ヤン・ウェンリー『今夜の事件は多分笑い話で済むだろう。だが近い将来それでは済まなくなるかもしれない』
今回の話はヤンの華麗なカーチェイス・アクションに度肝を抜かれ、ある「キャラ」との絡みでエエッ!となった以外は概ね原作準拠で進行しました。というか「首から下は要らない男」の汚名を返上してしまう衝撃の展開じゃないでしょうか。今回の話で描きたかったのは点は一つ。
自由惑星同盟で進行する衰退の病状
をしっかり描いていたのは非常に大きかったです。普通のストーリーであれば帝国の悪政をこれでもかと描き、民主主義を奉じる陣営は徹底的な正義の味方、というのが基本スタンスですが、『銀河英雄伝説』は違う。むしろ民主国家の方が腐敗が進行している現状をこれでもか!と容赦なく描く。それは「銀河帝国では皇帝や貴族が人民の意思に関係なく悪政で人民を虐げている、一方同盟では人民に選ばれた政治家が人民を虐げている、どちらが性質が悪いのか」
という問いかけは非常に重い。民主主義は決して一方的な正義でないし、その『美点』と『限界』を承知しておかねば、この自由惑星同盟は決して絵空事などではないでしょう。今回は概ねこれら原作の世界を再現されて満足でした。
トリューニヒト『諸君。我々の武器は全国民の統一された意思である。自由の国であり民主的共和政体である以上どれほど崇高な目的であっても強制することはできない…』
さて今回それ以外で注目のポイントとなったのは自由惑星同盟のキーパーソン(?)ヨブ・トリューニヒト国防委員長の初登場。個人的な感想としては
「うーん、微妙かなぁ。やはり現在メルカッツ提督に転生された先代が偉大過ぎたせいかなぁ・・・」
まぁ普通というか、よく考えてみたら原作でもトリューニヒトは序盤ではどちらかというと「よくある扇動政治業者の一人」程度としか見られなかった(具体的に怪物性が発揮されていくのは第3巻以降)なのでむしろ原作準拠と言えるでしょう。ここからどこまで彼の「変貌」を描けるかが今後のスタッフの力量にかかっているでしょう。ただやはり声優界広しといえど扇動的演説こなせる達人というのはやはり総帥こと銀河万丈さんと先代の国防委員長閣下しかいないのが現状ですので仕方ない(女性であれば榊原女史でしょうか)。余談ですが、演説なかんずくアジテーター的演説というのは文章で表現するとその支離滅裂ぶりが分かるというもの。↑のセリフも「統一された意思」と「自由の国・・・強制することはできない」という明らかに矛盾している内容を平然と言うもの。天才的アジテーターの凄いのはそういう矛盾を聴衆に感じさせない天然のカリスマだからこそできるというものです。
ヤン『それだけの死者を出したのは確かに愚かなことかもしれない。だがこちらが勝って向こうに100万人の死者を出させたらどうだろう?それは称えられるべきことだろうか?戦争の勝ち負けに道義は関係ないんだよ』
一見するとジェシカの視野の狭さのように感じてしまいますが、そうではありません。ヤンが達観過ぎるのです。ヤンは常に国家以上に大局的に見てどうか、という視点で物事を見ている。それは彼の才能の高さとそれ故に彼の行動が受身の立場にならざる得ないのですね。
そして冒頭の台詞にあった憂国騎士団銃撃事件、やたらと散水栓がクローズアップされたり、万暦赤絵の皿がこれ見よがしに登場したりとまさに笑い話のように見えて実は心胆寒からしめる出来事なのですね。将官の官舎に異様な風体集団が押し寄せているのに通報されない(あとになって警察も出動しますが、賛美したりして話にならない)手榴弾の使用も辞さない無法行為が黙認される「自由の国」における全体主義の影を見事に描ききったのは大いに賞賛したい。そしてこの後に憂国騎士団の行状はエスカレートしていき笑い話でなくなる時がきます。今現在某国に限った話ではないのですが、民主国家を自認する国家群では言論に対する圧力、権威主義体制化、そして同調圧力が増している状況にあります。そしてそれらは
急に変わるのではないのです。社会全体で徐々に徐々に小さな変化が進行していか、気がついてみたらいつのまにか変わっていたというパターンなのです。まさに冒頭にある笑い話が笑い話でなくなる時でしょうか。銀河英雄伝説が単なるSF作品とは一線を画す点はそこにあります。それにしても今日の社会情勢をまるで見通していた(往年の)田中先生の慧眼は敬服するばかりです。
さてここからは実は気になって仕方ない部分はオリジナル要素であるクリスチアン大佐の先行登場。普通なら「おお!あの「ネタバレ厳禁」事件への伏線だな、と言われるでしょうが、私の場合は
「いや、この組み合わせおかしくない?」
と終始首をひねるばかりでした。そもそも准将にタメ口で詰問する大佐というのが変ですし(原作ではヤンと同じ准将)ネタバレになりますが、クリスチアンは救国軍事会議の参加者であり、何でその人間が打倒対象であるトリューニヒトとつるんでいるだろうと不思議なことしきりです。(もちろん救国軍事会議はまだ影も形もありませんが)両者ともにリベラリズムを否定して、統制社会を築き上げる点では瓜二つなので同類に見られてもおかしくはないのですが、水と油の関係なのですね。例えていうのなら、1930年代の日本で皇道派と統制派、あるいはドイツなら帝政復古派とナチスを一緒くたにしてしまう・・・ガンダムで例えるなら1年戦争前に地球連邦政府打倒のためにバスク・オムとギレン・ザビとつるんで動いていたというくらいおかしな話なんですよ。私なりに整合性のつく解釈をするならば以下の二通りが考えられます。
①クリスチアンはベイと一緒に救国軍事会議に送り込まれた潜入スパイ(後に起こす事件も実は救国軍事会議の命令にかこつけたトリューニヒトの政敵潰しのためのもの)
②単なる目先の「強い者」についていくだけの脳筋肉
の2つではないでしょうか。
さて次回予告
「イゼルローン攻略・前篇」
まじ?イゼルローン攻略で前・後編やるの?尺本当に大丈夫?
もしかして三木眞一郎さんのシェーンコップも大立ち回りやるの?これ以降の話ペースで行くと
第6話 第13艦隊メンバーの紹介とイゼルローン潜入
第7話 トールハンマー発射とゼークトの玉砕
第8話 帝国におけるイゼルローン失陥後始末(カストロプ動乱やるのか?)
第9話 同盟における帝国領侵攻作戦決定とフォーク登場
第10話 焦土作戦
第11話 アムリッツァ前哨戦
第12話 アムリッツァ星域会戦
この辺りでしょうか。
また次回も感想記事書けたらいいのですが。それでは今日はこの辺で失礼します。