藤原洋のコラム -5ページ目

 当社のようなインターネット・テクノロジー企業にとって、これまで、企業の成長性に影響を与える要因は、主として情報通信インフラとコンピューティング環境でした。しかしながら、私自身のこれまでのバックグラウンドから、「ディープテック」に注目しています。

 

 ディープテックとは、科学的な発見や革新的な技術に基づいて、社会にインパクトを与えることができる技術のことですが、企業や研究機関などで長期間にわたり開発されてきた技術「深いところに(ディープ)眠っている技術(テック)」などを指す造語です。

何故、今、ディープテックなのでしょうか?その背景には、インターネットの商用化後約30年を通じて、IT(情報技術)をベースに、既存の技術の活用による新たなサービスが生み出され、ビジネスモデルの刷新が起こってきたことにあります。しかし、今日では、ビジネスモデルの刷新に陰りが見えてきたように思えます。そこで、ビジネスモデルの転換に留まらず、世の中の生活スタイルを大きく変え、社会の大きな課題を解決する技術、Deep Tech(ディープテック)が重要となっていると言えます。

ディープテックの分野には、化合物半導体、AI(人工知能)、バイオテクノロジー、二次電池、量子コンピュータ、ロボティックスなど多岐にわたり、どれも生活を大きく変え、地球環境問題をも解決する可能性を秘めているため、「世の中に深く根ざした問題(ディープ)を解決できる技術(テック)」と解釈することができます。

そこで、去る7月25日に、東京オープンイノベーションカレッジ・イベントとして、当社Beyond5Gに向けたGaN(窒化ガリウム)を用いたワイドギャップ半導体デバイスに関する共同研究先である名古屋大学天野浩教授(2014年ノーベル物理学賞)で、『ディープテックがもたらすリアル空間とサイバー空間へのインパクト』と題した対談を行いました。東京オープンイノベーションカレッジ(東海東京証券主催)は、産業界からはテック担当として私(インターネット協会理事長の立場)が、学術界からは名古屋大学の天野浩教授(物性物理学)と東京大学の松尾豊教授(人工知能、ディープラーニング協会理事長)が中心となって、産学連携でテック系ベンチャー企業に挑戦する若者たちを盛り上げる活動で、今年6月15日に始まりました。今回は、そのイベント第1回でした。

 

 今回、ディープテック(科学的な発見や革新的な技術に基づいて、社会にインパクトを与えることができる技術)をテーマに天野浩教授と対談を行いました。また、対談に先駆けて、天野教授から『ディープテックの社会実装に貢献する人材育成の取り組み』と題した基調講演をされました。対談の概要を以下に要約します。

天野教授から私への質問として、「AIで人間の健康管理を考えた場合、日本やアメリカなどでは個人情報を学習データとして用いる場合、多くの認可プロセスが必要になる。一方で、13億人のデータを個人でなく国の管理で行っているようなところでは、そもそも学習データ量が圧倒的に異なって、まともに勝負したら勝ち目はない。どうすればビックデータ分野で日本の存在感を出せるのか?」というものでした。そこで、私は、以下のように回答しました。

「法律面と技術面で日本の存在感を出せると考えている。【法律面】では、改正個人情報保護法において設けられたビッグデータに関する規律について、個人情報保護法では、目的外利用や第三者提供にあたっての本人の同意(個人情報保護法16条1項、23条1項)は、パーソナルデータの“利活用の壁”がある。ここで、“本人の同意”の趣旨は、個人の権利利益の侵害を未然防止することだが、“本人の同意”がなくてもデータの利活用を可能とする枠組みが改正個人情報保護法では設けられた。“匿名加工情報”(個人情報保護法2条9項)は、個人情報から特定の個人を識別することができないように加工し、その個人情報を復元することができないようにしたもので、個人情報保護法36条から39条に匿名加工情報取扱事業者等の義務が定られているが、第三者提供に本人の同意不要となった。ビッグデータに関する規律は、プライバシー法制の先進国であるEUなどにもないものであり、日本独特のローカルルールといえる。【技術面】データサイエンス分野で取り組むべきは、「データノイズ」の除去技術、S/N値の大きいデータ収集・分析技術の確立が期待される。私自身も(一社)データサイエンティスト協会でも活動しているが、日本が取り組むべきデータサイエンスとしては、データ量とともにデータの質の向上である。」

