~あらすじ~(公式サイトより)
1940年4月9日、ナチス・ドイツ軍がノルウェーの首都オスロに侵攻。ドイツ軍の攻撃に交戦するノルウェー軍だったが、圧倒的な軍事力によって、主要な都市は相次いで占領される。降伏を求めてくるドイツ軍に対しノルウェー政府はそれを拒否し、ノルウェー国王のホーコン7世は、政府閣僚とともにオスロを離れる。一方、ヒトラーの命を受けたドイツ公使は、ノルウェー政府に国王との謁見の場を設けるように、最後通告をつきつける。翌日、ドイツ公使と対峙した国王は、ナチスに従うか、国を離れて抵抗を続けるか、家族のため、国民のため、国の運命を左右する究極の選択を迫られるー。北欧の小国ながらナチス・ドイツに最も抵抗し続けたノルウェーにとって、歴史に残る重大な決断を下した国王ホーコン7世の運命の3日間を描く。
先週梅田の映画館にて鑑賞。内容については非常に満足して見れましたが、一点だけ不満を述べさせてください。
第2次世界大戦を舞台にした歴史映画でなんでもかんでも
「ヒトラー・・・・」とつける邦題のセンスは何とかならんか!!
いや確かに今回は内容に添っていたので決して的外れではないですよ。でも総統、電話越しの音声にしか出ていないじゃん。英題の『THE KING’S CHOICE』(国王の選択)の方がしっくりくるんですよ。(ちなみに原題ははっきり『国王のNO!』)
さてそれでは感想に参ります。
ノルウェーでは周知の「歴史の日」があります。1814年5月17日と1940年4月9日の2日です。前者は立憲君主制を定めた憲法制定記念日であり、この憲法が長年デンマークの支配からの「独立宣言日」です。そして後者こそ、ドイツのノルウェー侵攻を開始した日であり、5年間に呼ぶ「独立を失った暗黒の5年間」の始まりの日です。今回の映画は侵攻を開始する前日~ドイツ軍侵攻~国王とドイツ公使ブロイアーの会見までの3日間のノルウェー国王ホーコン7世を中心とした群像劇を展開します。あくまでも3日間に絞っており、前後の事情などは省かれていますがそれが鑑賞の障害にならない所が良質なる歴史モノのいい所。
1905年にそれまで隣国スウェーデンと同君連合(政府は個別にあるが、君主のみ兼任する方式)を解消して、完全な独立を果たします。その時に新たなノルウェー国王となったのがホーコン7世で、元はデンマークの王族で国民投票によってノルウェー国王に選出されました。他国の王族を自国の国王に迎えるというのは日本人には想像しづらい所ですが、元々欧州の王家と言うのは縁戚関係によって何かしらの繋がりがあるので至って普通の事なのですね。
「国民によって民主的に選ばれた国王」
これこそがホーコン7世が「ノルウェー国王」として拠って立つ「大義」でありました。他国から迎えられた国王であるからこそ何よりも「国王としてあるべき姿」を尊重しなければならない。それはまさに「ノブレス・オブリージュ」とはかくあるべし。
そしてそんな国王も一人の人間であるからこそ、懊悩する。家庭では孫の王子・王女たちと戯れる祖父として、そしてドイツの侵略に無為無策な政府の対応に不満を述べる息子のオラフ皇太子に「王は国民に選ばれた政府に口出ししてはならない」と戒める国王として。その国王にドイツ側から迫られる降伏協定への承諾。本来、国王は政治への介入してはならない、憲法で規定された国王の役割に反しているにも関わらず、ドイツ側は「交渉相手は国王のみ(ノルウェー政府を相手とせず)」と突きつけてくる。本来なら役割に反していることながら、戦争回避とのための交渉を望む政府の意向も汲み公使との会見へと向かうホーコン7世。
もう1人の主人公がドイツ公使・ブロイアー。侵略国家の外交官と言うと大抵の映画やドラマでは
「本国の軍事力をバックにして、高飛車に相手国を突きつける傲慢な“虎の威を借る狐”のような人間」として描かれるのが常ですが、今作では一味違いました。ブロイアーは赴任国であるノルウェーに愛着を持ち、母国とノルウェーが戦争となることを望んでいない。ところが本国(ヒトラー)は彼にすら事前通知せず、軍事侵攻を開始。何とか戦争回避のために動こうとするのだが、軍人たちは「軍の命令」を盾に国王と政府要人を確保するために交渉しようとする彼の足を引っ張る。その上、本国はこのドサクサに紛れてクーデターを起こしたファシスト政治家クヴィスリング(ノルウェーでは「売国奴」の代名詞にまでされる程の評判の悪い人間)を政権(傀儡)に据えようとする本国政府に再考を促すも逆にヒトラー直々に電話で「国王に何としても(降伏)協定にサインさせろ!」と命令されてしまう。そしてノルウェー側からは「侵略者の走狗!」と罵られ、細君との仲まで亀裂が入ってしまう・・・そんな状況でも何とか戦争回避のために己の権限の許す範囲で何とか両国の条件の落としどころをつけようとしますが、結局それは無駄に終わってしまうのです。交渉に失敗した彼を待ち受けていたのは
