Sea Breeze Season8 -5ページ目

貸しボートがあった頃 ~ 強風



この日も、海水浴客は多くいつものように売店でお客さんの対応をしていた。

そんな時、顔馴染みのライフセーバーが売店にやって来て、

「○○さん、ここのボートが1艘流されてるんですけど、お願いしていいですか?」

と言った。


沖を見ると、カップルの乗ったボートが強風に押されて流されている。


この日は、右から左に向かって強風が吹いていた。

障害物のない海の上では、その風をもろに受けるので流されるボートは多い。

このカップル客は、ボートを漕ぎ出した時から、その漕ぎ方が少し危なっかしかった。
それでも何とか遊泳区域外に出た。


その後、左に船主を向けて漕ぎ始めた。
ボートは気持ちよく進んでいる。
だが、8割は風の力。本人の技術は2割程度だろう。
その後、方向転換をして戻ろうとしたが全然進まない。

向かい風で、戻るに戻れなくなった。
大体、そんなところだろう。


彼氏は向かい風の中を必死に漕いでいるが、風のパワーに負けて前ではなく後ろに流されている。

「あ~ぁ、あの漕ぎ方じゃ戻って来るのは無理だな。いいよ、オレが漕いで帰るよ。」


あの漕ぎ方とは、いわゆる手漕ぎで、腕の力だけで漕いでいるのだ。

全身を使って漕げば、この日の強風でも多少時間はかかるが、戻って来ることはできただろう。


オレとライフセーバーは、流されているボートの方へ向かった。


そして沖のボートに向かって、ライフセーバーがホイッスルを鳴らし、岸へ向かうように合図を出した。

ホイッスルに気づいたボートは、流されながらも岸に向かって漕ぎ始めた。

その間もライフセーバーはホイッスルを鳴らし続け、海水浴客に指示を出し、ボートが通れるように通路を作っている。

腰の深さぐらいまで戻って来たところで、オレ達はボートを掴まえ、岸へ引き上げた。


カップル客を降ろした後、戻る準備をしているオレにライフセーバーが、


「○○さん、何かあります?」

と、聞いてきた。


ライフセーバーとしてカップル客に注意をするが、何か言っておく事があるかという事だろう。

オレは、

「まぁ、今回で懲りただろうから、ボートに乗るなら無風の日にしろって言っておいてよ。じゃぁ、オレは戻るからあとはヨロシク。」

と、ボートを漕ぎ始めた。

「お疲れさまでした。」

と言って、ライフセーバーはホイッスルを鳴らし、通路を作ってくれた。

オレは、その通路から沖へ出て、逆風の中をレンタル小屋に向かってボートを進めた。

沖からあのカップル客の方を見ると、ライフセーバーがこっちを指差して何か話していた。
多分、漕ぎ方の違いを説明しているのだろう。


自分で漕いでみてわかった事がある。

確かに風は強いのだが、この程度の風であの勢いで流されるのは、あの彼氏が相当なヘタクソという事だ。



台風16号



台風16号


防波堤を越える程の波。






強風に煽られてピントがブレブレ。



一夜明けて、今日は台風一過の晴天だった。






貸しボートがあった頃 ~ 救助



海水浴場では、貸しボートを借りるのはカップルが多い。

そんなカップル客で時々いるのが、ボートで遊泳区域の外に出た後に、沖で泳いでしまうお客さんだ。


この日もそんなカップルがいた。

初めはボートの側で泳いでいるのだが、遊びに夢中になってくると徐々にボートから離れてしまう。


このビーチの特徴として、右から左にゆるい風が吹いている事が多い。
体感的には大したことないのだが、海上で無人のボートを流すには十分な風力だ。


彼氏が気づいて、流されたボートに戻ろうとするのだが、ボートに追いつけない。

ボートを追いかけるのに必死で、彼女の事を忘れている。

彼女も彼氏の後を追いかけようとしているが、そこまで泳ぎは得意ではないのだろう。
彼氏との距離がどんどん開いていく。

さらに、沖から見た岸は結構遠く見える。
それだけでパニックになる人もいる。

売店から見ていたオレは、レンタル小屋に向かった。

貸しボートのレンタル小屋には、常に双眼鏡が置いてある。

バイト達は、この2人が泳ぎ始めた時からずっと監視していたようだ。
既にボートを出す準備をしてある。


救護本部から、顔馴染みのライフセーバーがこっちに走って来るのが見えた。


ビーチにはライフセーバーの監視塔もある。
ボートが流されているのを見ていたのだろう。


オレも、ライフセーバーに向かって走り出した。


ライフセーバーが沖を指差して、

「○○さん、あれヤバいですよ!」

と言った。

オレも、

「こっちは準備できてるよ!あとは引き受けるから!」

と応えた。

ライフセーバーは、オレ達が何度もこういう場面に対応しているのを知っているので、

「じゃあ、よろしくお願いします!」

と言って、引き上げて行った。


これで話はまとまった。
ライフセーバーの手を煩わす事もない。

オレ達は、2艘のボートで沖に向かって漕ぎ出した。

ボートには浮き輪を乗せてある。

1艘はオレとバイトが1人。もう1艘はバイトが1人だけ。


オレのボートは彼女の所へ向かい、もう1艘は彼氏の方に向かった。


オレ達は彼女をボートへ引き上げた後、彼氏の方へ向かう。


もう1艘のボートは、既に彼氏に浮き輪を渡しそこで待機している。


バイトが彼氏を引き上げず待機していたのは、海の上で乗せ方を間違えると簡単にボートがひっくり返ってしまうからだ。

ボートは軽く、船べりに2人分の体重がかかると、水が入り簡単にひっくり返る。
だからオレ達の到着を待っていたのだ。


波で揺れるボートを押さえ彼氏を乗せた後、オレは流されたボートに向かった。


岸に目を向けると、監視塔からライフセーバーが、双眼鏡でこっちを見ている。


その後、流された無人のボートに追いつき、オレが漕いで戻ることにした。


そしてバイトに、

「先に戻ってルートは、作っておくよ。」

と言って、漕ぎ出した。

バイト達が、先頭を行くオレの後に続く。


遊泳区域のボート専用通路まで戻ると、さっきのライフセーバーが、ホイッスルを鳴らしながら専用通路で泳いでいる客を追い出していた。

その後ろにバイト達が待機している。

ライフセーバーが、こっちに向かって手を上げている。

OKの合図だ。

オレも手を上げて応え、一気に岸まで漕いだ。

オレがボートを降りると、バイトがボートを素早く岸に上げる。


オレはライフセーバーに、

「悪いな、余計な仕事させて。」

と言った。

「いやいや、このくらいはやらないと。いつも手伝ってもらったり、情報もらったりしてますから。」

とライフセーバー。


続いて彼女を乗せたボート、彼氏を乗せたボートが入って来る。

バイト達は、手際よくボートを回収している。


あとはバイトにまかせ、ライフセーバーに、

「じゃあ、オレは売店に戻るから。お疲れさま。」

ライフセーバーも、

「お疲れさまでした。」

と言って別れた。


オレが売店に戻った後、あのカップルはライフセーバーから、海水浴場ではルールは守って遊ぶようにと説教されたようだ。


そしてパラソルの下では、彼女に海の上で置き去りにされた事を怒られていたとバイト達が言っていた。