今回、ブルーレイでは第21話はドワイト・グリーンヒル大将役星野充昭さんとフレデリカ・グリーンヒル役の遠藤綾さんによるオーディオ・コメンタリー。つまりグリーンヒル父娘による対談、ここは本当に必聴でした。色々な他のベテラン声優さんたちとの絡みも聞け、やはり非常に聞いていて耳福でございました。↑上はそれを祝してこの画像を冒頭に掲げます。
フレデリカさんに幸あれ!!
 

金曜日の公開初日、深夜に映画館にて鑑賞。やはり最終章とあって、観客の数は多く、そして皆考えることは同じなのだなと実感していました。私的には非常に綺麗な終わり方で、これでノイエ版銀河英雄伝説は完結してしまうのではないか…と危惧していたのですが、そんなことは無かった。何と最後の最後であの組織の密談で終わるとは…しかもご丁寧にヤンを愛好する者なら誰もが憎悪してやまない(あ、これでバレちゃった)あの人も登場するとなるとこれはいよいよ続編をやることは確定でしょう。もっともそれがいつなのかは流石に分からないのですが。ここは期待したいと思います。そんなわけで遂に今回から第3章の感想を述べて参りたいと思います。
 
さてここで星乱編における最大の不満点を述べてしまいましょう。それは第19話感想でも述べたのですが。
救国軍事会議のメンバーの描写が非常に薄い

これに尽きます。帝国サイドは門閥貴族連合の面々が非常に表情一つをとっても非常に力をこもった描き方をしているのに対して、同盟サイドの救国軍事会議の面々は「理想」を掲げてはいても、メンバー個々の描写が非常に薄いので必然的にキャラとしては印象に残らない。まず今回ようやく救国軍事会議の実質的№2であるエベンス大佐がようやく登場しました。登場させるのなら、何故もっと前の場面で登場させておかなかったのでしょう。今回、石井さんの特徴的ボイスでようやく気付いたのですが、ただでさえ幹部メンバーが少なすぎるので出し惜しみしてまった感が出てしまいました。それ以上に私の不満だったのはオリキャラのガティ中尉。折角「ビュコック爺さんの副官で直属の部下でありながら、上官と敵対する立場」という、非常に作り手としては美味しいキャラだったのですが、クーデター後は殆ど活躍するシーンも無いまま、結局フェードアウトしてしました。ここまで彼の役割って、他の原作キャラの面々で充分代替できるものであり、何のために彼のようなオリキャラを登場させたのか理由がつかめなかったんですよ。設定的に再登場する必然性や自然性が見当たらず、何というか勿体ない幕切れとなりました。

最大の不満は結局クリスチアンの設定改変に対する回収が遂に見られないまま終わってしまったこと

第19話の時点では「いやもしかしたら、後になってヨブちゃんがベイのポジションとして彼を再登場させるかもしれない」という希望を捨てずにいたのですが、今回の話でそれが文字通り「儚い望み」で終わってしまいました。終わった…やはり先述のガティといい、設定改変でオリジナル展開をするのはいいのですが、それが後になって、何の伏線回収にもならなければ意味がありません。

とまぁここまでかなり批判的内容を述べておきました。ここからは純粋な本話感想を述べて参りましょう。

 

〇アルテミスの首飾りの「美」

石黒版では特に大きな特徴のない平凡な軍事衛星でしたが、ノイエ版では「アルテミスの首飾り」という呼称に相応しい実に優美なデザイン。こういうメカニカルに力を入れた描写にはやはりノイエ版ならではの魅力。今回、アバンではデモンストレーション映像として、「アルテミスの首飾り」の戦闘シーン(仮想)が描かれます。標的用の無人艦隊からの艦砲射撃さえも無効化してしまうほどの防御力を兼ね備え、そして12個ある衛星からの砲撃は非常に高威力を誇っていました。ヤンによってあっさり破壊されたために、軽く見られがちな「アルテミスの首飾り」ですが、この映像を見れば確かに「神々の黄昏」作戦の時にこれがあれば…というヨブちゃんの言葉が決して繰り言ではないことが分かります。ただ贅沢な注文をしてしまうと、こういう優美なデザインはむしろ「帝国的」なものであり、やはり同盟サイドはなによりも機能優先の無骨なデザインが特徴なので、どうにも同盟の兵器にはそぐわない感じがあります。

そんなこんなでまだグリーンヒル大将らは「まだ負けていない」と同志たちを鼓舞していました。

 

