先月6月30日新宿の映画館で鑑賞してきました。同作は第2次世界大戦期におきた北欧の国・フィンランドと隣国の軍事大国ソビエト連邦との間に起きた「冬戦争」を舞台にした戦争映画で1989年にフィンランド本国で制作されました。無論、当時の小学生だった私が鑑賞できる筈もなく、数年前にレンタル店で借りたDVDを鑑賞していたのですが、実はさっぱり解らんかったのです。何か明らかにシーンが飛んでいる場面が随所に見かけていたので、「これかなりカットしているんじゃないの?」と思ったのですが、予感的中。実は世界に公開され、店や密林で売られているバージョンは実は編集版で本国・フィンランドでのみ公開された完全版があったそうです。

通常版=123分

完全版=197分

えー!週末の夜9時に地上波で放映される映画番組も真っ青のカット率じゃないですか!しかも調べれば元々本国では300分のテレビドラマを映画用に再編集したらしいので、これは異邦人には理解するのは無理じゃないかと。『機動戦士Ζガンダム』のテレビ版を観ないで、新訳劇場版観るようなものです。

 

1989年の映画が僅か1週間、しかも朝11時に1回だけ新宿で上映されるとあらば、この機会を逃してなるものかと思い、結果深夜バスの往復という形でこうして映画鑑賞したという次第です。さて、それでは映画の内容はと言うと

 

第2次世界大戦の開戦も間もない1939年秋。ソ連は北欧フィンランドに軍事的要衝カレリア地峡の割譲を要求するが、フィンランド側はそれを拒否。両国間では緊張状態が続いていた。フィンランドでは来たるべき戦争に備えて、多くの男達が招集される。その中には平凡な農夫マルティとバーヴォのハカラ兄弟もいた。彼らは乏しい武器や装備に不安を募らせながら、戦いの時を待つしかなかった。そして、ついにソ連軍が国境線に侵攻し冬戦争が勃発、ハカラ兄弟や仲間達も過酷な運命が待ち受ける。

~同作パンフレットより~

ここで映画の舞台になった『冬戦争』について説明しますと

第2次世界大戦のドサクサにソ連がフィンランド側に

「お宅の領土がちょうどうちの大都市・レニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)のすぐ傍で安全保障上にゆゆしき問題なんだよね。だからその分をこっちに渡してちょうだい。代わりに2倍の土地を交換(注:無人の荒野である)するし、良い取引だろう?」

というヤクザ極まりない要求を

フィンランド「だが断る」

ソ連「よろしい、ならば戦争だ!!」

とはじまった戦争。映画ではその動員の過程から防衛線の構築までを丹念に描写しています。

ここで興味深いのはよくある愛国映画だと「愛する国と家族を守るために俺達は戦う!!」とか勇壮あるいは悲壮に演出なのですが、この映画では登場人物たちは

「戦争になるって本当かよ?」

 「どうせブラフさ。交渉で何とかなるさ」

 と滅茶苦茶呑気に構えている所。実際に当時のフィンランドでは政府も国民の大半も恐ろしく呑気なもの。

 戦争とは「ありえない」から始まる

そんなわけで主人公兄弟もろくな装備も無いまま、防衛線構築の傍らで地元の農家の手伝いをしたり、女性と一夜をともにしたり(婚約者がいるのにね)となんか観ているこっちが「そんなんで大丈夫なん?」という気分に駆られます。

 しかし結局は交渉決裂、戦争が始まるわけです。冬戦争といえば、圧倒的多数のソ連軍に対して(正規軍兵力5倍、航空機で戦車で30倍)、少数のフィンランド軍が翻弄させた痛快ものと言われがちですが、本作の戦闘場面を見ると

①圧倒的な砲撃と爆撃に晒される

②これまた圧倒的なソ連軍の兵士が戦車を先頭に突撃をかけていく

③それを乏しい装備で主人公らの歩兵が迎え撃つ

がまるでループのように続きます。主人公らにしても、超人的技量をもった兵士でもなんでもないので、攻撃の度に犠牲が出て恐怖と闘いながら前線で戦っているわけです。それにしてもこの戦闘シーンなんですが、先述の①~③の無限ループのようなシーンが続くので、実を言うとかなりキツイ。映画の中の登場人物達と同じように

「いつまで続くんだよ、この戦争(映画)・・・」

気分にさせてくれます。でも実際の戦争っていうのは

カタルシスもスペクタクルも無い

 

