遂に足利尊氏が少年漫画のコミックの表紙を飾る時代になりました!それにしてもどうよ、このおどろおどろしい雰囲気の表紙は(笑)時行くんと頼重さんの表紙は目もくらむような金だらけのド派手な雰囲気とは対照的です。まさに多くの人間の運命を狂わせる魔人、如何に主人公陣営が高いスペックを持つ少年少女だとしてもどう考えても勝てる気がしない圧倒的なラスボス感。それでいて読者の目をくぎ付けにする圧倒的なカリスマ性。

南北朝時代の圧倒的主人公

尊氏と心清き(爆)足利家郎党たちが登場すると感想記事も2割増しになってしまう困った現象が発生してしまいます。気が付いてみれば、家の本棚に南北朝時代の書籍が大量に発生する南北朝フリークに転身してしまった(笑)そして最大限の興奮となったのが今回の話です。

何しろ心清き(爆)足利家郎党とそれを従えるラスボス・足利尊氏の真の目的が明かされるということで読んでいて大興奮!!やはり何といっても今回の注目ポイントはこれでしょう

 

 

 

第5話での尊氏の伏線と何よりもその内面に潜む「鬼」の正体の一端に触れられたのが嬉しかった。実は護良親王デビューの回で明かされるという期待があったのですが、残念ながらこの回では触れられず。そして32話離れた今回でようやく明かされることになりました。松井センセイによる「二番目の改革者」という歴史的に重要な概念

を取り上げるという非常に高度な知的分析がないと成立しえない本作。歴史漫画としても非常に教養高い。もうこれは松井センセイに感謝です。そして性癖面ではまっとう(自己主観)を自任する私もだんだんヤバイ方向へと向かわせてくれます。ウン?それは尊氏並みの客観性の欠如した主観じゃないかって?気のせいだ!それでは本編感想参ります。

 

〇心清き(爆)足利家郎党始動!!

冒頭、喧噪包まれる雑訴決断所、ここは後醍醐帝が最も「建武の新政」で重視した部署であり、ここで土地問題を取り扱う民事裁判所でしたが、その内実は収拾がつかない大混乱状態。所領安堵のダブルブッキング、それに伴う所得の喪失、再確認と人々は口々に訴え、パンク状態に。確か大河ドラマ『太平記』でもギバちゃん演じるオリキャラ・ましらの石で似たようなシチュエーションがあったよな。まあ石がこの時に根拠にしたのが幕府転覆の謀反で刑死した日野俊基が遺した書付という客観的に見ると「いやそりゃ無理があるってもんでしょ」というものでした。いずれにせよ、パンク状態の裁判所では自助で乗り切れ!という丸投げ状態となります。それ等全てを冷徹に観察している書記役の職員が一人いました。足利家執事、南北朝時代のオーべルシュタイン感溢れる高師直でした。黙々と職務をこなしながらもそのドライアイス感の冷徹な視線が溜まらん。

 解説にもある通り、鎌倉幕府打倒に成功した後醍醐帝が目指した天皇主導による改革政治「建武の新政」は1年もたたないうちに破断界を迎えようとしていました。以前にも記したように後醍醐帝の方針は決して古のような「貴族政治」とは一線を画するものであり、決してよく言われるような「武士を無視した」政治を行っていたわけではありません。むしろ従来の皇族・公家たちの方から総スカンを喰らうくらい武士たちを優遇していました(後に南朝の柱石となる北畠親房・顕家親子でさえ、建武の新政には批判的であった)ただし、そこには一つの条件がありました。

後醍醐帝と良好な関係を築けているかどうかです。

後醍醐帝と良好な関係を築けていれば、むしろ身分にかかわりなく登用され、建武の新政に参画できるというもの。実際、先の雑訴決断所の職員には楠木正成を始めとした倒幕の貢献した武士たち、更には旧鎌倉幕府に仕えた武士官僚も多くが職員として勤務していました。しかし逆を言えば、それ以外の者からすれば不公平極まりないものでありました。彼らからすれば帝お気入りの公家や武家にだけ手厚く優遇されているようにしか見えないもの。

もっともその建武政権に対する不満分子の衆望を担って、政権をひっくり返したのが最大の受益者・足利尊氏だったのですが

 

いずれにせよ、後醍醐帝に対する人々の怨嗟は高まる一方であり、その錦旗は今や黒い暗雲が漂う不穏な空気で一杯になります。

高師直「あの裁判の仕組みはゴミだ。手続きが煩雑なうえ誰も裁決に従わない」

建武政権に仕える立場となっていた心清き(爆)足利家郎党たちによる毒舌合戦。中でもやはり師直の毒舌は辛らつにして強烈です。何故うまくいかないのかを冷静に分析し、それが「武力をもって従わないものを叩き潰す」という強制力が足りないからだと一刀両断。実際には固有の武力を持たない後醍醐帝には最初から無理であるとこちらは『太平記』的師直イメージを具現化したような弟の高師泰が寝そべりながら指摘します。どうやらバサラ大名的なイメージは弟の師泰が一身に担うようです。更には大内裏造営のために全国規模での増税を準備しているとの郎党からの情報に

