今回の話は有名な「ナポレオンのアルプス越え」!!

にガイド役を務めた青年の視点を通して描かれます。本作の有り難い所はナポレオンや将帥たちのような「用兵家」視点だけではなく、こうしてビクトル君らのような兵士たちや今回の主人公のような庶民の視点から見た「ナポレオン」を描いている所です。『銀河英雄伝説』も石黒版では初期にはこのような兵士達のオリジナルキャラが登場したのですが、残念ながら途中でフェードアウトしてしまいました。その点、本作では随所随所で色々な人物たちが登場するのでこの視点が途切れることは無い。常に主人公の一方的視点では見えて来れないものがあります。

さてナポレオンが世を去り既に数十年が経過した時代、有名なナポレオンのアルプス越えを描いた絵画を展覧する人々、その中にある老夫婦が懐かしそうに見ていました。婦人は夫に語りかけます。彼はこんな感じだったの?と、老人は思い浮かべた姿はおよそ目の前の絵画のような荘重さとは裏腹に粗末な驢馬にまたがって雪の中をトボトボと歩くナポレオンの姿を思い出し、ふっと笑みを浮かべます。

(史実では大体こんな感じだったそうです)

 

〇発想は空想的、実行は現実的

さて北イタリアを主戦場と定めたナポレオンはジェノヴァに籠城するマッセナ将軍の部隊を救援するために出兵を決意します。通常、フランスからイタリアへと出るにはアルプス山脈と地中海に挟まれた狭い地峡部分を通過するしかありません。もちろんオーストリア軍としては百も承知。ここに軍を展開させて待ち構えています。ナポレオンが考え付いたのが有名なアルプス越え。かつてカルタゴのハンニバルが成し遂げて俺にできないわけがない、そして険しい地形だからこそオーストリア側も想定していない。背後をとることができると決断。そして前回の話で陸軍大臣に就任したカルノーが早速その手配を手際よく行うのでした。

さて編成された予備軍の行軍の様子を観察する男達がいました。オーストリアの間諜たちで彼らは余りにも華々しく宣伝された新編成の予備軍が寄せ集めにすぎないと軽視。しかし一人の男は追いすがるように予備軍を追跡します。やがて男は自分達がまんまと一杯食わされ、そして予備軍の向かう先がライン方面(ドイツ)ではなく、アルプス(スイス)であることを悟ったのですが時すでに遅し。

 

さてアルプス越えで有名なカルタゴの名将ハンニバルの時は膨大な犠牲の末に見事に達成したのですが、ナポレオンは実行準備にあたっては念入りに行っていました。この点はろくに準備も調査も行わず「ヤマトダマシー」だの「信念があれば困難も乗り切れる」だのという悪しき精神主義の権化と化した某帝国との雲泥の差です。(つうか今も変わっていない)

聞いていているか牟〇口?

実際にこの時のフランス軍は大きな犠牲を出すことも無く見事に達成したのですから、ナポレオンが構想においては突飛であっても実現においては最大限の入念な準備を行っていたことは充分偉業と言っても良いでしょう。

 

〇地獄の使者到来!!

さて今回の主人公となるのがスイスのサン・ピエール村の青年・ドルサです。彼は同じ村の少女であるフランソワに恋心抱いているのが誰が見ても丸わかりなのに言い出せないもどかしい状況のようです。それにしても

フランソワ「あんな大きいベッド何に使うの?」

ドルサ「そ、それは・・・」

といやそんな下世話な会話はいいから。つうか彼女に部屋の掃除させる関係でそんな奥手は無いのじゃないかなぁ。とそんなもどかしい状況でドルサにとって大きな歴史の転換点が到来しまう。なんと彼はフランス軍4万人の将兵を案内するという大役を任されたのでした。ここで伝聞と言う形でナポレオンが言った(とされる)有名すぎる台詞が登場