そんな映画の登場人物と同じような気分にさせてくれる(?)戦闘が止んだ一時の間の僅かばかりの時が逆に目を見張ります。

クリスマスを祝ったり(ちなみに相手のソ連軍は無神論国家なので当然クリスマスは無し。代わりにスターリンの誕生日(12月21日)にどんちゃん騒ぎする姿が描かれます)、カンテレ(フィンランドの民族楽器、ガールズ&パンツァー劇場版で継続高校が使用していた奴だ!)で和んだり、休暇で帰郷して家族と再会するシーンなど割かし、ありふれた人間感が(いい意味で)リアリティを出してくれます。マルティ兄貴の

「戦場には生きた英雄などいない・・・」

というセリフがとかく、ドラマチックに英雄的に盛り立てようとする某国の戦争映画とかへの痛烈な皮肉に映りました。しかしやがて戦争は激化していくと共にこうしたシーンすらなくなり・・・

(ここからは映画の結末に関わるのでネタバレ禁止の方はご遠慮ください)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弟のバーヴォが突然戦死!いや余りに唐突で死亡フラグも何もなかったので最初死んだことすら気づかなかった程でした。上官に「兄弟で一緒の小隊にしてほしい」とまで懇願したマルティ兄貴だったのに。

(しかも(砲撃で)身体が真っ二つにされるという悲惨ぶり)

とにかく人があっさりとあっという間に死んでいく中で主要人物すらモブ役のようにあっさりした最期。余韻も何もあったものではない。とにかくヒロイックな戦争映画とは一線を画しています。

そして終盤、遂に本腰を入れたソ連軍の攻勢に晒されます。それまでも必死に防戦し続けていましたが、それでも相手側の拙攻に助けられていた面もあり(ソ連軍ではスターリンによる大粛清で多くの将官が粛清され、生き残った指揮官は素人同然であった)ましたが、100人の兵士を斃しても次には200人の兵士が用意されるという徹底ぶり。

画面いっぱいにソ連兵が押し寄せる映像からくる絶望感

いやこれは本当にこの映画一番のハイライトでした。現在ならCG技術で容易に水増しできますが、当時はエキストラをソ連の人海戦術よろしく集めたもの。それだけに本物の迫力が増します。またこの映画で登場する戦車や飛行機(流石に一部ですが)、爆発は全て本物。それだけに本物ならではの説得力があり、28年前の映画にも関わらず現代にも十分視聴に堪え得るものです。

 

そして遂に

「次の攻撃で全滅だ!」

という絶望的な状態に陥り、最期を覚悟した時に突如通知される両国間での停戦成立の知らせ。その瞬間、兵士たちの歓喜の声が響き渡ります。

画面いっぱいに映るソ連兵のでね

一方のフィンランド側の陣地ではもうマルティ兄貴と数えるぐらいしか残っていない仲間達が苦渋に満ちた顔でそれを見つめるシーンで終了。とにかく余韻も無いし、特にその後とかフォローの説明も一切なし。実際に戦争の結果というと結局要求された以上の領土を割譲させられ、様々な屈辱を味わう休戦条約。多くの犠牲を払った結果がこれではとてもじゃないがハッピーエンドでは終わりにはできません。それでもフィンランド人がこれほど奮戦した結果、辛うじて独立を維持できたのも事実。そしてフィンランド人には平和の時は訪れませんでした。この後も「継続戦争」そして「ラップランド戦争」がつづくことになるのです。

戦争はまだ終わらない

生き残ったマルティ兄貴や家族にもこれからも暗い未来が待っていることを思うととても良かった良かったとは思えませんので、ある意味でこれが正解なのでしょう。

 

 

総評としては、娯楽映画として観たらまず間違いなく辛いものがありました。とにかくストーリー的な起伏に乏しく、カタルシスも何もあったものではありません。でも実際の戦場に近い(これでも本物には及ばないが)体験を味わうという意味ではこれほどの戦争映画はなかなかありません。パンフレットが無かった(1週間のリバイバル上映では商業的に無理なのは承知していますが)のが痛い。3時間に及ぶ映画の内容やどうしても登場人物全体の把握ができませんでした。是非ともこの完全版DVD販売したら早く視聴しなおしたいです。

 

やっぱり歴史映画は欧州国に限ります。