2020年を振り返って | 藤原洋のコラム

~2030年へ向けての準備の年~

 

 間もなく2020年が終わろうとしています。今年の1年を振り返りますと、やはり「準備の年」だったと思います。「いつの準備か?」と言うと、2030年です。

 

 昨年2019年の年末には、このコラムで、「2019年は、2020年の準備の年だった」と書かせて頂きました。それは、「5Gデータセンター」と銘打って、約60億円の投資という創業以来の勝負に出た新大手町データセンターの完成と顧客獲得の目途をつける重要な年であったからです。顧客獲得については、当社の精鋭の営業部隊と行動を共にすることも多くありました。お蔭様で、新大手町データセンターについては、目途が立ったため、来年からは、新大手町データセンターのフル稼働化と、次なる成長へ向けての有効活用拠点とすること、および旧式化している一部の既存データセンターのリニューアルと一部整理を手がけることが始まります。

 

 ところで、「2020年は、何故2030年へ向けての準備の年だったか?」というと、2020年の年始と年末に全てが集約されていたからです。2019年の年末に総務省から大臣懇談会としての「Beyond5G推進戦略懇談会」の有識者会議メンバーとしての参加依頼があり、以下のメンバーで構成される、2020年1月27日に第1回会合が開かれました(第1回会合の座席表参照)。同懇談会の目的は、5Gを民間だけに任せたために、欧米・中国・韓国企業に後れを取ってしまったことから、2030年から開始される6Gで日本が世界をリードすることにあります。

 

〇懇談会(親会)の構成員

「Beyond 5G推進戦略懇談会」 構成員 (敬称略、座長及び座長代理を除き五十音順)

(座長)    五神 真 東京大学総長

(座長代理) 森川 博之 東京大学大学院工学系研究科教授(作業班主査)

飯泉 嘉門 徳島県知事

内永 ゆか子 NPO法人J-Win理事長

木村 たま代 主婦連合会事務局長

篠﨑 彰彦 九州大学大学院経済学研究院教授

竹村 詠美 Peatix Inc. 共同創設者・アドバイザー

徳田 英幸 国立研究開発法人情報通信研究機構理事長

藤原 洋 株式会社ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEO(作業班主査代理)

根本 勝則 一般社団法人日本経済団体連合会常務理事

 

 

 第1回会合は、懇談会の議論を方向付けるため、極めて重要で、事務局の依頼により、3人の構成員によるプレゼンテーションが行われました。当懇談会の座長を務める五神真東京大学総長、総務省の研究機関である国立研究開発法人の徳田英幸理事長、そして株式会社ブロードバンドタワー代表としての私でした。五神総長は、日本の学術研究機関を代表して何をすべきか?について、徳田理事長は、情報通信とくに電波技術の世界の最先端研究機関として何をすべきか?についてお話されました。私は、6G時代のインターネットおよびインターネット・データセンター業界は、何をすべきか?についてお話させて頂きました(プレゼンテーション資料の一部〔次図〕を参照)。これは、当社の今後10年の事業展開ビジョンでもあります。どのような社会を想定し、どのような技術を基盤とし、どのようなサービスを展開していくのか?を述べさせて頂く機会でもありました。

 

 

 当社は、日本初の専業インターネット・データセンター企業として、また日米合弁企業として2000年2月に設立され、今年20周年を迎えました。新型コロナウイルス感染症拡大が始まる直前の2月10日に設立20周年記念パーティを帝国ホテルで開催させて頂きました。そこには、当社顧客であるヤフー(Zホールディングス)の川邉健太郎社長、SBIホールディングスの北尾吉孝社長、また、事業パートナーである通信キャリアのNTT澤田純社長、KDDI高橋誠社長、ソフトバンクの宮内謙社長、さらには、当社の事業展開にアドバイスを頂いている村井純慶大教授(当社社外取締役)、渡辺克也元総務審議官(現日本CATV連盟理事長)、そして学術研究分野で交流のある名古屋大学の天野浩教授(2014年ノーベル物理学賞)、京都大学の山極壽一総長、東京大学の河野俊丈数理科学研究科長、宇宙飛行士で航空宇宙工学研究の山崎直子氏 にご列席頂き、熱のこもったスピーチをして頂きました。また、総務省元事務次官で現在は民間企業で活躍中の方々をはじめ多くの産学界の皆さんが参加されました。このイベントに参加された多くの方々が、オールジャパンによる情報通信産業の協調領域の醸成の必要性を強く感じられたように思えました。当社にとって、インターネットという「競争と協調の両立」が求められる世界の日本のパイオニア企業の1社として使命感を感じたイベントとなりました。

