ハイパースケール&エッジ・データセンター事業拡大へ向けての資本業務提携について | 藤原洋のコラム

~今後のデータセンター事業の大規模に伴う設備投資と運用事業の分離について~

 

 当社は、2021年12月21日開催の取締役会において、当社、Farallon Capital Management, L.L.C.及びその関係会社(以下「ファラロン」)が保有管理し、当社への出資及び当社との資本業務提携を行うことを目的として設立したFCJ 1 Co. Ltd.(以下「FCJ」)、株式会社キャピタリンク・パートナーズ(以下「CLP社」)及び株式会社インターネット総合研究所(以下IRI)の間での資本業務提携を行うこと、並びにFCJ、キャピタリンク2号有限責任事業組合(以下「CLLP」)及びIRIに対する第三者割当による新株式、並びにFCJ及びCLLPに対する第11回新株予約権の発行を決議しましたが、今回は、当社グループにとっての資本業務提携の背景、意義およびその目的について述べさせて頂きます。

 

1.背景

 当社は、2000年2月に日本初の専業インターネット・データセンターとして、私と孫正義氏との協議により、当時同分野で先行する米国企業アジアグローバルクロッシング社(米グローバルクロッシング社、米マイクロソフト社、ソフトバンク株式会社)89%とIRI11%との合弁企業であるグローバルセンター・ジャパン株式会社としてスタートしました。その後、ソフトバンクは、通信キャリア事業に注力されるとのことで、同事業は、IRIを筆頭株主として2002年に株式会社ブロードバンドタワー(以下BBTower)として再出発しヤフー株式会社のメインデータセンターとして成長し、2005年8月に株式を上場し、今日に至っております。

 その後、インターネット技術とモバイル通信技術の発展と共に、オンプレミス(コンピュータ資源の自社運用)からクラウドコンピューティング(コンピュータ資源のクラウドサービス事業者による運用)/エッジコンピューティング(利用者と物理的に近い場所に処理装置を分散配置しネットワークの端点でデータ処理を行うこと)への進化、PCからスマートフォンへの進化、4Gから5G/Beyond5Gへのモバイル通信インフラの進化に代表される「技術の変化」が起こりました。また、ESG/SDGsといった社会と企業の持続可能性を求める「社会の変化」が起こりました。

 当社は、インターネット・テクノロジーカンパニーとして、これらの「技術の変化」を先導する立場を維持するために新大手町データセンターを5Gデータセンターとして位置づけ、これまでのネット企業に加えて、AIや自動車関連企業との連携を行ってきました。また、持続可能性を求める「社会の変化」に対応するために新大手町データセンターの完全再生可能エネルギー利用への転換を行いました。

 この当社の事業規模としては大規模投資に当たる先行投資として約60億円の新規投資を行った新大手町データセンター・プロジェクトが軌道に乗り、昨年に引き続き当社グループの今期黒字決算の見通しをもって一つの節目を迎えた今こそが、次なる成長への一歩を踏み出すチャンスと捉えております。先の社長コラムでご報告させて頂いたように、去る11月22日と24日に開催した当社主催の当社顧客とパートナー企業向けシンポジウムのBBEM(BBTower Business Exchange Meeting、デジタル庁とDXに関わる社内外の専門家が登壇)で明らかになったように、遅れていた日本のデジタル化が2025年(デジタル庁の主導する行政システムのDXの完成)、2030年(今後の民間DX市場の4倍成長)へ向けて大きく動き始めました。この日本社会全体のDX市場の成長期を先導するために当社は、「DataセンターカンパニーからDXセンターカンパニーへの転換」を掲げることと致しました。

 市場環境としては、日本のDX市場でクラウドコンピューティング領域でさらにシェアを拡大するとみられる、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)向けのハイパースケールデータセンター*のニーズが益々高まっていくものと予想されます。また、エッジコンピューティング領域での地域DXセンターのニーズが新たに生まれることが予想されます。

 

*ハイパースケールデータセンター:サーバー室面積5000㎡以上かつ電力供給量が6kVA/ラック以上で、テナントがクラウドサービス事業者であるような事業者データセンターで、調査会社IDCによると、2020年~2025年の年間平均成長率は、延床面積ベースで28.8%になる見通しで、消費電力も増加するため、電力キャパシティベースでの年間平均成長率は面積ベースよりも高い37.2%になると予測されています。