「もうオメーの席ねーから!!」
とばかりに失脚して、兵卒として前線に送られ、捕虜として戦後を過ごす過酷な運命。何とか戦争回避しようと動いているのに誰にも理解されない不遇の役割の外交官を演じたのはカール・マルコヴィクス。この人は『ヒトラーの贋札』でもユダヤ人偽札職人の主役を演じていましたが、やはり無茶ぶりな要求を繰り返す上役のSS将校とナチスに抵抗せんとするユダヤ人達の板挟み役だったので実に達者なものでした。
ここからは展開に沿って述べていきます。
①突如侵攻を開始したドイツ軍。首都オスロのフィヨルド湾にまで侵入する上陸部隊を載せたドイツ艦隊。この時点ではドイツ側から宣戦布告はなされず(ヒトラーの論理的には「イギリスが中立侵犯をしてきたのでノルウェーを保護するために出兵した)という理屈)、混乱するノルウェー政府。一方、砲台を守る軍は独断で砲撃を開始。この攻撃はドイツの重巡・ブリュヒャーを撃沈してドイツ側の首都オスロ制圧への足止めとなり、王家と政府が避難する貴重な時間稼ぎとなります。ここの戦闘シーンはなかなかの緊迫感と迫力でした。
②突然、寝耳に水のノルウェー侵攻を知らされたブロイアー公使は本国政府にドイツ軍の進駐を認める協定(実質降伏)にサインさせろと命令され、深夜外務省を訪れるも外務大臣から拒否されます。この時の外務大臣の切り返しがポイント。
コート外相「貴国の総統は常々こう言っておられる」『他国の侵略に屈する国家は存在する価値が無い』(by A・ヒトラー)
後々の展開を考えれば、まさに壮大なブーメランではあります。まあ実際にヒトラーは最後にはドイツ国民を「連合国の侵略に屈した生きるに値しない人間たち」として切り捨てることになるのである意味信念通りと言えるかもしれません。
③列車に乗車して退避する王家と政府要人たち。まだ事態について理解できていない孫の王子・王女らは旅行気分であったのですが、そこへ突如空襲警報が鳴り響き、王家も国民と一緒になって外へ走って逃げる姿で否応なく戦争の現実がまだ幼い彼等にも襲い掛かります。
④ようやく退避先で今後の方針を協議する内閣と議会。だがその一発目は何んといきなり首相が辞職願を出したこと。ホーコン7世は憲法規定に基づき、これを却下する。
ホーコン7世「君たちは国民に選ばれた。どんな状況下でも国を率いる責務がある」
非常時にはどんなことがあっても責任ある政府が存在して対処しなければならない。
⑤何とかブロイアー公使はノルウェー政府との交渉をしようとするが、ノルウェー側からだされた武力行為の停止という条件は軍は命令を盾に突っぱねる。
⑥依然として追撃をやめないドイツ軍から避難する王家と政府要人を退避するためにノルウェー軍は少年兵(この一人が本作の重要なキーパーソン)まで動員して防衛線を構築する現場を通過するホーコン7世とオラフ皇太子。少年兵の働きに感謝の言葉をかける国王に対して「全ては国王のため」と敬礼する少年兵・セーベルにホーコン7世は「祖国のためだ」と言い聞かす。少年まで銃を取って戦いに臨む、という事態に苦悩するホーコン7世
⑦戦争となる事態も覚悟される現実の前に、万が一の事態に備え皇太子妃・マッタと子供達の王子・王女らを隣国のスウェーデンへ逃がすことになる。「家族は常に一緒でなければならない」ことを旨とするホーコン7世にとっては苦渋の決断でした。泣き叫ぶ子供達と別れを惜しむ祖父と父。ここは時間をかけて丁寧に描かれます。無論未来には再会できるのですが、この時点ではそれこそ「今生の別れ」となる事態も充分考えられたことでした。
⑧防衛線を張る少年兵らの守る陣地に襲い掛かるドイツ軍と遂に交戦開始。
うーん、ここは少しリアリティが無かったかなぁ。あんな至近距離から手りゅう弾の爆発をうけたら、五体満足な状態にはならんぞ。