高師直「面白い御冗談だ」

これもまた辛辣に批判。まあ為政者、なかんずく武力によって天下に覇を唱えた覇者が巨大建造物によって自らの勢威を天下に誇示するというのは古今東西同じことであり、豊臣秀吉や徳川家康の大坂城や江戸城を見てもある意味当然の事なんですが、如何せんこの時はタイミングが悪すぎました。既に鎌倉幕府打倒前後の戦乱で民力は疲弊しきっていた上に、建武政権は土地問題でしくじって人々からの不満をため込んでいる状態。増税などすればまさに火に油を注ぐ状態になること子供でも分かることですが、誰もが無理と思っていた鎌倉幕府打倒を自分のカリスマで成し遂げたと思っている後醍醐帝は明らかに有頂天となって、自分が陥穽にハマっていることに気づいていません。

心清き(爆)郎党A「しかも増税でも足りない金は紙の金を刷って支払うんだとww」

心清き(爆)郎党B「中華の真似事よ。この国では紙幣の概念なぞ向こう数百年は理解されまい(嘲笑)」

なんだ、ヒャッハーな外見とは裏腹の歴史情報溢れる高い台詞は!!

「楮幣」と呼ばれる日本史上初めての紙幣を持ち出した後醍醐帝。確かに帝が模範とした宋王朝で登場した「交子」「会子」にヒントを得たと思われますし、更にはこの時代においての中華の支配者である「大元ウルス」ではそれを更に発展させた「交鈔」が通貨として機能していましたので、既に「元寇」という未曽有の大戦も過去となり、元の間で交易関係も深まっていた日本でもそれを行おうとしても不思議ではありません。もっとも中国と日本では状況が違いすぎるうえにそもそも信用の裏付けとなるものが不在とあっては「中華の真似事」と一刀両断されても仕方なし。おまけに「大内裏造営の資金が不足しているからその穴埋め」などという権力者のケチな了見が見え隠れしては誰からも総スカンに遭うのは当然のこと。如何に革新的な政治を目指そうとそこに低レベルな意図が見え見えであれば、支持などされるわけない。これ古今東西普遍の法則。

建武の新政のは先進的な政策もあるが無駄な部分も多く現実に即さない

鎌倉幕府の統治機構は現実的だが、時代の変化に対応できなかった

高師直「我ら足利は二つの政権の長所だけをそっくり頂く」

そうこれこそが師直らの目指す天下取り方針でありました。鎌倉にいる直義が鎌倉幕府の官僚たちから統治についてのノウハウを学習し、そこに中央政権に参画して実務経験を積んだ師直らが合体すれば、まさに新時代の統治方法が確立する。史実においても師直にとって先の雑訴決断所での勤務経験は非常に重大でした。単なる足利家の一執事から天下を差配する武将へと成長する重要なキャリアアップの実務経験となったのです。特に後に師直が行った政策で革新的なのは「執事執行状」と呼ばれるまさに先の台詞を具現化した強制力を伴う土地問題の解決を図る手段を確立させたことが大きい。先の建武政権が図った土地問題を書面によって保証するというまさに革新的部分、そしてそれが実際にうまくいかなかった失敗を教訓として強制執行力を持たせたものでした。鎌倉幕府の時代には無かった政策であり、これもまた師直らが建武政権での勤務した経験が生きた結果であり、まさに建武政権の政策を取り入れた結果といえるでしょう。

うーん、本作は実にちゃんと最近の歴史的研究の知見を活かしている名作だ!!

もっともこの「執事執行状」は諸刃の剣ともいうべきものであり、先の鎌倉幕府を模範とした直義からすれば師直の専横と危険視されるものであります。必然的にこれらをもってしても恩賞に預かれなかった武士たちの不満は師直らに向かい、それが後々に高一族非業の最期を遂げる結果となりました。まあやはり恩賞問題というのはそれだけ解決が難しい問題であり、その意味では観応の擾乱とはまさにこの二つの政権の負の側面も取り込んだ「産みの苦しみ」でもあったといえるでしょう。

いずれにせよ、ここで心清き(爆)足利家郎党らがまさに建武政権に「浸食」していった理由が明らかにされました。そしてそれらすべては

高師直「全ては我が殿、尊氏様のため」

一同「応」「おう」「おう」

彼ら海千山千の郎党たちからも一身に忠誠を抱かせるまさにラスボス尊氏のカリスマが成せる業だったのです。

 

