いやぁ、今回は食い入るように見てしまったよ。何がって?

未だかつてこれほど完璧な弟・足利直義は見たことないってことですよ

『太平記』に代表される足利直義のキャラというと大抵は以下の通りでしょうか

・兄の足利尊氏が「戦」を得意としているのとは対照的な政治家で「戦下手」

・復古的な保守派政治家で原理原則に良くも悪くも忠実、それがために現実に対応できない

・何よりも人気絶大な兄の陰に隠れて地味な存在

というものでしたが、今回は見事にそれらの固定観念的イメージを粉砕してくれました。いやそりゃ確かにこんなに完璧超人でイケメンでなおかつ超優秀(ここ大事)な政治家がいたら、現代でも黄色い声援で包まれていそうです。トップ当選は間違いなし。そして今回はそんな直義と彼が選抜した若手のホープたちが活躍する話。改めて、圧倒的なまでの人材が溢れる足利家の層の厚さが際立った今回。果たして時行くんと逃若党はこれと戦うことはできるのか?それでは本編感想参ります。

 

1.足利家特殊戦略作戦室「関東廂番」

鎌倉においては新たな若い指導者たちに向けられる黄色い声援。北条の世に比べて圧倒的に若返った存在は女性たちを歓喜の渦に湧き立てます。尊氏によって送り込まれた足利直義は戦災によって荒廃した鎌倉の復興と治安維持において大きな手腕を発揮。その彼が選抜して作られたのが足利家一門衆から選抜されたヤングエリートの「関東廂番」でありました。足利家の第一線の武将たちは未だ主将の尊氏がいる京に残り、一門の中で選ばれた若者たちで構成された集団。声援の対象は直義だけではなく、彼ら色とりどりの若者たちにも向けられたものだったのです。さしずめこんなものでしょうか

『ゴジラVSビオランテ』において日本を代表する怪獣王と対決する足利直義黒木特佐と特殊戦略作戦室のメンバーたち。鈴木京香女史に後年、『平清盛』では「忠正叔父さん」というムサ萌えオジサンを演じる豊原功補氏。ベテランの彼らも当時はまだイケイケのナウなヤングたち(死語)

 

まあ何が凄いって、これもあれだ。『太平記』だとこういうのは大抵、直義に対するネガティブなイメージとして「血縁関係に頼った縁故主義」として描かれがちであり、バサラ的武将たちを使いこなした兄尊氏に対して…という扱いですが、あの直義が単なる血縁のみをもって登用するわけがありません。そこはもちろん能力も重視されて選抜された集団でありました。そんな彼らの肖像をご紹介しましょう。

①渋川義季

「呆れたものよ、北条に恩ある者もいるだろうに恥もせずキャアキャアと」

ロングヘアにいかにも堅物的なこの長身男性は直義とよく似ている…というか彼の姉は直義に嫁いでいるというれっきとした直義の義弟。それは確かによく似ているはずだわ。もちろんその立場故に廂番のなかでは筆頭の一番組という存在。彼自身は歴史に名を残せませんでしたが、その忠勤故に彼の娘・渋川幸子は2代目将軍義詮の正室となり、3代目将軍義満の時代に大きな権勢をふるうことになりました。

今回の台詞にも代表されるように彼が重視するのは何よりも忠義。筋を通す人間に対しては非常に好意的

 

②岩松経家

「渋い事言いなさんな、渋川殿。良い波と良い女は迷わず乗るべし!」

渋川とは対照的にチャラい外見に日焼けした黒い肌にはだけた格好、鎌倉といえば湘南だからね…、完璧なまでのサーファーぶりという廂番の中では渋川とはありとあらゆる意味での対照的なキャラ。岩松は足利と新田、両方に縁のあるという実に複雑な立場の家。一応、新田一族に属しながらも、実は血統的には足利家という存在であり、その縁戚故にむしろ新田家以上に出世したという家柄。更に彼は新田義貞の鎌倉攻めにも従軍し、その実は尊氏との連絡を取り合っていたという仲でした。なお、サーファー風なのは実は史実の彼が阿波(徳島県)に所領を持っていた関係で水軍も保有していたことに由来しているとみられています。それにしてもこのマスクは一体何?

