これから『デフ・ヴォイス』の話をしよう 
1/28(日)13:30-15:00
東京都中途失聴・難聴者協会福祉対策部のゆるプチ学習会で、NHKドラマ「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」に出演した感想や本の感想など、ゆるーく話し合う企画に参加、お話ししてきました。

当日の資料、抜粋しておいておきます。

<1 小川ってだれ?>
小川は幼少時から聞こえにくかった。ろう学校経験はなく、難聴団体に入り、手話を覚えたのは28歳から。聴覚障害者運動に33年以上関わってきたが、演劇経験はほとんどない。情報誌「いくおーる」編集時、故・米内山明宏さん、木村晴美さん等とのパイプがあった。日本手話歴28年弱。

<2 どうして出演できたの? 経緯>
・2022年5月頃、出演者コーディネーター廣川麻子さんから打診。
・当初はドラマ名・役名は伏せられ、「中途失聴者役」「発音できる人」を探しているという情報のみ。
・ドラマ制作側が、当事者が出演することを望んでいる
→出演したい!小川の持っている情報で協力したい!
・オーディションの結果、2,3日後に木村晴美さんから当選ビデオメール。
「デフ・ヴォイス」片貝弁護士役であると知り、驚き!
著者の丸山正樹氏、プロデューサーの伊藤学氏が、当事者の出演を強く望んでいたようだ。


<3 原作のデフ・ヴォイス、知ってますか>
丸山正樹さんの小説。
デフ・ヴォイスは2011年7月初版。現在もつづくシリーズ。昨年末にスピンオフの最新作「手話だからいえること 泣いた青鬼の謎」が出ている。
コーダの主人公尚人(草彅剛)は元警官。仕事を探して手話通訳士になる。
ろう者の関わる事件に巻き込まれるミステリー。

ろう者の世界を背景にストーリーが展開。実在の人物、事件がモチーフになっているようだ。

<4 最初の顔合わせはどうだったの?>
2023年4月10日に調布のスタジオで小川だけの衣装あわせ。
スタジオで廣川さんをみかけてほっとしました。手話通訳がつきました。

このとき撮影スタッフとの顔合わせあり。自己紹介用に全員が名前を書いた紙を用意してくれたり、簡単なあいさつの手話をしてくれたり。聞こえにくいオガワを迎え入れてくれました、準備してくれていたんだと、感激しました!
衣装や小道具多数。補聴援助機器も用意。ドラマで何を使うか確認。ダテメガネ使えるよう、コンタクトにしました。
衣装は下着以外全て用意してくれました。背広、ワイシャツはもとより、靴下、靴まで。背広も結婚式があるので、シーン毎にネクタイとともに3着用意。振動式腕時計、片貝弁護士専用スマホも。


<5 役や演技の説明はあったの? (小川の表現スタンス確認)>
初顔あわせの前後、渡辺一貴監督やプロデューサーの伊藤学氏と数回うちあわせ。「演じる」ことと、「聞こえないオガワが片貝弁護士を表現する」ことについて、どんなスタンスで臨めばよいのか、教えていただきました。
役柄は口話法(発声と読話)が中心の中途失聴者。必要なときは日本語対応手話を使う。ろう者の手話は少しわかる。
小川の持つ補聴援助システムは(ぎりぎり有効と判断?)そのまま活用。但しNHKの方針なのか、製品名や、はっきり製品がわかる画像は出せないようにするとのこと。
中途失聴・難聴者考証の必要性について相談。紆余曲折あって、小谷野依久さん、渡辺江美さんに依頼する。お二人にシナリオのチェック、法廷場面の現地チェックを担っていただいたので、安心して撮影に臨めました。

<6 どんなふうに撮影したの?>
4月29日に最初で最後の、ろう出演者(ほぼ)全員集合。手話指導の江副さん、米内山陽子さんと打ち合わせ。撮影の基本的な流れの説明を受けた。
1)メイク
2)リハ2回、カメラテスト、修正入れて本番。本番は同じ動きを繰り返す。
角度を変えて同じ場面を撮影すること多い。
1シーン20分かかる。
個々のシーンの撮影の流れは 
・カメラスタート 
・「用意」の合図で演技開始 
・スタートで場面撮影 
・「カット」が入るまで、演技を続ける
「カット」の合図に気づかないときは、共演の聞こえる役者が伝えてくれたり、ろう者同士でリレーして伝えたり、その場で化学反応のように様々な工夫が広がったのがおもしろかったです。

