〇山上に甦りし古代山城
城というと江戸時代の高い石垣と櫓と門を構えた近世城郭ですが、実は1000年以上前の古代にそれらを築き上げていたことを知ったのは丁度岡山県総社市にある鬼ノ城でした。古代山城というと余り注目が集まらないためにこれまで私も見向きもしませんでした。しかし、ここを訪れた時には古代人スゲェ!!と素直に感嘆せざるを得ない、そんな驚異の土木技術に触れて、私も「古代山城」に興味を持つようになったのです。ここの凄さは公共交通機関でのアクセス手段は皆無という訪問難易度の高さとともに山上に山城に必要な復元整備・及び施設(ガイダンス施設・展望台)が充実している点にあります。それでは1500年前の驚異のテクノロジーの城をご紹介します。
 
〇アクセス手段は車か徒歩のみ!頂上までの5キロ
12月半ばの肌寒くなってきた季節の日曜日、再び大阪から岡山まで普通列車での列車旅をスタート。相生までの新快速列車に乗車、ここまでは普段通り
相生からは一気に昔ながらの光景に戻ります。115系の湘南色、すっかり懐かしい存在です。
丁度朝ラッシュ時でしたので7両といつもより多め
岡山駅にて特急「やくも」
ここから吉備線に乗り換えます。相変わらず変わらんなぁ・・・
そして総社駅までの2駅手前の服部駅にて下車
ホームから北の方に見える山があります。
てっぺん付近が茶色く見える部分が、鬼ノ城がある鬼城山です。標高約400メートル
 
服部駅は周囲は学校の他は田園が広がる無人駅
さて鬼ノ城まではバスなどは走っていません。車の無い人が鬼ノ城まで行くにはどうしたらいいのか?というとタクシーを使うか城跡までの5キロを歩くしかありません。ただタクシーにしてもここにはいないので総社駅から乗るほかなく非常に高額な料金となります。結局歩いていくほかない
幸い、鬼ノ城周辺は一大スポットとなっているので随所随所に「鬼ノ城」まで・・・キロという案内板があるので迷う心配はありません。
途中の砂川公園というキャンプ場を過ぎると道は一気に狭くなります。ここからは車1台がやっと通れるほどの狭い道程を3キロほど登って行かねばなりません。いかにアスファルト道路とはいえ、やはり傾斜の急な坂を上って行くのは辛い。車はバンバン上り下りしているのになぁ・・・途中でマイクロバスと遭遇。見ると「百名城ツアー」と書かれたお年寄り向けの旅行会社のバスのよう。鬼ノ城と備中高松城を回るそうで、これも一昔前にお城専用ツアーなんて見向きもされなかったことを考えると隔世の感があります。
服部駅から歩くこと1時間・・・道中にある「鬼ノ城まであと・・・・メートル」という看板の表示で力を振り絞りながらひたすら上って行ったのですが、あと1キロほどの地点にて通に足が鉛のように重く動かなくなってしまいました。あと少しなのに足が重い。それでもようやく新山集落という地域までたどり着きます。ここは数軒の農家が山の中にポツンと立つ小さな集落、今も人が住んでいるのでしょうか?

途中の民家に展示してあったのが「鬼の釜」

服部駅から歩くこと1時間20分、鬼ノ城ビジターセンターに到着しました。ここはガイダンス施設兼休憩所となっており、無料で入室できます。入口には無料のパンフレットと共に1枚100円のガイドマップも販売。そしてありがたいのは無料のロッカーや自動販売機も備え付けているので非常に城を目指す人間にとっては砂漠のオアシスのような存在。ここで荷物を預け、もう数百メートル上にある城跡を目指します。
城跡までは遊歩道が整備されており、たくさんの人で溢れかえっていました。
鬼ノ城は全周2.8キロに及び、金田城と同じく、山の8合目から9合目付近を地形に合わせて城の石塁としてぐるんと円状に連なる形をとっています。そしてその外周に4つの門を築き、塁線として石垣を築くという壮大なスケールの城です。なお城を回るのには必ずパンフレット持参で行きましょう。余りにも長大すぎて城全体を見るのに1時間20分は必要です。
10分ほど歩くといよいよまず最初の西門跡
版築土塁
古代山城には朝鮮式山城神籠石系山城があり、鬼ノ城は後者です。土塁の基礎に列石を据え、直線の土状の高い城壁を築く。壁面は80度近い勾配と高さ6メートルの厚い城壁は非常に硬くまさに防御陣地としては当時最強の存在です。またその盛り土は固く崩れにくい構造となっていました。雨水などの浸食から城壁を保護するに当たり、水がよらないように傾きをつけながら石を敷き詰めるなど当時の高い土木技術がこの城壁を出現させたのです。
総社市内の平野部
鬼ノ城のシンボル「西門」
鬼ノ城のシンボル的建物と言えばこれで現在では復元された門が訪問する人間を出迎えます。
入口
内部
そしてその門から「万里の長城」のごとく石塁が連ねていました。
敷石
塁線の側面部
その外側はもはや移動するのも困難な傾斜となっているのでこれは非常に怖い思いです。
そしてこの眺望、非常に見渡しがきき、往時にはここから軍勢の移動が手に取るように分かる位置取りです。
向こうに見えるのは南門
あそこまでをまず目指します。
遊歩道とはいえ、非常にゴツゴツした岩肌の道となるので歩く時には要注意です。
第1水門の石垣

