皮肉なことにここにきて誰もが完全に予想外となっていたナポレオンの戦術的勝利の連続。しかし、それは逆にナポレオンの未来を閉ざしていく結果にしかなりませんでした。勝てば勝つほど自らの未来が無くなっていくことに気づかないのはナポレオン一人であったのでした。今回はナポレオンを見限りつつ、彼に対する精いっぱいの義理を果たそうとしたタレイランが主人公の話です
〇首都パリでのポスト・ナポレオンへと走る人々
ナポレオンが国境地域で奇跡的な勝利の連続を収めていたころ、首都パリではタレイランがポスト・ナポレオンを見据えた体制の下準備を行っているところでした。そんな彼に接触している女性が一人。王党派のコワニ夫人であり、彼女は何とか革命で国外に亡命しているルイ16世の弟を復権させようと運動を働きかけているのですが、意外にもタレイランはこれを否定。この後の展開を知る人間からすれば意外なのですが、この時点では彼はブルボン家の王政復古には否定的。そんなタレイランには次から次へとパリにいるナポレオン帝国に仕えている人間たちが接触しているのでした。ナポレオンに仕えていた人間たちが次々にポスト・ナポレオンを見据えて、タレイランに接触してきている。もうそれは誰もが
皇帝ナポレオンに未来が無いと見切りをつけているかのよう。かつてナポレオンの幼年学校時代の友人で秘書として公私ともに近い関係にあったブーリエンヌもその一人。あれほど前半ではナポレオンと一緒にいたキャラでしたが、汚職に手を染めたという事情でナポレオンと距離を置かれていたのでした。それにしても懐かしいキャラが登場したものですね。彼がもたらしたのはナポレオンが兄ジョゼフに送られた手紙の写し。そこにはタレイランの裏切りに警戒し、自分に万が一のことがあった場合の遺言状のようなものでした。あれほど愛する息子のローマ王に対する扱いは敵国にゆだねるぐらいなら殺せ!という過激なもの。
タレイラン「やれやれ、皇帝は何を言っている。私が本当に裏切った時こそ皇后と皇子をパリの外へ連れ出すんだよ!」
とナポレオンの予想が実は的外れであったとこき下ろす。既にパリにいる人々は現在の状況を鑑みて、ナポレオンが戦死するものと見て動いていました。そしてその時のキーマンとなるのはタレイランであることが自他ともに認められている状況。裏切りを見抜いているナポレオン自身もそのことを逆説的にその価値を認めている。それにしても裏切りを見抜いていながら、それでも始末もせず、こうして健在なのがナポレオンの意外な一面でもあります。これが「総統閣下」や「同志書記長閣下」だったら間違いなく粛清されていたでしょう。
タレイランがこの時考えていたのが、ナポレオンが戦死した場合にはローマ王が国王となって、マリー・ルイーズが摂政となってナポレオン王朝を存続させる未来。意外にもこの時のタレイランはナポレオンへの恩義を口にしていました。既に将来性を見限りつつも彼へのせめてもの義理を果たそうとしているタレイランの複雑な感情が見え隠れします。
そこにナポレオンが勝利したとの知らせが入り、完全に予想外の動きに驚愕するタレイラン。それは完全に彼の構想を御破算にしてしまうものでしかなかったのです。
〇冴えわたるナポレオンの戦術
もはやナポレオン恐れるに足らずと完全に舐めていたプロシアの老将ブリュッヒャーの下へオルスフィエフが敗れたとの報告が入り、急いで部隊を展開しなおそうと檄を飛ばします。そんな連合軍の動きをまるで掌で踊らせるかのように次々に撃破していきます。まずはブリュッヒャーの本隊にマルモンの部隊を置きつつ、2月11日のモンミライユの戦いではロシア軍のザッケン将軍の部隊と対峙。この時、ナポレオンの兵力は1万1300とザッケンの軍1万8千人より数的に不利でしたが、モルティエを素早く展開させて、見事に撃破。