 

 

 その後、3月に入ると、新型コロナウイルスの感染症拡大が始まり、リアルイベントの中止が相次ぎました。当社もテレワークに突入し、リアルの営業活動も停止する中で、In-コロナ、With-コロナ、Post-コロナ社会における事業展開について探る時期に入りました。そこで、コロナ前に期首での連結業績予想(単位:百万円)を

売上高 16,180

営業利益 80

経常利益 40

親会社株主に帰属する当期純利益 15

 In-コロナ予想として5月13日に以下の連結業績予想を下方修正させて頂きました。

売上高 16,250

営業利益 △125

経常利益 △170

親会社株主に帰属する当期純利益 △115

 しかしながら、In-コロナからWith-コロナへの移行に伴い、テレワークが拡大し、各業界のリアル事業からサイバー事業への移行が進み、当社の主力であるデータセンター、クラウド、ストレージ事業の落ち込みは想定以下となり、分野によっては、売上拡大が起こりました。そこで、11月6日にWith-コロナ予想として再度業績予想修正をさせて頂きました。

売上高 16,100

営業利益 150

経常利益 140

親会社株主に帰属する当期純利益 30

 このように、予期せぬコロナというパンデミック災害によって、当社の事業も大きく影響を受けました。

 このことを、当社にとって、災害によるダメージが予想を下回ったとするのではなく、歴史的に大災害は、「社会にダメージを与える」だけではなく、「社会を変える」という側面が強いと解釈すべきだと思っております。主として14世紀半ばの欧州を襲ったペストによって、パンデミック前の人口は約7500万人から、1347年から1351年までの間に激減して5000万人になったとされています。この結果、カトリック教会だけでは、人の命を救えないことが認識され、ルネッサンスが起こりました。文化の復興は、宗教だけではなく、数学や科学の発展へとつながることとなります。コロナは、「経済」一辺倒の価値観を(人間だけではなく自然環境の)「健康」との両立へと変えました。働き方も、「満員電車に揺られていつもオフィスに出勤する」から、「いつもテレワークで結果を出し、時々オフィスに出かける」というスタイルに変わってきています。

 このような状況の過程で、4月28日に4社、1自治体による「スーパーテレワーク・コンソーシアム」設立に向け基本合意というプレス発表を行い、ワークスタイルの変化に対応した活動を開始しました。

 コロナは、感染症拡大と、テレワークの普及と共に、首都圏への人口一極集中に変化をもたらし始めています。7月以降、東京都の人口流入と流出が逆転しています。このことは、2014年の基本法成立から叫ばれている地方創生を推進する動きをもたらし始めました。そこで、当社は、7月14日にデータセンターのあり方としても地方として北海道をケーススタディとした「北海道ニュートピアデータセンター研究会」の設立に参画しました。これまで、東京の大手町を中心にデータセンター事業を展開してきた当社としては、データセンターの地域分散化への取り組みの検討開始を意味しております。

 

 ここで、コロナに関する次なる流れとして、当社というよりも私個人が、積極的に関与している我が国の数理科学の発展への貢献について触れさせて頂きます。2012年より日本数学会と応用数理学会後援の「藤原洋数理科学賞」を創設し、数学の分野で純粋数学の基礎を踏まえながら社会に貢献した研究者を表彰してきた賞です。今年で第9回となりますが、10月17日に、今年の大賞を京都大学教授(前北海道大学教授)の西浦博氏が受賞されました。日本を代表する数学者と数理科学者によって構成される賞ですが(私は、審査員ではなく実行委員長)、ご自身も感染症の医師でありながら国際的にも活躍され感染症数理モデルによる理論疫学の道を拓かれた「8割おじさん」として著名です。経済一辺倒の政治家・官僚との葛藤を乗り越え「科学」の価値を再認識させて頂きました。ルネッサンス以降に確立された「科学」は、かつては、「宗教」と対峙し、現代では、「政治」と対峙する宿命にあります。今年は、米国大統領選挙の年でしたが、コロナを巡る「科学」と「政治」の関係が鍵になったように思われます。私自身は、自らのバックグランドでもありますが、企業経営においても、「科学を基盤にした経済活動」で、特徴を出していきたいと改めて思った年となりました。