第2水門

石垣はそれこそ近世城郭の石垣と比べてもそん色ない出来です。なお水門といってもその実態は排水口のようなものです。

 
そして15分ほど歩いて南門到達
石垣と木組みでかつての城跡の遺構を復元整備されています。
思わず足がすくんでしまうような傾斜の急な山間
ここも良く見渡せる絶好の視界です。
 
敷石
第3水門跡
 
途中には祠みたいな石材や石道の石材が随所に残っています。
 
第4水門の石垣
 
東門付近にてハイカーらしき一行と並走し、東門に到着。実はここで下山ルートとなっており、危うく一行につい連なる形で下山道に入ろうとしてしまいました。やはりマップを見ながらの城散策は欠かせません。
そして東門の向こうに見えてきたのが屏風折れの石垣です。ここから見るとその人工に作られた見事な形状の石垣が十分に観察できます。
もっともここまで来るのに岩の上を上り下りして15分で到着
石碑
血吸川の急崖上に舌状に構築されており、非常に列石が多くあたりに散在していました。
屏風折れ石垣先端部
ここから見た断崖絶壁、本当に怖い・・・ダイレクトに見学できるので高所恐怖症の方は要注意。
石垣は断崖に沿って構築されており、当時の工事する者にとってはどれだけの恐怖だったか、考えるだに恐ろしい。
 
さてここから更に進もうとしたらいきなり何の前触れもなく雨が降り出してきました。
折り畳み傘はビジターセンターのロッカーにおいてきたし、どのみち戻るには先に進まないといけません。
土塁
それにしても凄い岩石の量です。もともとこお山は非常に岩の多い山だからこそこれだけの見事な石垣ができたのでしょう。
 
 
北門跡
 
ここから更に進んだ所に円状の外線から山の中心部に入れる道へと続きます。
中心部にあるのが礎石建物群
 
倉庫や居住区など駐留する将兵の生活空間となっていた場所です。
狼煙場
そしてようやく鬼城山頂上部
 
ここから下に降ると先程の入り口の西門付近へと戻ります。ここまでで1周1時間20分、きつい道程でした。何しろ石塁に沿って進むにしても足元は岩肌を歩くし、しかもほとんど平坦な道がなく、ひたすら上り下りを繰りかえる地形でした。
最後に角楼跡を見学
 
 
ここは蛇のようにグネグネと折れ曲がった塁線の中で遊歩道のある道からも分かる通り、非常に攻めやすい地形です。そのため、こうして西門の側面に角楼を設けて側面部から攻撃できるようになっていたと考えられています。ただし建物があったかどうかは不明
それにしてもこうして見ると近世城郭と遜色ない出来に改めて戦慄します。こうしてみるとやはり人の考えることというのは
時は移ろい、時代は変われど、人の営みには何ら変わることはない・・・
最後にビジターセンターに戻る手前にある展望台から鬼ノ城を撮影
やはりこれが一番ベストショットです。
ビジターセンターには書籍関係も充実しており、ここでガイドブック(500円)を購入。展示見学を見ると共に体(特に足)を休めます。
 
鬼ノ城、それは山の地形を利用して全長3キロ近い部分全域を城塞として構築した古代山城の技術の結晶でした。復元された門、高い石垣、そして一面開けた見晴らしの良さ、どれをとっても一級品の名城と言えます。
 
〇神話の世界と同居した神秘的な古代の城
鬼ノ城の名は、この吉備の地にある吉備津神社由来の「吉備津彦命と鬼神(温羅(うら))の戦い」の伝承で温羅の居城となっていることから名づけられました。この伝承がのちに童話「桃太郎」の由来の一つとなっているのでだからこそ「鬼ノ(住む)城」なのでしょう。一方でこの城には古代の土木技術の粋が結集して完成された山城がありました。朝廷が国防のために設けられた城が「鬼の城」となったのかその経緯については興味があります。
 7世紀、白村江の敗戦後、唐・新羅の大陸勢力の侵攻に備えて西日本各地では大量の「古代山城」が構築されました。ここ吉備の地でも鬼ノ城の他、大廻小廻山城、さらに対岸の四国には城山城に屋嶋城が設けられ、これら4城によって瀬戸内海の防壁としたのでした。最もその歴史については解って折りません。古代山城のうち築城の経緯が判明しているのはわずかに6城でいずれも「朝鮮式山城」、一方鬼ノ城を始めとする「紙籠石式山城」は一切の記録が残されていないのです。このように歴史的経緯が不明にもかかわらず、山上に遺された石垣などは下から見る者を圧倒させ、それが「鬼が築いた城」というイメージを持たせたのではないでしょうか。
 
〇アクセス
JR吉備線服部駅から徒歩5キロ(約1時間20分)でビジターセンターそこから徒歩10分で西門、全域探索には1時間20分以上
・鬼ノ城ビジターセンター
開館時間  9:00~17:00(無料)
休館日  月曜日(祝日の場合は翌日)年末年始(12月29日~1月3日)
ビジターセンターにてガイドブック販売、無料パンフレットもあり
 
「鬼ノ城に狼煙が一本・・・」