今月号で『ナポレオン』は連載開始から200回突破!!16年にも及ぶ長期連載、長谷川先生おめでとうございます!!

思えば最初の頃は「北斗の拳でナポレオン」なんてどんな作品だ?という戸惑いもしないでもなかったのですが、読み始めたら止まらない止まらない、今ではこうして定期的に感想記事にするほどのめり込んでしまいました。本作の特徴の一つに

主人公(ナポレオン・ボナパルト)が一番の悪党

であることで終始一貫していること、それでいてまさに多くの人間を惹きつけてやまない魅力を兼ね備えたおよそ「普通の人間」には計りかねない怪物でもある。そのパワーと危険性が如実に表れた回でした。それでは本編感想に入ります。

 

〇疫病神とおっかない爺さんの邂逅

そんな巻頭カラーはいきなり森の中で立ちションしていたビクトル君とルカ君が丁度プロシアの老将・ブリュッヒャーと出くわしたことから始まります。うわ!そりゃこんなおっかない爺さんと出くわしたらビビッて出てしまいます。良かったなぁ~丁度している最中で(笑)そして両者共に出すもの出してしまうと途端に

ブリュッヒャー「フランス人・・・おのれらあー!プロシアから出ていけぇ!!」

といきなり部下の騎兵を連れての2人を追撃する。確かにこれはハゲ(注:ダヴーのこと)より怖い雰囲気満載です。おお、流石敵将と出くわす確率が高いことに定評のあるビクトル、そしてすっかり同類と化してしまったルカでした。そして自陣に戻り、プロシア軍の接近を知らせると共に両軍共に動揺が走ります。一体何があったのでしょうか?

 

〇予想外のことは起こるもの…

話は前日に遡り、フランス軍とロシア・プロシア連合軍の首脳部会議から始まります。作戦会議の最中、ナポレオンは敵主力には自ら迎え撃つ準備をするとともにネイ元帥にリュッツェンとカーヤ村を抑えておくよう指示。ネイとしては村の占領自体は大したことはないとタカをくくっていましたが、ナポレオンは万が一の場合を想定して追加でネイに偵察を送るように指示。しかしネイがこの命令を怠ってしまったことがこの後の思わぬ事態を招きます。一方の連合軍は総司令官ヴィドゲンシュタイン(ドイツ人でロシアの将軍)も同じカーヤ村を押さえるように命令。奇しくも両軍共に自軍の目指す方向に相手側の主力がいないと誤認してしまっていたのでした。 

 さてビクトル君とルカ君は再編成で長らく因縁のあったハゲ上官(ダヴ―元帥)からネイの軍団に転属。素直に勇者の中の勇者と呼ばれるネイの軍団に入れたことを喜ぶルカ君でしたが、ビクトル君は

ビクトル「お前が皇帝だったらその勇者の勇者をどこに配置するよ」

ルカ「そりゃ激戦地にあ・・・」

かくしてめでたく最前線の軍団に転属となってなおも受難は続く模様。うーん、ダヴ―はこの後しばらくハンブルクに篭ってナポレオンと戦陣を共にすることは無いので結果的に後から見ればダヴ―軍団に残っていた方が良かったかもね。でもそれだと(影の)主人公が出番なくなるのでやむを得ないね。そしていきなり冒頭の「立ちションでブリュッヒャーと出くわす」場面に遭遇。

 

〇戦闘開始

そしてビクトルたちを追撃していたブリュッヒャーは前面に完全2個師団の兵力が展開していたことに驚愕。そう僅かな守備隊と思われていた相手側が主力軍ということにいち早く気付いたブリュッヒャーは素早く本格的な戦闘を決意したのは流石に歴戦の老将ぶりでした。

一方のナポレオンの本営でも交戦の報告が入り、皇帝からの命令を忘れていたネイは青ざめてすぐに救援に向かいます。

大砲の音からただごとではないことを察したナポレオンは

ナポレオン「教会を探せ、塔に上ってみるんだ」

当時の欧州では高層建物とは教会の尖塔。そして教会はどんな小さな町や村にあるものであり、いわば当時の戦争では重要な物見櫓でした。なるほど確かに教会の塔が何故あんなに高かったのかも納得です。そして尖塔に上がった将校からの報告で連合軍の主力を展開されていることを知ったナポレオンは素早く頭を切り替えて、全軍に展開を指示。ここに「リュッツェンの戦い」が始まったのでした。

 戦力的に不利な状況下でも必死に防戦する一方の2個師団に救援にかけつけるネイ。軍団の兵力の大半は新規に徴兵され、初めての実戦に震えている若い少年兵ばかりの状況にネイの瞳にはこれまでの戦いに熱狂していた今までとは異なる憂いを帯びたものが浮かび上がります。果たしてこの心境の変化はネイに何をもたらすのか?。

 

〇皇帝万歳!!

