元帥たちの「名声の墓場」となったイベリア半島・・・そこで頭角を現した一人の名将がいました。

ルイ・ガブリエル・スーシェ

ナポレオンの元帥たちの中では知名度が低く、隠れた存在です。ナポレオンがもう少し彼を登用するのが早かったら、未来は変わっていたかもしれないほど有能な将帥でした。本作ではかなり初期から登場していたのですが、その時の彼のキャラは牛男というこれまた奇抜なキャラ。実はそれが今回にかかる長大な伏線であることが判明します。それでは本編感想参ります。

 

〇ランヌの置き土産

ランヌが健在であった1809年のこと、サラゴッサ攻略戦で市民に膨大な犠牲を出した結果に心痛めていたランヌは副将であるスーシェに助言を求めます。長年、ランヌの副将として活躍したスーシェに対する信頼の厚さを物語るように彼はスペイン人と協力して再建すべきと進言。その言葉に感じるものがあったようにそれは今までの大陸軍将帥たちとは一線を画するものでした。ほかの人間たちはスペインとスペイン人を支配する対象としか考えていないのに対して、ともに協力すべきと説くその理性的な姿勢。

ランヌ「スーシェ、君は最高の師団長だ。俺より優秀かもしれん」

こういう風に部下であっても、きちんと優秀なら率直に認めることができるのがランヌの間違いなく美徳の一つ。そして何で皇帝が君を元帥を昇進させなかった?という質問に「熱心な共和主義者であったこと」「マッセナを嫌っていた」ことが出世が遅れている理由と答えます。うーん、こういう風に率直にズケズケ言うのは確かに昇進できないタイプ。しかし、ランヌは違います。

ランヌ「俺はオーストリア戦線に行く。皇帝に俺の後釜はスーシェにしかできんと言っておいた」

と事後を託したランヌ。そしてスペインを去った彼は間もなく悲劇的な最期を遂げることになりましたが、こうして一人の将帥の未来を切り開いていたことで結果的に大きな貢献をしていたかと思うとなんか熱く感じてしまいます。こうしてランヌの推薦もあって、スーシェは初めて主将としてスペインの地で活躍することになりました。

 

〇ゲリラ戦における正しい対処法

粘り強くゲリラとの戦いで理性をもって臨むスーシェが行ったのは軍規の厳守と民政に力を入れることでした。ゲリラの残虐なやり方に憎悪で報復を叫ぶ部下には決して無辜の民には手出ししないように自制させる。今まで他の大陸軍将帥たちは兵士たちに報復で皆殺しにすることしかしていませんでした。スーシェはそれこそが、今の地獄を生み出していると「怒りは恐怖から生まれる」と諭し、更にはスペイン人に対する処遇の改善に心を砕き、大陸軍将兵であっても軍規を犯して民間人女性に非道な行為を行ったものには容赦ない厳罰を与えるという見事な采配ぶり。更には学校や病院の整備などの民生にも力を入れるようになり、行政官としても優秀さを発揮していました。

 スーシェの統括するアラゴン地方においては見る見る間に治安が良くなり、スペイン民衆もいつしかスーシェを評価するようになっていました。しかし、やはり外国人は嫌いということで感情的にはまだ受け入れらい空気があるようでこの辺のスペインの統治の難しさを物語っています。そしてスーシェはゲリラ掃討戦にスペイン人も協力させる方針を模索。部下たちも流石に「それは無理です」と述べるなどどう考えても無茶な方針ですが、彼の決意は固い。

スーシェ「最初から無理だと決めるな。やればできる」

 

〇フランスの「牛」の対決

とはいえ、スペイン人の心をつかむにはどうすればいいのかという点に思いを致すスーシェ。理性を重んじる彼ですが、スペイン人の心をつかむには理性より感情を重んじる性質、そんな彼らを従わせるのは理性ではなく、「原子の力」・・・

 

スペイン名物闘牛で牛頭を被って闘技場に入るスーシェ

必至に制止する部下のアスリブに対しても

スーシェ「私は理性的に考えたうえで理性を捨てたのだ」

とお前は何を言ってるんだ?と突っ込みたくなりますが、それこそが普段理性の塊として振舞いながら、心底には熱いものを持っているスーシェの持ち味なのでしょう。闘牛士をも死に追いやる荒牛との対決でスペイン人たちは大盛り上がり。そして突進してくる牛にもまったく微動だにしない有様にフランス兵もスペイン民衆も思わず声を失ってしまいました。そして銃を跳躍台にしてジャンプしてかわすという見事なまでに計算された動きで闘牛勝負に勝ったスーシェにスペイン民衆も歓声をあげたのでした。すっかりスペイン人たちの心をつかんだ様子ですが、冷静に「今日あったのは牛と牛の喧嘩だ」と述べているのが興味深い。

スペイン人「あんたはスペイン人並みにイカレているぜ」

スーシェ「それは否定しない」

とまで返したことでスペイン人の心をつかむことに成功したスーシェ。最後にスーシェの活躍で彼がスペインで成功を収めた数少ない一人となり、その結果彼の治める地域だけは安全にフランス人が暮らすことができたことが語られます。

ナポレオンも「スーシェが2人いたら、私はスペインを掌握できたろう」

と語る優秀な将帥スーシェ。残念ながらこの解説が登場したということは彼の出番はこれで終わりということですが、ナポレオン伝記では無名に近い存在のスーシェ、彼もまた時代を象徴する人物の一人です。