 

③上杉憲顕

「おお恐ろしい、岩松殿。風紀にうるさい直義様の前で女性の話など…」

エルフのような尖った耳に目の色が白黒反転したまるで悪魔風の廂番の中で一番人間離れした外見の男は足利兄弟と従兄弟関係にあり、そして恐らくは史実の直義がもっとも信頼し、深い絆で結ばれた男であります。上杉氏といえば、日本史上でも知名度で上位位置する武家の家。とはいえ、本作でも本人が言及している通り、元は京の公家出身という立場でありました。そんな中で足利兄弟の実母は上杉清子であり、それゆえ足利家と強い結びつきがありました。憲顕の父である憲房はその京出身という立場から情勢に通じ、一説には尊氏が鎌倉幕府に反旗を翻すにあたり、大きな役割を果たしたと言われます。更に尊氏らが一時、建武政権に敗れて西国に落ち延びた時にも尊氏・直義らの盾となって戦死するなどまさに足利家の天下取りにおいて欠かすことのできない存在でした。

その息子である憲顕もまた直義の下で活躍。父の後任として上野国守護に任じられた後は統治において手腕を発揮。それは直義からも賞賛されるほどの優秀な武将でありました。憲顕自身も直義には深い恩義があり、当人は直義の下で近侍したいと願っていましたが、直義はむしろ関東における南朝との戦争において彼が欠かすことのできないとして、この腹心に任せていました。観応の擾乱においては当然、直義派に属し、彼が没した後も尊氏と戦い続けていました。彼にしてみれば、慕っていた直義の命を奪った(憲顕の認識では少なくともそうだった)尊氏に対する憎悪の心があったともされています。その彼が足利家に復帰するのはその尊氏が没した後のことでした。彼こそ、関東管領となる山内上杉家の祖に当たる存在です。

口癖は「恐ろしい、恐ろしい」と言いながら、ちっとも怖がっているように見えないのがミソ。

 

④斯波孫二郎

「直義様はもうお堅い直義様じゃないですよ。服装も自由にさせてくれるし」

そして一番注目の的(?)なのはまさに松井センセイの好み全開のショタボーイ。前話で登場した時には甥にして養子の直冬ではないか?と推測していたのですが、残念ながら外れ。史実においての彼は斯波家長と呼ばれる存在であり、足利家一門にあたる斯波家の若き跡取り。史実的には廂番とは関係ないのですが、そこは「寄騎」といういわば見習いという形で登場となりました。うん、明らかに松井センセイ好みだから登場したんだな。後年、彼は未だ17歳という若さで足利家における関東・東北の総責任者となります。この時、建武政権側の主将はこれまた10代にして美少年として名高い北畠顕家。そう東日本における南北朝動乱はまさに

北条家の侍王子である時行くん

高級貴族の御曹司である北畠顕家

足利家一門のホープである斯波家長

少年たちがリーダーの三つ巴合戦だったんだよ!ナ、ナンダッテー!

これは絶対に中先代の乱後も描かれそう。だってここまできたら、顕家も登場させない筈ないんだもん、松井センセイの嗜好からして!!

 