<7 ロケとセットの話>
ロケはスタッフが撮影に適した場面を探して行われました。東はM市、北はI区、西はS市…。

早朝都内某所でスタッフ用バスに集合して現地へ。撮影時間によっては直接現地へ。終了時はほぼ現地解散。草彅さんとサシ飲みする場面のロケは、バス数台にスタッフ約50人が某店に。ドラマでは数分の場面に、約50人が半日拘束。
撮影待ちだけでなく、車待ち、飛行機待ち、光待ち、と待ち時間が長かった。マイクの感度がすごく良くて、音を拾ってしまうらしい。撮影中は歩いちゃダメ!と注意を受けました。
ロケ現場によっては数日前から準備することも。
今回、片貝弁護士の勤務先である「NPOフェロウシップ」の事務所はすごかった!です。

広いワンフロアーで奥まで見通せるスペースに、子どもたちの学習スペース、木工などの作業スペース、架空の行事の案内多数、門秀彦さんのデフアート数点、ろう関係の書籍やビデオなど、デフスペースを社屋内に視覚的に充実したセットで構築していました。

屋内の撮影時は、某スタジオに組んだセットで行うことが多かったです。
セットは天井が高い!空に道が!四方八方からロープで固定。
セット内部に照明が集中、セットの外は暗い。見づらい。という状況でした。

リハーサルは都内某所の屋内会議室で行われることが多かったです。

<8 出演者の様子、聴きたい?>
4/29顔合わせのときだけご一緒でした。

・ドラマで主人公・尚人の母役を務めた五十嵐由美子さん。


・最初に尚人に通訳を依頼した床屋店主役の山岸信治さん。
 川崎市ろう協元会長さん。
 

・幼少時代の尚人の母役。忍足亜希子さん。
 ろう者俳優の草分けです。

4月30日にリハーサルで主役の草彅剛と初対面。
「おはヨーグルト」とか言ってました(通訳談)
飲み屋でサシ飲みのときのビールはホンモノ、酒は水。

橋本愛
片貝弁護士勤務先の「フェロウシップ」代表・手塚瑠美役。
手話できます!中-上級レベル
橋本さんは約15年前の初主演作品がろうの少女役。
ラストの告白シーンの手話は15分?くらい一気に表現。絶句。お見事でした!

遠藤憲一
コメディタッチのドラマで見るお人柄そのまま。
一度だけ楽屋が一緒。初対面で「劇団はどこ?」と聞かれました
「ろう学校はどこ?」みたいなもんかな。

ウルトラマンレオのスーツアクターをしていた、二家本(にかもと)辰己さん。

技闘担当されてました。

「レオ」撮影当時はオイルショックで、火薬等の使用を控えていたため、スーツアクターにも従来にないアクションが求められていましたが、二家本さんのスーツアクションは、ウルトラマンシリーズ最高の評価。
尚人と菅原がぶつかり合う場面を担当していました。

河合依子さん。手話通訳学科教官の冴島素子役。
役の元になったのは現・国立リハビリテーションセンターの木村晴美さん。

<9 ロケ弁の話などw>
5月6日の神田でのロケ弁(この日2つ目)

 日暮れ待ちで、昼と夕方食べましたw 
6月12日、結婚式の場面の食事、豪華!人数分用意するのすごい。

6月17日ロケ弁、某市役所での撮影時でした。
某市役所のカウンターにはふだんから耳マークがあります。

片貝弁護士も、監督と相談の上、耳マークの缶バッジを付けて撮影に臨みました。

フェロウシップ事務所の場面では、支援スタッフが黄色の「筆談します」缶バッジを付けていました。


<10 情報保障について>
手話通訳3人。手話指導の江副さんはじめ、多数のろう者・中途失聴・難聴者が参加しているので、用意されていました。

文字による通訳は特に用意されていませんでした。オガワは手話で理解できたのと、他に必要な方がいなかったのでしょう。

手話通訳も常時近くにいるわけではなかったので、メイクさんや小道具担当さんなどとは、音声認識を使ってやりとりする場面もありました。

補聴援助システム各種、初日に小道具担当さんかな、用意してくれました。

何を使うか、監督と相談。基本、オガワがふだん使っている補聴援助システム(ロジャーペン)および、システムをリンクさせたスマホ上で使う音声認識アプリ(UDトークおよびYY文字起こし)で文字表示する方法を、そのまま使うことになりました。

スマホも弁護士専用にご用意いただきました。他に振動式腕時計も使っていました。

聴覚障害者が多数参加する想定だったのが、結婚披露宴と裁判所の場面。

ともに手話通訳が付きましたが、裏設定として、ヒアリングループと要約筆記があるという想定になっていました。

実際についたのは手話通訳のみ。

 

撮影中、聞こえる人のように見えたという指摘もありました。次項をご覧ください。

 

<11 補聴援助システムについて>
片貝弁護士役のオガワが聴者と話す場面は、補聴器および補聴援助システム(ロジャー、音声認識アプリ)を使っていました。

裁判所で片貝弁護士の場面をよくご覧いただくと、マイクとスマホが見えるかと思います。

ほぼ全ての場面で、音声認識を活用し、わからないときは見ている演技をしました。

実際に編集されたものを見ると、補聴援助システムが見えないので、使っていることに気づきにくかっただろうと思います。

 

