありました。既にここまでの時行くんという「逃げ上手の若君」の器量と才覚を十分認めるようになっていた三大将たち。今や時行くんはその存在を諏訪神党からの心を掴むまでに至り、いよいよ来る決起の時に向けての地慣らしは十分です。もっともそのために逃若党は走り回った影響でかなり疲弊している状態。副将ポジションの弧次郎も「若がかなりムチャをしているのではないか」と気がかりな状態です。おまけに相次ぐ移動に次ぐ移動と各戦場での役割分担のために、今移動しているのは時行くん・弧次郎・玄蕃の3人のみの状態。そんな時、海野が気がかりなことを口にします。完全なフラグ

海野「・・・・ただ上出来とはいえ子供の策でこれ以上進めていいものか」

逃若党の軍略は非常に優れたものでしたが、歴戦の海野が気がかりなのは「敵もまた策を巡らせていないか」というものでした。戦場では策をめぐらすのは味方だけではない。敵もまた策をめぐらせているもの。ましてや小笠原貞宗は歴戦の武士。果たして…その時、鷹からの情報で祢津はある異変に気付きます。「南」において、開戦以来全く動いていなかった100人ほどの本隊が展開していたはずなのに消えている。

小笠原貞宗「ちょこまかと逃げる伝令とはやはり貴様か、戦場で会えば容赦はせぬと言った筈だな」

そして懸念通りの展開に。貞宗は既に今までの展開から今回も時行くんらが裏で手を引いているのを読んで、敢えて自らと100の手勢を「隠し球」となって身を潜ませていたのでした。そしてこれは貞宗視点からすれば、軍略としては当然のこと。各地の反乱勢力を虱潰しに圧殺するというのは非常に手間ばかりかかるものです。しかし裏で暗躍している(貞宗視点からすればです)頼重さんとその手先である逃若党を補足すれば、信濃における隠然たる敵対分子である諏訪という大勢力を一網打尽にできる。まさにもっとも効果的な策というわけです。因縁深き時行くんらを補足するため、最後まで姿を隠していた貞宗と100の手勢。それが人数も少なく、消耗しきった逃若党3人に襲い掛かり、遂に最大の危機を…

戦いとは主人公陣営「だけ」が軍略を展開するものではない。敵もまた策をめぐらし、火花を散らすそんな高度な戦術までも披露しているハイレベルな漫画と化した「逃げ上手の若君」

あー、もう次の展開が気になって仕方ないよぉ!!早く月曜日が来てください!!