⑨最後の山場であるホーコン7世とブロイアー公使の直接交渉
ようやくノルウェー政府と会見の場を取り決めたブロイアー。ここで国王は戦争か降伏かを自分で選択せねばならない事態に直面して、一時は緊張のあまり倒れそうになります。しかしブロイアーとの会見時にはそんな様子はおくびも出さずに威厳ある姿で閣僚とともに出迎えます。
ここで細かいなぁと思ったのは言語の入り乱れる世界ですね。今まではノルウェー人パートとドイツ人パートではそれぞれノルウェー語とドイツ語とそれぞれの言語で話されていました。(ちなみにホーコン7世はデンマーク語で喋っています)この場ではドイツ語で統一されます(ブロイアーはノルウェー語が不慣れなため、一方でホーコン7世やコート外相はドイツ語に堪能であるため)その一方で(ドイツ語の話せない)政府閣僚との交渉では互いの共通で話せる言語として「英語」が登場するという風に場面場面で言語が変わっていくのですね。よくクオリティの低いハリウッド映画や日本映画だと
「外国人は全て(何の脈絡も無く)英語でベラベラ話す」
というのが頻繁に出てきますが、そこは多言語社会である欧州の映画ならではです。
さて国王に必死で戦争回避のために説得するブロイアー。そのためにはクヴィスリングを政府首班から外すよう自分からヒトラーを説得する、という条件まで出しますが、ホーコン7世は覚悟を決めた表情で語りかけます。
ホーコン7世「この国の行く末は密談によって決まるのではない。国民の総意で決まるのだ」
そしてブロイアーを「侵略者の手先」と罵倒します。これもなぁ、これまでブロイアーの行動を映画で丁寧に描いていたので観客には「いや、それはひどすぎるだろ!」と思いたくなるのですが、ホーコン7世はその辺の事情を知りようがありません。
むしろブロイアーはこの時点でノルウェーの為に動いているドイツ人と言っても良いのですが、結局すれ違いに。
この会見後、ノルウェーとドイツは遂に戦争状態に突入します。そしてホーコン7世とオラフ皇太子はイギリスへ亡命してなおもドイツとの徹底抗戦を続け、遂には1945年にノルウェーへの帰還を果たした時に、ノルウェーの独立を守り通したとして国民の歓迎を受けることになります。本来ならタブーで有った筈の国王が直接NOと言うことが逆にノルウェーの民主主義を守り通したと評価されたのです。
最後ですが、ここで映画では端折られていましたが「ドイツが何故ノルウェーに侵攻したのか?」という理由について。映画だけ見ると「ドイツが突然中立国を侵略した」という誤解が生まれそう(無論映画では直接そんなことは言っていない)のですが、実はこれは英仏連合国とドイツとの巻き添えを喰らってしまったのです。
発端はノルウェーの地理的な戦略的重要性からでした。隣国スウェーデンで産出される鉄鉱石はドイツの経済に必要不可欠なものでした。通常はスウェーデンとドイツとの間の海路であるボスニア湾経由で輸入されていましたが、冬季には凍結してしまうため、ノルウェー側の港湾から輸送されていたのです。この鉄鉱石輸入ルートを絶ってドイツの経済に打撃を与えようとするイギリスのチャーチルはノルウェーの中立を侵犯して機雷封鎖を行っていたのです。そしてチャーチルのこの行為がヒトラーを刺激して、ノルウェーの中立が維持できないのであればイギリスに先んじてノルウェーを保護(占領)下に置くべきという今回の侵攻につながったのでした。そのためドイツ側では全く準備ができておらず、ノルウェー占領作戦の責任者とされたファルケンホルスト大将に作戦立案に与えられた猶予はたった4時間でした。その間ファルケンホルストはノルウェーについては何の事前情報も与えられておらず、そのため老舗の旅行会社の出版した旅行ガイドブック片手に侵攻作戦を計画したという結果から考えると全く笑えない笑い話も生まれました。
いずれにせよノルウェー戦とはノルウェー国民や政府の意思とは無関係に大国同士が「そこが相手国に利用される前に自国の勢力圏にしてしまえ」というエゴから巻き添えになったのでした。先に述べましたが、ヒトラーがノルウェー侵攻を決断した背景には、英海軍がノルウェーの意向も図らずに勝手に中立を侵犯した行為が存在しており、その意味ではヒトラーと同等に英国のチャーチルも「元凶」だったと言えるでしょう。