フェロウシップ事務所で尚人と初対面の場面、手話通訳者が二人(尚人、新藤役の柊子)いたのに手話通訳していないのは、音声中心に会話している設定を優先させた結果です。

 

<12 中途失聴・難聴者考証について>
東京都中途失聴・難聴者協会でドラマの監修協力したのは、記憶している限りでは
浜木綿子主演のおふくろシリーズの中の
第16作「おふくろの歓喜の歌」2000年5月26日放送。
中途失聴後、手話などのコミを覚えて立ち直る主人公を描く。三田の教室が中途失聴・難聴者対象手話講習会場に使われた。ドラマにおそらく初めて要約筆記が登場。小川も名無し出演。

他にあったかもしれないが記憶していない。

TBSドラマ「ファイトソング」2022年1/11-3/15まで放送。清原果耶が主演。中途失聴者役。
フジテレビ「silent(サイレント)2022年10/6-12/22放送。川口春菜主演、目黒蓮が中途失聴者役。
この二作も協会で協力・考証。

今回は個人(小谷野依久さん、渡辺江美さん)が担当。

--以下、蛇足ながら、私見です。


13) 改めて、なぜ出演したか
オガワは28歳から手話を学んだ。第一言語は書記日本語だと思っている。中途失聴者のこと、特に補聴援助システムを使用すること。コミュニケーション方法。誰よりも経験してきた、学んできた自負。
役者は真似て演じることはできる。
だが耳だけでなく、目で、場面で、空気で、全身で聴き取るために、
集中、緊張し続け、冷や汗を流し、恥をかき、ひたすら聴き取ろうと苦心してきた60年は、簡単に真似してほしくないと思った。小川自身を出すことが望まれていると思った。


14)当事者出演の流れにプッシュを!
このドラマには役名のあるろう者、中途失聴・難聴者が20名以上、エキストラも含めると50名以上の聴覚障害者が出演。
「デフ・ヴォイス」という原作があったこと、著者やドラマ制作者の理解があって実現したことです。
当事者の役者を起用する流れをしっかり定着させるために、ドラマを見た人が「当事者が出るドラマが良い!」とプッシュしてほしい!

15)演劇について振り返って思うこと
正直、演劇は小川の関心から離れたところにあった。テレビの字幕がまあまあ見られるようになったのは、ここ四半世紀ほど。NHKの朝ドラにも字幕がなく、2000年以前の朝ドラはほとんど見ていない。俳優にも関心がなく、名前と顔が一致しなかった。
そんなありさまだったので、この年になって、ドラマに出るとは思いもしなかったが、出演が決まった以上はできることをしなければ!と思っていた。
ちょうど出演が決まった少しあとのタイミングで、デフアクターズコース1期生募集があった。素人同然だが、まがりなりにも演劇について学べたのは自信になった。おかげさまで身体を動かす楽しみを知った。
これまで仕事も障害者運動も、ある意味頭で考え取り組む作業が中心。困っている人がいる以上は、自分の楽しみのために使う時間は最低限にしないと、と思っていた。
でもドラマ出演、デフアクターズ研修を通して、身体で表現することの楽しさを思い出した気がする。目の前の仕事や課題に追われ、意識的に好きな気持ちにセーブをかけていた。課題があるんだから自分がやらなきゃ!と。仕事があるのは幸せなこと。
でもそろそろ好きなことを選んでもよいか、と思っている。
まだわからないが、可能性があるなら仲間が大勢役者になれる将来につなげていきたい。そのための土壌を耕しておくのが小川の役目なのかな、と思って居る。

演技に関しては恥ずかしい思い。経験不足。デフアクターズでの学びが大きかったが、ないよりはましというレベルだったのでは。監督やスタッフ、特にカメラマンの腕でカバーしてもらえたかなと思う。
それでもチャレンジしてみよう、と思えたのは、かつての上司である米内山明宏さんの存在が大きい。日本のろう演劇界の礎となった方だと思う。身近にいたのは幸運。砂田アトムくんや數見陽子さん、河合祐三子さん等と共に手話企画室米内山を立ち上げ、那須英彰さんや緒方レンさん、モンキー高野さん等とRグループでの公演活動をしているのを身近に見ていた。ご自分の舞台活動を、よく「砂場遊び」だと言っていた。子どもと一緒だと。ご自身の力や好奇心を存分に発揮できる場面だったのだろう。オガワも皆さんが楽しんでいた様子がずっと頭にあった。いずれはオガワの演技を見ていただくこともあるかな、と思っていた矢先、2023年1月末に旅立たれた。オガワも砂場遊びを始めたことをお話しておけばよかった、と残念。ドラマ出演したこと、いずれ冥土へ土産話に持って行くつもりである。