〇「鬼」が姿を現す時・二番目の改革者

屈強の衛士たちが次々に吹っ飛ばされるという凄まじい個人的な戦闘力を発揮するイケメン貴人がいました。以前に颯爽と登場しながら、尊氏の圧倒的武力とカリスマによって惨敗を喫した護良親王でした。これは嬉しい誤算。もうフェードアウトしちゃったかと思っていましたから。衛士たちは一斉に襲い掛かり、この武芸にも秀でた親王を遂に取り押さえます。これは彼の最期でも見せた並みの武将も顔負け…というかドン引きの抵抗した逸話から来たものでしょう。かくして建武政権の尊氏最大の抵抗勢力であった護良親王は謀反の罪というか完全なでっち上げを信じ込んだ父帝の命令で捕縛され、その身柄はよりにもよって政敵・尊氏に預けられるという屈辱状態となったのでした。それにしても汗まみれで取り押さえられた親王のハァハァ顔、これもまた見事な筆力でのイケメン描写です。

ここで今回の話最大の肝・尊氏の本性に触れる重要な場面です。

護良親王「尊氏よ、最も安全に改革を成功させる秘訣がある。

それは二番目の改革者となることだ」

「最初の改革者」が強引な政策によって旧き世界をぶっ潰す

⇒それによって人々には「最初の改革者」に対する怨嗟の声が高まる

⇒その怨嗟を利用する形で最初の改革者を打倒する

⇒それによって人々の喝采を手に入れるとともに「最初の改革者」に方針をマイルドに修正しつつ、その方針を手に入れる

歴史上でも重要な「二番目の改革者」の概念を分かりやすく説明してくれてありがとうございます。

ここで分かりやすい形で始皇帝の秦と劉邦の漢が登場しますが、日本史でもまさに武家政権はこの概念をもっとも忠実であったといえるでしょう。

平清盛⇒源頼朝

豊臣秀吉⇒徳川家康

幕府の創始者たちは前任者である「最初の改革者」が行ったサイクルをそっくりそのまま利用したといえるでしょう。大河ドラマ『平清盛』での頼朝の台詞「清盛無くして武士の世は無かった」はまさにその象徴。清盛の場合はそれまでの貴族政治から武家政治への転換を成し遂げたのが大きい。武家政治というと従来の見方では頼朝こそが創始者であるが実態としてはこちらの方が近い。実はこうした見方は古くからあって大正年間に主君・慶喜顕彰のために編んだ『徳川慶喜公伝』で「武家にして政権を取った者は平・源・北条・足利・織田・豊臣・徳川」の七姓を取り上げています。もっともそこに「国家国民のために敢えて犠牲にしたのは徳川家のみ」などという客観性の欠如した旧主顕彰なのがツボですが、いずれにせよ結構これは古くからあった概念なのでした。

そして他ならぬ徳川家康はまさにこの先例を忠実に実行していた節があります。秀吉が行ったので最も重要なのは「太閤検地」による土地と収入の一元管理で、これによって当時の大名たちの構造的欠陥であった「国人武士たちの盟主」から「上下関係のはっきりした中央政権」としての大名権力を強化させる。もちろんそれを保証したのが豊臣家による圧倒的武力であり、強圧的な統制と粛清は必然的に諸大名と既得権を奪われた武士たちの不満を一身に集める結果となりました。その気になれば、家康が秀吉と最後まで戦い、打倒することも決して不可能ではなかった筈です。実際に例えば、縁戚関係にあった(小田原)北条家と連合して、戦う選択肢もあり得ないわけではなかったのでしたが、家康は敢えてこの選択肢を捨てました。それはまさにこの「二番目の改革者」となること。彼は戦国大名の中で最も「先進的」な統治システムを確立させた奇しくも同じ北条家の統治システムを吸収することで力を強化し、その一方で豊臣家が行った失策の数々を観察して、それに対する教訓をもって天下取りに乗り出したのでした。

そしてここにも「二番目の改革者」としてその成果を手に入れようと狙う野心家が一人

護良親王が指摘したのまさにその尊氏の狙いを正しく洞察した結果でした。

その気になれば、鎌倉幕府を打倒した尊氏自身がそのまま後継者として幕府を開くことも可能であったはず。だがそうはせず、敢えて最初の改革者に全てを渡した。尊氏自身は全く政権での地位を望まなかったこと、その代わりに自家の郎党たちを多く建武政権に参加させたこと。

おお、ここで尊氏の行動原理のすべてが明らかになった!