戦場に到着したナポレオンですが、自軍で既に劣勢にあることを素早く悟ります。既にネイの軍団は疲労と消耗でガタガタ、そして自軍は思うように展開できていない。ロシア遠征で歴戦の将兵を失った代償が重くのしかかります。そしてこの危機的状況で彼が取った決断は

ナポレオン「しゃあない、こうなったらやるか!」

既に劣勢に陥っていた前線では遂に新兵たちが遂に恐怖に駆られて敗走を開始。もはやこれまでか・・・と思われたその時

ナポレオン「お前たち何処へ行く。見て分からんのか?勝ち戦だぞ

ここで逃げる奴があるか。ほれ持ち場に戻れ」

と単騎で銃弾の飛び交う戦場に駆けつける皇帝陛下。すぐ傍を銃弾がかすめてもまったく動じず、それどころか自信満々で語りかける姿に少年達は

 

「こ、皇帝万歳!!」「皇帝万歳!」「皇帝万歳!」

漫画でも解説が入りましたが、まさに「それは魔法の輪のように広まった」まるで熱狂に感染していったかのように直近にいた仲間が「皇帝万歳」と叫ぶや次々に拡がって行く様はネイを始め将校たちもドン引きの光景。マルモンが後に回顧したようにナポレオンの軍歴の中でこれほど自分の身を危険にさらしたことはなかったそうです。

傑出した名将とは「その場にいるだけで圧倒されてしまうカリスマ」「姿をあらわしただけで人々が黙る」を保持しているものなのです。

まさに『銀河英雄伝説』の世界。まあナポレオンは元々『銀英伝』の元ネタの一つなので当然と言えば当然なのですが、それでもやはり余りにも物語じみていて「フィクション」と思われるのも無理はないです。

 

それにしても恐ろしいのは「手足を失った者、数時間以内に死亡するであろう者まで叫んだ」という一文。もはやこれは洗脳の域に達してしまっています。この光景はとうてい手放しで賞賛できるものでない、まさにネイ達同様に読者もドン引きさせることを意図して長谷川先生は描いたのでしょう。いずれにせよこのことで兵士達は熱狂的に戦いだして、連合軍はこの余りにも計算の域を外れた熱狂に押され出します。それでもブリュッヒャーは

「進め、前進じゃあ」と叫びますが、

ビクトル「あの怖い爺イ、発見!!くたばれハゲ!!」

スナイパービクトル節炸裂!これまでナポレオンに立ち塞がった多くの敵将(フッド、フェリポー、ブラウンシュヴァイク公、バグラチオン)といった戦場で斃れた将軍たちを狙撃しただけのことはあります(笑)それ以上に「ハゲ」ってどう見てもブリュッヒャーはハゲではありません。明らかに元鬼上官への恨みも込めていますね。やっぱり相当憎まれていたんだろうなぁダヴー(遠い目)それでもブリュッヒャーがやはり恐ろしい爺さんなのは

ビクトルの狙撃を受けても命を落とさなかった

ことからも充分その凄さが分かります。いやもちろん史実的にここで戦死されたら困りますからね。いずれにせよここで被弾したことで指揮権が消極的なヨルク将軍に移ったことでプロシア軍の戦意が衰えます。

予想外のフランス軍の熱狂的反撃、ブリュッヒャーの負傷という事態に劣勢に追い込まれる状況に焦りだすヴィドゲンシュタイン。自軍の部隊が思うように動いていないのは連合軍も同じ。特に近衛軍司令官トルマソフはヴィドゲンシュタインより先任という理由で指揮下に入っておらず、フランス軍がナポレオンの下で一糸乱れぬ指揮命令系統を抱えているのに対して、連合軍は指揮命令系統に難がある模様。そしてその最大の元凶はロシア皇帝その人

アレクサンドル「最終局面でさっそうと現われよう。超格好いいぞ」

亡きロシアの宿将クトゥーゾフが恐れていた通り、アレクサンドルが戦場に現れると絶対ロクでもありません。あれほど忠告したのに・・・これではクトゥーゾフも浮かばれません。

そして連合軍の足並みが揃わない中、遂にナポレオンは切札の近衛兵を戦場に投入!これで一挙に戦局は決しました。

 

ヴィドゲンシュタイン(ロシアの地でボロボロになったはずだ。潰滅しやっとこ集めた新兵で戦っているのにあいつはなぜ勝つ!

まさにナポレオンの恐ろしい所は追い詰められれば追いつめられるほどしぶとくなり、そして将才が冴えわたるドM用兵家であること。これこそ敵にとってまさに最高に厄介な所です。その意味ではむしろ用兵家のタイプとしてはむしろヤンに近いかもしれません。何しろラインハルトは逆境に弱くてすぐに「ここで死ぬ!!」とか言っちゃうからなぁ・・・・。

 

〇人ならざるものへ・・・

かくしてリュッツェンの戦いは連合軍の退却と言う形で終結。しかし勝利したというのにネイの表情は晴れません。幕僚のジョミニにその真意を打ち明けます。ネイと言えばそれこそ兵士達を鼓舞して戦場を駆け巡ってきた勇将。それなのに今日、皇帝に足元に及ばない。何故なら今戦っているのは子供ばかりであるからです。既に子供さえ戦場に駆り出しているほど人的資源が枯渇している危機的状況。にもかかわらずナポレオンは以前と変わらず、戦いを継続しようとしている。果たしてこの状況が正常と言えるのか…そしてナポレオンはそんな少年たちにも命を捨てろとまるで洗脳するがごとく死地に赴かせる。

ネイ「17歳の兵士たちの命は俺には荷が重い・・・」

ネイとナポレオンの差、それはネイが人間としての心が優しすぎるのか、それともナポレオンが既に人間ではなく怪物と成り果てたのか

ナポレオン「勝つためなら俺は何だってやる」

もはや人々は戦争へと駆り立てていく「怪物」のような存在となってしまったナポレオン。ただひたすら勝利の為ならどんなことでもやるというその姿勢は「狂気」すら感じられ、

もはや何のために戦っているのか分からず、ひたすら勝利を目指し続けるその姿勢は人間というより戦争の「神」と化しています。、

そりゃ、最期は孤島に島流しにされてしまうわけです。

人のいるところナポレオンは人々をまるで神のように操り、更に流血に導いていく。諸外国から敵視されるのも宜なるかな。もはや敵どころか味方でさえついていけなくなっているこの状況。果たして怪物と成り果てたナポレオンと彼を待ち受ける未来は?