〇救国軍事会議の大義の否定

一方、「まだ勝っていない」ヤンは仕上げとなる準備を整えていました。バグダッシュを呼び、彼に与えた任務は「ある証言」をさせること。それはこのクーデターが実際には帝国のラインハルトの謀略であるに過ぎないというクーデター派の大義の全否定を行う、バグダッシュを始め、誰もが「見え透いた政治宣伝」と思っていましたが、無論「これは事実」と言う通りのを知っているのは事前に聞かされていたユリアンとビュコック爺さん、そして視聴者のみ。印象に残ったのはここでバグダッシュに対してのヤンの表情がそれらすべてを見通したように生き生きとした目で語っていました。それは、謀略を考えるのは柄では無いと言いながら、そのじつ謀略を考え実行に移す時は逆に楽しんでいるようにも見えてしまいます。

 遮断されていた筈のテレビ回線があっさり乗っ取られ、バグダッシュの証言がハイネセン中に流されるのに驚愕する救国軍事会議の面々。「災害放送の為の周波数帯を使って、直接送信している」という理由づけがなされていましたが、そもそも既にクーデター派はハイネセンにおいてさえ「地上部分」のみを実効支配している状況なので、恐らくはもう通信回線の掌握もできなくなっている証と考えるべきでしょう。大体、帝国からのテレビ映像さえ同盟全土であっさり放送されるようなガバガバ状態だからね

最早、この時代に有っては通信回線の遮断など不可能な状況にあると見るべきでしょう。ここで演出面で?だったのはバグダッシュの「暴露発言」で幹部連中、一度はリンチを不審な目で見ているのですね。最初これは「ああ、やはり幹部連中もリンチに疑いの目をもっていたなんだな」と思っていたのですが、その後の会話劇と矛盾が生じてしまう。ここはグリーンヒル一人がリンチを信じていたのに対して、幹部たちも内心では不審に思っていたとした方が良かったのではないでしょうか。大体、悪評サクサクのリンチが帝国から帰ってきた途端に「見事な作戦計画を用意してきた」という余りにも都合よすぎる展開にだれも疑問を思わなかったのでしょうかね。

 そしてリンチによる「真実の暴露」、ここ怖かったのは単にクーデターの作戦だけでなく、救国軍事会議の面々の情報が写されている。つまり誰と誰に接触すれば効果的とかラインハルトらは全部お膳立てしてくれていた、ということです。つまり同盟軍の内情は全てラインハルトに筒抜けであった、ということであり、本当恐るべき情報網です。かくして自分達が帝国の策略の道化でしかなかったと思い知らされた時に留めとなる知らせが入ります。ヤンによる「アルテミスの首飾り」破壊作戦が遂に開始。

 

〇宇宙に輝くきれいな花火

ここで自由惑星同盟建国の父、アーレ・ハイネセンのエピソードが登場。確かにこの部分はまだノイエ版では語られなかったのでここは必要な場面だったでしょう。そして巨大な氷の塊を質量兵器として利用することで一兵の損失も無く破壊の作戦を遂行されます。ムライからいくつかを残しておいた方がいいのではないかという意見が出されますが、ヤンは「軍事ハードウェア」への過信から来る「信仰」そのものを破壊する選択を行いました。実際、巨大な軍事城塞を築いて難攻不落を喧伝したマジノ要塞とかあっさり無意味になってしまった例からも分かる通り、軍事ハードウェアに過信した国家が崩壊、滅亡に至った例は多い。

 

 

 

 

ここ痺れたのは一切のセリフも登場させずに、かつしっかり時間をかけて首飾り破壊までのシーンを映像とBGMだけで見せてくれました。そして破壊の閃光は夜間であった地上部分をまるで昼間かと見紛うぐらいの戦功を発し、人々の目にこれ以上ない「救国軍事会議の敗北」をイメージ付けました。かくして、全てが終わったことを悟ったグリーンヒル大将はなおも抵抗を訴えるエベンスの意見を斥けて、降伏を決断します。歴史上を紐解けば、こういうシチュエーションに陥った時にグリーヒル大将のような「潔い」決断ができた人間ってなかなかおりません。大抵は「悪あがき」をして、更に状況を悪化させてしまうパターンが圧倒的です。何よりもリンチの「自供」が大きかったのではないでしょうか。もしあの時、リンチがなおも嘘をついていれば、彼がここで投了できなかったかもしれません。そこはやはりグリーンヒル大将の「良識派」としての一面が発露なのでしょう。

 

 

かくして最後に残されたのはリンチの後始末。只なぁ…ここやはり石黒版のグリーンヒル大将の感情の発露が上手かっただけにどうもノイエ版はなじめなかった。最初は淡々と語りながら、段々怒りの感情がボルテージのように上がっていき、最後には凄まじい怒声へと変化していく、その過程が非常に上手かっただけにどうもあっさりしすぎている感がありました。それにしてもここで思わず目を引いたのが、リンチが持っていたのはこの時代では非常に珍しい薬莢タイプの銃であること。ブラスター銃が主流のこの時代にわざわざクラシックな武装を用意しているのですが、これは帝国からの持ち帰ったモノでしょうか?かくして、グリーンヒルを射殺して自らも幹部連中によって蜂の巣にされるという最期を遂げたリンチ。ここ、見様によってはリンチによるグリーンヒルを道連れにした無理心中とも取れる描写でした。