まさに歴史を題材にした創作で溜まらないのはこういうちゃんと歴史を深く洞察し、それを作者が自分なりの物語の伏線として活用するところにあります。いや、本当に恐れ入る限り。そして図星になったかのようにここで尊氏の目が牢獄の格子で見えなくなります。そして…

 

 

ギャァァア!思わず護良親王と同じ表情になるくらい、恐怖の絵です。

ネウロでもお馴染みの松井センセイが描く「怪物」絵は恐怖感十分。以前はまだ瞳だけだったのが今や顔一面に出てきた。

尊氏「欲しがりの鬼…とでも申しましょうか。その者がこう呻くのです」

まだ全貌を顕したわけではありませんが、遂に尊氏の中に巣食う「オニ」の正体が明かされました。しかし「尊氏」自身の意識が語るにはこの「鬼」は平和な時代では無欲で大人しい。そして尊氏自身は本人の主観的には後醍醐帝への忠誠心で凝り固まっており、

大乱が起きない限りは忠臣のまま

でいられるとのこと。ここで重要なのは「大乱が起きない限り」ということは尊氏自身は帝に対して大乱は起こさない。でもだれかがそれを起こした時にはそれに乗じる気満々ということです。つまり尊氏を浸食…というより一体化させつつある「オニ」自身は自らは動く気がないということです。

やる気が出ないと恐ろしく無能だが、やる気スイッチが入ると有能過ぎて逆に周囲に迷惑をかける困ったちゃん

というのが稀代の尊氏愛好者の友人の評をこういう形で取り入れたか!と膝を打つ思いでした。史実の尊氏の常識的には理解しがたい言動・行動の数々、そして平時には何もしないのに、いざ戦乱が勃発するや恐るべき能力を発揮する。それを見事に分析してのけたこともう脱帽です。いずれにせよ「肥やし」とされた北条家や後醍醐帝からすれば、まさに憎むべき仇敵であり、後のこの両者が結びつくのはある意味当然のことかもしれません(豊臣家と(小田原)北条家の残党が結びついて徳川幕府に戦争を挑むようなものか?)

まあ史実の尊氏にそんな「二番目の改革者」なんて明確なプランがあったかというと疑問ですが

護良親王は悟っていました。その言動とは裏腹に尊氏がすでに帝の政治では早晩大乱が起きるのは避けなれないということ、そしてその時に尊氏の中に潜む「オニ」が全貌をあらわすだろうと。

護良親王「帝が恨めしい。こんな怪物を信頼されてしまうとは…!」

ここで『梅松論』での有名な台詞「武家(尊氏)よりも帝の方が恨めしい」とはきちんと踏まえているのが心憎い。そしてまだ第5話の段階では「瞳」だけだった「オニ」の目が既に全身に登場するようになっていました。

さしずめここから

これに「進化」した段階かな?

 

護良親王…能力も高く、それこそもっと脚光を浴びてもおかしくはないのにこれで出番終わりなのが勿体ない。彼もまた尊氏という絶対的主人公によって見せ場を奪われた悲劇の人といえるでしょう。父帝との間にこんな断絶を生み出してしまう尊氏、本当に罪な男。

 

〇大乱の主人公の見せ場いよいよ…

そしてその頃、まさに「オニ」が期待する次なる大乱の主役となる主人公にして護良親王の命運にとどめを刺す少年は庇護者からいよいよ来るべき時に向けての計画を明かされます。諏訪の山奥で気迫迫る稽古を行う武士たちに驚く我らが主人公の時行くん。頼重さんから彼らの正体が明かされます。彼らは諏訪まで逃げ込んできたのを匿った北条の郎党であり、近い将来の時行くん直属の兵となる武士たちなのでした。

時行くん「…この人には頭が下がる。いつも「暇か!」ってくらい絡んでくるのに裏では着々と準備を進めてくれている」

なんか時行くんをペットのようにじゃれ合っているようにしか見えない頼重さんでしたが、その裏ではキチンと仕事をやってくれている有能な頼重さん。うーん、でもそんなじゃれ合っている2人も本当はもっと見ておきたいのだがなぁ…でももう時間がない。そして今からの戦に向けて頼重さんの重要な郎党であるあの「諏訪神党三大将」に正体を明かす時がやってきたと告げます。なんでも一度は時行くんら「逃若党」に惨敗した挙句、ただの臆病者に成り下がったあの麻呂国司が大規模な戦の準備をしているとのこと。しかも以前とは雰囲気が違うということで、頼重さんのいう「来るべき大戦の戦力の総仕上げ」が始まります。ああ、遂に迫りつつある大戦

人ならざる魔神となりつつあるこの圧倒的なラスボスを相手にこの少年主人公はどう戦うことになるのでしょうか。いよいちょ風雲急を告げる展開にもういよいよ目を離せなくなりました。

 

早くアニメ化してもっと人気を集めてください。まさに尊氏の「オニ」のごとく!早くプリーズ!!