ナポレオン「フランス語に『不可能』と言う言葉はない!!」

伝聞なのはやはりこの話、典拠としては怪しすぎて直接描くというのは抵抗があったのでこういう形で「これはあくまでも巷説ですよ!」という無言の意思表示ですね。村人としては食料も集めて経済的な褒賞を期待したいのですが、一方で踏み倒されるのではないか…と不安顔。無理もありません。当時のフランス軍は一応建前としては

「欧州諸国の人民を専制権力の圧政から解放して、自由と平等を約束する」というお題目をかけていたのですが、勿論その続きがあります。

「解放してやる代償として食糧と金品をだしてもらおうか」

だったのですから。そのためにフランス軍からの「解放」を恐れる民衆は逃げ惑っていたそうです。むしろ「自由と政治的権利」ばかり唱える自由惑星同盟軍よりもいっそ清々しいぐらいです。そして不幸なことにその予感は的中してしまうのでした…

 

そして村では案の定トラブルが発生。フランス軍兵士がフランソワに狼藉を働こうとしてドルサは止めようとして暴行を受けるのでした。

ランヌ「教えてやる。女なんてどうしようもない生き物だ。命がけで守るんじゃねえ」

とナポレオンの案内人であるドルサに対してきつーい宣告をする男ランヌ。まあ最初の妻は出征中に不倫して相手の子供を出産。そして追2話前のナポレオンの妹のカロリーヌの一件もあってかいつになく厳しい言葉。そこを

ドルサ「あなたの周りにロクな女がいなかっただけで…」

と正論過ぎるツッコミを入れてランヌから蹴りまで入れられてしまいます。まあ本当のこといいやがってと言っていたので口答えしてみせてまで彼女を守ろうとしたドルサを「男」として認めたのでしょう。まあそんなこんなでランヌのおかげ(?)で事なきを得たのでした。

ドルサがナポレオンの乗る驢馬を曳きながらグランサンベルナール峠を越えるフランス軍一行。彼の的確なアドバイスで進み、ナポレオンはこの青年に興味を持つのでした。「文無し」だから彼女に求婚できないと悩むドルサに対してナポレオンは彼流の「女性観」を述べて彼のケツを叩くのでした。何となく荒くれ者なナポレオンと実直なドルサとは「男」といっても違うようです。

と、そこへ発砲音が響き、ナポレオンを銃弾がかすめます。発砲したのはあの間諜の男、親衛隊が発砲しようとするのですが雪崩を恐れて発砲することができず「壁」となってナポレオンの盾となろうとします。男はかつてフランス軍に虐殺されたイタリアのビナスコ村のクロイセと名乗り、ナポレオンに復讐を遂げようとしていたのでした。遂にナポレオンは業を煮やして発砲。案の定雪崩が一行に襲い掛かりますが、ここでドルサの機転が利き、被害は最小限となったのでした。彼の仕事ぶりを認めたナポレオンは彼に殺し文句である

「お前は男だ!」と述べて金貨を与えるのでした。ナポレオンに触発されて男となったドルサは見事に幸せを掴み、そして・・・

 

老ドルサ「彼はまさにこんな感じだった」

と笑いながら答えるのでした。事実の姿がどんなものであったか関係無い。ナポレオンは伝説上の存在としてまさにこのような「雄姿」として人々の求める「英雄」像そのものであったのでした。そしてそんなラストにかかる有名なオチで締めくくられたのでした。長谷川先生は紹介した時は「良い話」と思って紹介したのですが、世評としては「ひでーオチだ」と言われたそうです。そりゃそうだ。ヒントとしては

「戊辰戦争時の明治新政府軍が物資調達のために出した借用証を現在の日本国政府になってようやく支払った」というようなものですからね・・・。

そんなこんなで何か今回は珍しくホノボノ話で終わった回でした。まあここから先はいろんな地獄絵図が待っている回なので今回の話はなかなか「癒し」でした。

グラン・サン・ベルナール峠