2.足利直義の誤解①「教条的な原則主義者?」

明らかに当時の武士とはかけ離れたファッションの「関東廂番」衆。孫二郎からは直義の柔軟性を褒めたたえるのですが、

足利直義「いや、お堅いままだ。ここが京なら服装もびっちりさせる」

と現実をキチンと見据えた柔軟な対応を行う理由を説明する直義。荒廃した鎌倉において民衆に「正しい支配者」であることをアピールするためには彼らのような「若さと勢い」のある若者たちは恰好のアピール材料。それにしてもさりげなく新田義貞がDisられている(笑)戦後統治に失敗して結局京に異動となってしまった義貞に代わって、民衆の心をつかむために余念のない直義。おお、これは間違いなくとてもではないが、復古的な原則主義者とは違うぞ。直義が凄まじいのはあれほど後醍醐帝と(兄尊氏以上に)敵対的であったにもかかわらず、不倶戴天の敵高師直を打倒するために南朝と手を結ぶという非常識な兄・尊氏も一泡吹かせるビックリ仰天な奥の手を遠慮なく行ったことからも明らか。まあそれが悪い意味で前例になってしまってこの後、戦乱が泥沼化してしまったのですがね。

 いずれにせよ、直義が恐ろしいのは民衆の心を掴むためにいかにアピールするか全て計算ずくであること。そのためには自らと郎党たちをアイドルとして売り込むことも辞さない。

 

直義「鎌倉の民よ!諸君の平和は足利と廂番衆が必ず守る!」

「鎌倉に栄えあれ!!」

ジーク足利!ジーク足利!!

足利家家紋の二引両紋が描かれた大布を高々と掲げ、鎌倉の民衆…というか女性たちからの凄まじい熱狂に包まれる直義たち。

 

2.足利直義の誤解②「兄尊氏の影?」

改めてその熱狂度合には戦慄にも似た感嘆を禁じ得ない廂番衆。足利手ぬぐいグッズも売れ行き好調であり、廂番による物販で上場らしいとのこと。きっと直義のことだからこれもまた政治資金として活用しているんだろうなぁ…その恐ろしさはまさに兄尊氏にも匹敵するものであり、従兄弟にして兄弟を一番よく知るであろう上杉憲顕が分析しています。

上杉憲顕「兄の尊氏様は魅力で大衆を惹きつけるが、弟の直義様は計算で大衆を惹きつける。全く違う能力と手法で全く同じ結果が出せるのだ

おお、これ以上ない直義への賛辞でしょう。そう、尊氏はまさに天然ともいうべきカリスマで人々を魅了させているのに対して、直義はまさに全てを計算して、まさに尊氏と合わせ鏡のような存在。そしてそんな完璧超人の弟に対してもこれっぽっちも嫉妬の心を持たず、全権を預けた尊氏マジブラコンの鑑。

この直義は絶対に「弟とはつまらぬものじゃ!世間では何があっても将軍将軍としか言わぬ」とは絶対に言わない

じゃあ、そんなこの仲の良い兄弟が如何に決裂に至るのか?果たしてそれは本作で描かれるでしょうか。

 

〇廂番始動!!

と熱狂にあふれる大衆の中において、いきなり出現した血生臭い闘争。実は女性陣の中には直義の命をつけ狙う北条の残党が女装して、潜入していました。なお、実はこの直義暗殺未遂事件は建武元年(1334)3月9日に北条残党の本間・渋谷一族らが鎌倉奪還を目指して侵入する事件という実はれっきとした史実を基にしています。そして、そこで廂番が活躍していたこともれっきとした史実。いやぁ、本当に本作は非常に直義同様計算されつくした史実とフィクションの融合が凄まじいよ!こういうのが私も見たかった歴史モノ!!

 敵方でありながら、滅び去った北条家のために忠義を尽くす彼らを倒しながらも賛辞を惜しまない渋川。やはり彼にとっては何よりも「忠義を尽くす」ことが至上価値であるのでしょう。更に周辺に潜んでいた残党の武士たちが次々に襲い掛かる。その様子を見て、ある推測を働かせる斯波孫二郎。