 

 

 このような背景から、11月12日、恒例の当社の顧客向けのシンポジウムBBTower Business Exchange Meeting (BBEM)を、今年は、オンラインで開催しました。そのテーマについては、「Withコロナ時代に一層求められるDXについての提言・展望」とする内容としました。プログラムとして、感染症対策の専門家で医師兼数理科学者の西浦博京大教授、菅政権のデジタル政策の指南役の村井純慶大教授、世界最速スパコン「富岳」責任者の理化学研究所の美濃導彦理事に基調講演をお願いしました。また、私が、モデレータを務めるパネルディスカッションのパネリストとして、東大医学部から米国にわたりUCLA教授を歴任後、東大医学部教授、東海大医学部長、日本学術会議会長を2代務められ、現在、政府のコロナ対策有識者会議委員長の黒川清氏、同有識者会議委員で認知科学・AIの世界的権威で元慶應義塾長の安西祐一郎氏に加わって頂きました。当社からは、私と樺澤宏紀取締役がプレゼンテーションを行いました。

 

 以上のように、1年を振り返ると、新型コロナウイルス感染症拡大という大災害の年でしたが、当社にとって、2020年の最後を飾る最大イベントである、「Beyond 5G推進コンソーシアム設立総会」が、12月18日に帝国ホテルで開催されました。本コンソーシアムは、今年の初めから始まったBeyond 5G推進戦略懇談会(座長:五神真東大総長)での議論を元に設立が決まりました。とにかく5Gで世界に遅れをとった日本が、6Gで世界をリードするための戦略を練るもので、総務省も大変な力の入れようでした。これに応えるべく産学の構成員とワーキンググループの構成員は、一致団結して年初から審議に当たり、その結果、本コンソーシアムの設立につながったのでした。

 総会には、会長の東京大学の五神真総長のほか、武田良太総務大臣、長坂康正経済産業副大臣、経団連会長の代理で根本勝則専務理事、NICT徳田英幸理事長、第5世代モバイル推進フォーラム吉田進会長(京都大学名誉教授)、NTT澤田純社長、NTTドコモ井伊基之社長、KDDI髙橋 誠社長、ソフトバンク社長の代理で宮川潤一副社長CTO、楽天モバイル山田善久社長、戦略懇談会メンバーで発起人として私だけがリアルで、オンラインで森川博之東京大学教授、飯泉嘉門徳島県知事、内永ゆか子NPO 法人J-Win 理事長、篠﨑彰彦九州大学大学院経済学研究院教授、竹村詠美 Peatix Inc. 共同創設者・アドバイザー、コンソーシアムの国際委員長の中尾彰宏東京大学教授、他総務省、内閣府、文部科学省、経済産業省、外務省の代表が出席しました。
 年初から、総務省でのBeyond5G推進戦略懇談会のメンバーとワーキンググループの主査代理を仰せつかり、多くの時間を費やしてきました。親会とワークキングの両方に参加していたのは、私と森川教授だけでしたが、とにかく注力した結果、このようなオールジャパンの体制が世界に先駆けて整ったことは、大変大きな意義があると思われます。当社は、中心となって本コンソーシアムでの活動に取り組みたいと思いました。2030年に始まる6Gへ向けてBeyond5G推進コンソーシアムの活動を通じての当社の新たな事業展開にご注目頂ければと存じます。

 

●おわりに

2020年は、以上に述べさせて頂いたように、2030年へ向けての準備の年でした。新型コロナウイルスの流行は、まだまだ続くことが想定されますので、皆様方にあられましては、どうかご自愛頂きたいと存じます。

 それでは、皆様にとって、2021年が実り多き年になりますことを祈念して「2020年を振り返って」を終わります。

 

 

 

 

2020年12月23日
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