天野教授から次の質問として、「ヨーロッパでもドイツは英米と違ってディープテックのスタートアップに対する意識が日本と同じように低い。日本がドイツ的なのは、明治時代に日本がドイツから社会制度を学んだことが原因と思われる。何故藤原さんはそれを打ち破って何度も起業できたのか?若い人にアドバイスすると?これからの日本に必要な社会制度は、従来通りドイツ型か、英米型か、それとも独自路線があるか?」がでました。

 私は、以下のように回答しました。

「まず現状認識として、最近の統計では、1年間のテック型スタートアップ数は、1位アメリカ、3位イギリス、6位ドイツ、24位日本。ベンチャーキャピタル投資はGDP比で、アメリカ0.40%、イギリス0.08%、ドイツ0.03%、日本0.03%。ユニコーン企業(時価総額10億ドル以上の未上場企業)はアメリカ151社、イギリス16社、ドイツ6社、日本1社。また、日本とドイツは、アメリカとイギリスと比較して、開業率と廃業率の両方が低い。米英独でもない独自路線が良いと思う。技術を元に起業する際、まず第一にその技術が経済価値を生むまでのディレイタイムを予測する必要がある。私の場合は、B2Cはスタートアップでは難しいため、B2Bに絞ってきた。日本では、スタートアップは弱く、大企業が強いという特徴があるため、大企業が求めるイノベーションのためのソリューションを提供するのがスタートアップの役割だろう。私の場合では、起業前から顧客獲得をし、ユーザー企業のコミットをもらってから起業してきた。そしてテーマごとに大企業との資本業務提携を行ってきた。」

私から天野教授へは、次の質問を行いました。「ディープテックの分野ではどの分野に注目するか?化合物半導体、AI(人工知能)、バイオテクノロジー、二次電池、量子コンピュータ、ロボティックス、データセンター、その他(その場合は具体的に)の中からいくつかあげて下さい。また、その理由は?」

天野教授からの回答は、「私もいつも装着しているが、ウェアラブルによるヘルスケアで、リアルタイムで情報を集めてデータセンターに蓄積してAIで分析すると日本の高齢化社会の医療費削減に通じる。」というものでした。私からは、「その主旨は、健康寿命を延ばすために病気になる前に健康管理する、ヘルスケアサービスを日本に整備するということですね。」と確認させて頂きました。この件については、会場から、「お二人にお聞きします。天野先生は、ウェアラブルとおっしゃいましたが、日本でいくらウェアラブルが普及してもアップルウォッチとかフィットビットとか海外に市場を取られてメイドインジャパンにはならないのでは?」という質問が出ました。天野教授の回答は、「ウェアラブルについては、私はフィットビットですが(笑)、日本には、デバイス技術は優れているので、きっとできると思います。」ということでした。私からは、「ウェアラブルは複合技術なので、必ずしも全部をメイドインジャパンである必要はないと思います。まずは、ウェアラブルで健康データを集めて、データセンターに蓄積してAIで解析して、日本人の健康寿命を延ばすことが先決だと思います。半導体も今は、最終製品は日本のシェアはかつての過半数はなく6%くらいに低迷していますが、半導体製造装置ではトップ15社中7社は日本ですし、シリコンウェアは信越化学とSUMCOで約60%シェアがあります。強みを活かすことが重要かと思います。」と回答しました。

また、私から、2つのディープテックの組み合わせによるブレークスルーを期待することとして、二次電池とデータセンターによる完全再生可能エネルギー・データセンターの実現に取り組みたいと話しました。

 前述の如く、天野浩教授とは、5GとBeyond5GのGaN(窒化ガリウム)を用いた高速・低消費電力モバイル通信デバイスの共同研究を続けています。ブロードバンドタワーが代表研究会社で名古屋大学が代表大学研究機関です。また、2014年のノーベル物理学賞受賞記念スピーチで何を話せばよいか?と事前に質問されたので「窒化ガリウムは青色発光ダイオードに次はインターネットを変える技術になる」とお話されてはとSuggestしたのですが、その通りのフレーズを入れてスピーチされました。良い思い出です。これからも、テクノロジーカンパニーに相応しい最先端のディープテックに深く取り組み、また当社は、既にグループ企業のベンチャーキャピタルのGiTV社がイスラエルのディープテックに集中的に投資をしており、グループ一丸となって、非連続的イノベーションを目指したいと考えております。

 

2022年8月31日
 代表取締役会長兼社長CEO
 藤原 洋