斯波孫二郎「最初に鐘叩いたでしょ。この少人数の襲撃の合図ならあんな大きな音要らないんです」

なんだ、この非常に軍略度の高い知的溢れる台詞は。

しかもそれを10代の少年に言わせるし、本当に憲顕じゃないですけど「ああ、恐ろしい。恐ろしい」というセリフしか出てこない。さらに「こんなこともあろうかと」というセリフで防備まで用意していたという孫二郎。後年、鎌倉において少年武将たちと決戦を繰り広げるフラグは十分でしょう。かくして臨戦態勢に入った廂番とその場で全く動じずに政務に取り掛かる直義。実戦においては自分でも抜けきれない長すぎる刀、そしてサーフボードらしき鞘からこちらもまた大柄の得物を抜く渋川・岩松コンビ。対照的ながら息の合ったコンビネーションプレイを見せてくれます。恐ろしい、恐ろしいと言いながらしっかり敵兵を容赦なく斬っていく上杉憲顕と孫二郎。でもこの中で一番恐ろしいのは何といっても直義。矢が計算されないギリギリの高さで平然と政務の指示を出す。この豪胆さこそ直義が「戦下手」などというのが一方的な評価である証。『太平記』でクローズアップされてしまうのが「負け戦」ばかりなのですが、実際に彼は建武争乱期から実質的に足利家最高司令官として軍事指揮を執っており、何よりも有名な大逆転合戦ともいうべき「多々良浜合戦」においては兄の尊氏が「もうだめだ、俺は腹を切る」と死ぬ死ぬ詐欺をやらかしているのに対して、直義の方は自ら刀を振るって、彼の踏ん張りこそが勝敗の要素に大きく左右していました。そんな天下を動かす才能の塊のような男・直義。矢継ぎ早に出される台詞も一つ一つがキチンと手を抜かずに考えられています。そしてそんな中で最も「恐ろしい」と評されるのは…

⑤馬…じゃない今川範満「…」

何故馬?というかこの人本当に人間?

孫二郎ならずとも「?」「?」「?」となる謎の馬男。もちろん史実的には彼もまた足利家一門にして、静岡を語る上で欠かせない今川家の人間なんですが、未だに何故「馬?」なのかは謎のまま」初めて孫二郎と憲顕がギャグ顔になって、「ツッコミを許さない雰囲気の人」という評価。馬の真相はいずれ明かされるのかな?初登場時は本当に単なる「馬」と思ってしまったのは内緒だ。

 

〇若者VS子供の戦い

かくして北条残党による襲撃事件を見事に撃退した廂番。兄の尊氏は自らが圧倒的すぎる武力によって敵兵を一掃しましたが、弟の直義は優秀なる若者たちを使いこなすことで敵兵を一掃する。まさに対照的すぎるがそれでいて恐ろしい兄弟なのは変わりありません。

直義「うむ、私の政務も片付いた。飯でも食うか、諸君」

やだ、直義、本当に上司としても理想的…

かくして鎌倉統治において大きな手腕を発揮して、「北条の鎌倉」から「足利の鎌倉」へと変貌しつつある現状を報告で知ることになる時行くん。それにしても「海の幸は飽きた」とまでいう立場の廂番と、一食の鯛を食すために郎党たちがまさに命がけの任務で用意した逃若党との対比。中先代の乱で直接対峙することになる彼ら廂番とそれを統べる直義の優秀すぎるスペック能力はこれからの時行くんらの戦いが厳しいものになるという予感させるに十分でしたが、それでも時行くんは動じません。

時行くん「若さじゃ負けません。だってこちとら九歳だし。何より鎌倉への想いだけはどんな強者にも負けません」

まもなくこれほどまでに圧倒的すぎる強さの足利家兄弟をも苦戦させることになる少年たちの心強さ、本当にこの後の展開を思うと胸熱になります。

 

なおこれほどまでに優秀ぶりを発揮した「関東廂番」でしたが、この後メンバーの大半は(ネタバレ厳禁)となります。それを考えると中先代の乱で一番ダメージを負ったのは直義ではないでしょうか。観応の擾乱時にも彼らが健在であれば、また違った光景になっていたかもしれません。

(そもそも上杉憲顕しか後年のことが語らえていない段階でお察しください)

 

フィクション史上最も優秀かつ最強の足利直義が登場した本作。早く次の出番プリーズ!!