ジョン・レノンがビートルズ解散後に受けた精神治療法で、名作「ジョンの魂」制作の原動力にもなったと言われる「プライム・スクリーム」と同じ名前を持つバンド。バンド名の由来がここから来ているのかは、未だに確認できていないのですが、90年代から00年代のUKロックにおいて、重要な作品を作り続けてきた、今や歴史的バンドと言っても過言ではない、プライマル・スクリーム。彼らが最初にブレイクを果たした3rdアルバム。90年代の作品にしては珍しく、昨年末の「20世紀のロック・アルバム」の投票において3点を獲得し、見事、このコーナーに登場する運びとなりました。

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Scremadelica / Primal Scream

当ブログ・ファン投票 第45位(09年)、1票獲得(06・07・08年)
91年発表

私もこのバンドのブレイクはリアルタイムでは気づいてなくて、98年のフジロック・フェスティヴァルに出演した時の模様をテレビで見て(ソフトバンクのCMでも使われていた「Rocks」を演ってました)知った次第。その後、2000年発表の「XTRMNTR」を聴いてから、新作は必ず聴いて来たし、ポツポツとそれ以前のアルバムを聴くようになったバンドなので、ある程度知ってるが、それほど詳しくも知らないといった感じのバンドです。

とにかく、アルバムごとにその音楽性がコロコロ変わるので、正直つかみどころがないバンドという印象を持っています。ストーン・ローゼズなどのマンチェスター系のバンド(出身はスコットランドなんですが)の流れを汲んでるかと思えば、「Beggars Banquet」以降のストーンズ風ロック、スワンプ・ロック系統のサウンドをやってみたり、エレクトロニカ風になったりと、そのサウンドの振れ幅は、他に類をみない位の大きさです。

それも、その辺がアルバムの中でゴッチャになってるわけでなく、アルバム単位ではある程度の統一性を持って極端に展開しているため、とても同じバンドのアルバムとは思えない作品が並んでおり、評論家の評価もアルバムごとに賛否両論ありといった感じです。そんあ意味で次になにをやってくれるか、楽しみでもあるバンドです。

この3rdはそんな彼らの原点と思われるアルバムで、このアルバムに関しては、上記のいろんな要素が楽しめるアルバムになってますし、そんなことからこのアルバムを彼らの最高傑作と評価する声も多いようです。今年発売されたUKの郵便局(ロイヤルメール)の「クラシック・アルバム・カヴァー・スタンプ・セット」の10枚にも選ばれています。

オープニングはいきなりアコースティック・ギターの生ピアノのイントロで始まるスワンプ路線の曲、「Movin, On Up」。フロントマンのボビー・ギレスピーのヴォーカルや女性ヴォーカルによるバック・コーラス、アンドリュー・イネスのギターのフレージングなど、60~70年代のロックの雰囲気がぷんぷんとしてくる嬉しいナンバー。


続く「Slip Inside This House」では一転、打ち込みビートによるファンキーなナンバーへと展開して行きます。メリハリのリズム感と浮遊感溢れるメロディに加え、ラーガ色も加わり、独自の世界を描き出します。13thフロア・エレベーターズのカヴァーだそうです。「Don,t Forget It, Feel It」では、デニース・ジョンソンという女性ヴォーカルをフィーチャーして、アフロ風テクノビートで盛り上る、当時のクラブ・シーンを思わせるような曲。
http://www.youtube.com/watch?v=zF2YZqHOqL4&feature=search

当時サイケデリック・ダブと呼ばれた「Higher Than the Sun」も浮遊感溢れるナンバーで、当時はもてはやされたそうです。
http://www.youtube.com/watch?v=28ESJrhtK3U&feature=related

美しいシンセの音色、透明感のあるコーラスのみによる、準インストナンバーの「Inner Flight」、ゴスペル風のオルガンと無機質なリズムが絶妙なコラボを見せる10分を超える大作「Come Together」とさらに混沌とした音世界が展開されて行きます。後者はサイケデリック・ゴスペルとも呼ばれたのだそうです。前作の曲をリミックスして再収録された「Loaded」は当時のクラブで凄い人気を博したそうです。ディペッシュ・モードのデイヴ・ガーンも参加しているライヴ映像でどうぞ。


ようやくアコースティック・ギターを使ったバラード・ナンバー、「Damaged」が流れてきて、混沌としたサウンドの世界が、清涼剤でも入れたかのように、一旦、落ち着きを見せます。結構最最近っぽいライヴ映像です。
http://www.youtube.com/watch?v=c5l3k7S9zow&feature=search

サックスを導入し、ゆったりとした曲ながら緊張感の溢れる「I,m Comin, Down」は、ジャズ風というか、プログレ風というか、斬新な味わいのあるナンバー。4曲目のリプライズ、「Higher Than the Sun (A Dub Symphony in Two Parts)」に、パブリック・イメージのジャー・ウーブルが参加。ラスト・ナンバーの「She Like Stars」では、美しいシンセの音色と、ギレスピーの静かに落ち着いたヴォーカルが、混沌の後の名残を惜しむような静寂感溢れるサウンドを創り上げています。

常に新しいサウンドに挑戦し続けるこのバンドの出発点となったアルバム。才気溢れるサウンド・メイキングと、過去と現代を行ったり来たりするタイム・スリップ感が、このアルバムをロック史の中で輝かせているのではないかと思います。