そこでブリュッヒャーとグナイゼナウのプロシア軍はナポレオンがいない南方でフランス軍が撃破したことを好機として、そこにナポレオンを寄せ付けて撃破する作戦に切り替え。しかしこれを見抜いていたナポレオンが監視につけていたマルモンの活躍で足止めされている間にナポレオンが帰還。更に撤退しようとすると、ここでもナポレオンの的確な指示でグルーシの騎兵部隊を追撃させて、見事に大勝利を収めたのでした。誰もが息をのむナポレオンの大勝利。少ない兵力を効果的に運用させたナポレオンの用兵家としての手腕に敵味方ともに圧倒されていました。
連合軍ではすっかりナポレオン恐怖症が蔓延し、将兵の間では士気が低下してしまっていました。一度はナポレオンを侮っていた老将ブリュッヒャーもすっかりシンミリ反省モード。
ブリュッヒャー「わしは調子こいていたわい。あのクソ野郎はバカみたいに強い。反省した。
だから、次こそ奴をぶっ殺す!」
グナイゼナウ「それでこそブリュッヒャー将軍です!」
そう、この不撓不屈さこそがブリュッヒャーの真骨頂。どんなにボコボコにされても闘志を湧き立てる老人力。これがナポレオンにとどめを刺すから分からないもの。
ブリュッヒャー「ワシらの戦いはこれからじゃ!」
とナポレオンへの闘志を新たにしたブリュッヒャーとプロシア軍。~『ナポレオン 覇道進撃』完~
はい、嘘です(笑)
〇ナポレオンから完全に離れたタレイラン
しかしこの劇的な勝利はタレイランにナポレオンから完全に見放す決意をさせてしまう結果しかもたらしませんでした。一度は拒否していたコワニ夫人に今度は自ら接触を求めるタレイラン。ついこの前、自分から門前払いしておきながら、今度は自分から接触してくるのがタレイランの厚顔ぶりです。勝ってしまったことで皇帝は連合国の条件を拒否するであろうと見切っていました(事実、コランクールさんの交渉はご破算になってしまいます)あれほどナポレオン王朝の存続に未練を残していたのですが、
タレイラン「こりゃ無理かなぁ・・・」
前線での目の前の勝利に心を奪われている間にどんどん人心がはなれていくことに気づかないナポレオン。既にあれほどナポレオンに対する鋼の忠臣ぶりを示していたサヴァリもタレイランが王党派の大物と接触しているのを目撃しながらもその動きを黙認する有様でした。
タレイラン「いい判断だ。焼けている家にいつまでもいるわけにはいかない。君も早く出なさい」
すっかり沈没する船の船長と化したナポレオン。もちろん最前線にいる皇帝は知る由もありませんが、最早目の前の戦いにのみ心奪われ、「いかに戦争を終わらせるか」という視点を完全に見失ったものがいかに勝利を収めようと未来が無くなっていく有様が可視化されているようで辛いものがあります。
一方の連合国でもナポレオンの予想外の勝利に頭を抱えている君主が一人いました。他ならぬマリー・ルイーズの実父・オーストリア皇帝フランツ1世でした。娘とは敵対する立場になっても、内に秘めた身内としての愛情は決して忘れていないフランツ帝にとってもナポレオンの勝利は娘を不利にすることでしかない。それはフランツ皇帝のナポレオンに対する言葉でよく表れていました。
フランツ皇帝「ナポレオンよ、わたしの娘と孫を苦しめているのでは我々ではなく、お前なのだぞ」
こういうフランツ皇帝の苦悩を見ると、のちに彼が娘とナポレオンを引き離そうとしたのもある意味宜なるかなとせざるを得ない事情が現れていました。いまや敵味方双方から歓迎されないナポレオンの活躍、それは戦争が終わらない泥沼化して、どんどん人心が離れていく結果にしかならない今回の話でした。