 近年、世界的にハイパースケールデータセンターの開設は続いており、図1に示すように、2021年1月の調査会社Synergy Research Groupの発表によれば、2020年に全世界のハイパースケールデータセンターの総施設数は597に達し2015年における同水準の約2.3倍となっています。地域的分布としては、米国がその市場成長を牽引し2020年時点で全世界の39%を占めていますが、近年アジアにも波及し10%が中国、そして6%が日本となっています。

 

図1. 世界のハイパースケールデータセンター総数

 

2.意義
 今回の資本業務提携先のファラロン・キャピタル・マネジメント、L.L.Cは、アメリカの投資会社で、1986年に数多くの投資実績を誇り、慈善活動家であり環境保護指向のトム・ステイヤー氏によって設立されました。カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置き、世界8カ国で約230名のプロフェッショナルを雇用しています。同社を選択した理由は、主な出資者はイエール大学などの大学基金、財団であることから、投資姿勢として品格が高く、長期保有かつ社会課題解決型の投資方針を打ち出していることと、豊富な資金を保有していることにあります。
 次に、同社との資本業務提携の意義として以下の2つをあげることができます。
 第1に、同社の米国における過去の投資実績やそこで培われたテック系企業とのコネクション等から、今後日本において活性化するハイパースケールデータセンター市場で、米国企業の顧客獲得に優位性を期待できることです。
 第2に、同社の豊富な資金力や米国でのコネクションを核にして、データセンター投資に関心のある資本パートナーを数多く募り、多額の資金を調達してハイパースケールデータセンターを建設し、BBTowerが各データセンターの設計・構築・運用といった技術を提供することです。例えば、プロジェクト毎にSPC*を設立し、各プロジェクトに参加した資本パートナーと共にハイパースケールデータセンターを建設する等、多種多様なファイナンスストラクチャーとBBTowerが20年以上蓄積してきたデータセンターに関するノウハウを組み合わせて新たな事業を創出していきたいと考えています。このことで、大規模データセンターの建設を加速化させると共に、BBTowerにとっては、より一層アセットライトな事業モデル(資産保有を必要最小限にして減価償却費などの固定費を抑える)にシフトして、テクノロジー事業の収益性を追求することができるようになります。

*SPC: Special Purpose Company、「特別目的会社」、企業が不動産など特定の資産を企業内部から切り離し、その特定の資産やプロジェクトのためだけに作られる会社で、日本では1998年に成立したSPC法(特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律)で、SPCを設立できるようになりました。
 

3.目的
  BBTowerは、冒頭に述べさせて頂いたように、インターネット・テクノロジーカンパニーとして、データセンター内にIX(インターネット・エクスチェンジ、インターネット接続事業者間のトラフィック交換拠点)を有するため、「ネットワークトラフィック」について、上位に位置するデータセンター運用を行っています。しかしながら、延床面積については、メインフレーム時代からの伝統を有するアウトソーシングセンターが上位に位置し、中堅クラスです。今回の資本業務提携の目的は、「ネットワークトラフィック」という「質」を強みとすると共に、本格的なDX時代の到来が間近に迫る中で、旧態依然とした情報システムのアウトソーシングセンターと世代交代の拠点となり、図2に示すように国内でも急成長する、ハイパースケールデータセンター市場において、「延床面積」という「量」の競争においても上位に立つことを第1の目的としております。調査会社のインプレス総合研究所は、日本市場においても、ラック数ベースで2024年には伸張著しいハイパースケールデータセンター型が成熟化するリテール型を累積ラック数で逆転すると予測しています。
 

(出典:IDC Japan)
図2.国内ハイパースケールデータセンター 延床面積予測:2019年~2025年

 

 次に、当社の属するデータセンター業界に対しては、デジタル化があらゆる方面で急速に進行する我が国においてもその基盤を担う役割として期待は高まっており、本年6月に発表された政府の「成長戦略実行計画」においても、データ保護や災害に対する強靭性を高め、指数関数的に増大するデータトラフィックを分散し、自動運転等Society 5.0で必要となる低遅延なシステムを実現するための「次世代データセンターの最適配置の推進」が盛り込まれております。当社でも、このような事業環境の変化を機会と捉え、既存の当社の主力事業である都市型データセンターやハイパースケールデータセンターだけではなく、顧客用途毎に要求されるデータ伝送時間を意味するRTT(Round-Trip Time)に応じて、分散型の地域データセンターやエッジ型データセンター、すなわち地域DXセンター、エッジDXセンターの構築・運用に新たに取り組むことを第2の目的としております。

 

2021年12月21日

代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