如何に自分自身が招いてしまった悪名とはいえ、自由惑星同盟による政治宣伝の結果として更生する機会も与えられないまま、バッシングの連続であったリンチ。最後に同盟国章へ与えた流血はまさに彼が身を賭して行った復讐という意味合いを持ったものでありました。何でしょう、この誰も救われない結末は…

 

〇守りたいこの笑顔…

代行となったエベンスによるヤンに対する通信によって、救国軍事会議の降伏とグリーンヒルの「自決」が伝えられます。ここでのエベンスとヤンとのやり取りは若干台詞を変更していますが、おおむね原作通り。

「政治の腐敗とは政治家が賄賂を取ることではない。それは個人の腐敗であって、それを批判することができない状態を政治の腐敗というのだ」

これはまさに現代においても生きてくる台詞。わたしはノイエ版でも絶対に欠くことのできない台詞と思っていましたので、ちゃんと登場させてくれて安心しました。ここはまさに銀英伝の欠くことのできない重要なエッセンスであります。批判の許されない国家が行きつく先にそれにしてもここでやりきれないのは実を言うと、この後まさに同盟は「政治の腐敗」が更に進行し、ヤンたちはそれに対して何もできなままになってしまうのですね。

 

「提督、1時間、いえ2時間いただけますか。私は自分が立ち直れることを知っていますけど、でも今すぐは無理そうです」
普通であれば時間を短くするのが通例なのですが、ここでのフレデリカさんは逆に多くしてしまう所に彼女の衝撃の大きさを物語っています。そしてこの後、フレデリカさんによる落涙するシーン。父の訃報を聞いた後、彼女の目は意図的に描かれません。その代りに流されるのは本編では登場していなかった「父と娘の日常シーン」が走馬灯のように流されます。
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ああ何という、こっちまで泣けてきそうになります。いや本当にフレデリカさんの描写についてはマジ完璧すぎるのよ。どうも、やはりその辺のアンバランスさがどうもノイエ版の悪い欠点でもあるのですが…それでもこの後の彼女はまったく引きずらない完璧な対応でヤンをサポートします。
 
〇エゴイズムの怪物性の発露の物足りなさ

かくして内戦の後始末に追われるヤン艦隊の面々。軟禁状態にあったビュコック爺さんの所を訪問するのがいかにもヤンらしいのですが、ここで最大の衝撃映像が!

ビュコック爺さんの頭上が!!波平さんスタイルだったなんて!!(涙)

そういえば、今まで登場していたシーン全て帽子被っていたな・・・密会のシーンでもハンチング帽かぶっていたから全く気付かなかった…いや、別にハ〇なんて些末な問題じゃないかと思われるかもしれないのですが、私的にはやはり違和感があって仕方がない。

そしてシェーンコップからの報告で、ユリアンが「事件の最高責任者」を連れてきたという報告を受けるヤン。ビュコック爺さんを送り届ける帰りにトリューニヒトに遭遇するユリアン(ここでマシェンゴが既にユリアンの下にいるのが芸が細かい)。ただ…

何でヨブちゃんのセリフをカットした?

ここでの会話、ヨブちゃんの怪物性の発露としてはなかなかのものだったのですよ。ユリアンの素姓も把握している情報力、そして潜伏しているだけだったのに「私は非道な軍国主義者を打倒すべく長い間地下に篭って努力していたのだよ」といういけしゃあしゃあと言ってのけるその自信たっぷりのセリフ。ヨブちゃんの「魅力」がこれほど詰まった場面はこの後しばらくないだけにここを映像だけで終わらせたのは絶対にいただけません。この後のルビンスキーとボリス・コーネフの会話シーンの尺の少しでもいいから割いてほしかった。それまで単なる扇動政治家としか思われなかった人間が垣間見せた怪物性の発露なのに…

「この世はつくづく面白うござりまするな、HAHAHA・・・」

「・・・・なん、だと?」

あ、間違えた。これは違う次元のエゴイズムの怪物でした。

どうも最近、この2人のキャラの境界線が自分でも曖昧になりつつあって困るんですよね。この後、フェザーンに移行して、ルビンスキーがボリス・コーネフを情報工作員として同盟に送りこむ場面は概ね原作準拠。これ絶対、続編あるの前提だよね。