西郷隆盛は、橋本左内が、あまりにも、一橋慶喜のことを褒め抜くので冗談っぽく、
「すると、一橋慶喜様は神様みたいな、お方でごわすな」と、
茶々を入れるつもりではなかったが、茶々を入れるような感じで言葉が出たが、
橋本左内は、茶々を入れられた感じも無く真面目な顔で、
「いえ、やはり欠点と言えるものが、あります」、
西郷隆盛は、橋本左内は、こんなにも一橋慶喜の事を褒め抜いているのに、欠点まで見えているのかと思い、
「ほぅ、慶喜様にも欠点が、あるでごわすか」、
「はい、慶喜様には、私心が無い、欲も無い、野心と言うものも無い、これが欠点です、だから世の中の動き、人の動きは良く見える、しかし、見えるだけでは何の意味もありません」、
「ん~む、まぁそれは」と、西郷隆盛は言いようも無い声を出す、
「だから西郷さん、この慶喜様の美点を変えなければなりません、今の慶喜様は失礼ですが、白けたような状態で、その慶喜様の心に火を付けなければ」、
「そうでごわすな・・・・」、
「そうなると西郷さん、慶喜様は私心が無いので本当に天下のための事を考えられ、出世欲なども無いので佞人(ねいじん)の甘言葉に乗せられる事も無い、野心が無いから無意味な対立は避けられる」、
西郷隆盛は思い出した、一橋慶喜は、ほとんどの事は人並み以上に出来るが、知らないフリをしているらしいという事を、
橋本左内は、さらに続けて話している、
「だけど、まつりごと(政治)では、そうはいきません、慶喜様の、あの才能を眠らせていてはいけないのです、将軍候補にするには、慶喜様の、やる気の無い心に火をつけねば」、
「う~ん、なるほど解りもした」、
「それで、熱心に動いているのが、西郷さんのところの薩摩藩主・島津斉彬様や私の主君の慶永(春嶽)様なのです」、
この後も、橋本左内は自分の思いや考えを西郷隆盛に話し続けた。
「解りもしたが、う~ん」、西郷隆盛は何やら考え出した。
「西郷さん、どうしました何か腑に落ちない事でも」、
「いや、う~ん、今、橋本さんの言った事を、おいどんが篤姫様に伝えるのは難しいかも知れんでごわす、おいは、話が下手でごわすし、今、聞いた事を忘れてしまうかも知れんでごわす、だどん橋本さん、今、言った事を書いて手紙にしてくれんでごわすか、篤姫様に、お渡ししもすんで、そのほうが良か思うでごわすよ」、
橋本左内は少し考えて、「そうかも知れませんね、解りました、書きますので、少し待って下さい」、
橋本左内は自分の意見を書き、そして、平岡円四郎の書いた、一橋慶喜行状記も合わせて書写し、西郷隆盛に渡した。
「西郷さん、私の思いを書きました、それと平岡さんの書いた行状記からも写し添えました、これを篤姫様に、お渡し下さい」、
「はい、解りもした、渡しますので」、
橋本左内の書いた手紙を預かって、西郷隆盛は帰りについたが、
西郷隆盛は、この手紙を篤姫には渡さなかったみたいで、明治10年に西郷隆盛が亡くなった後、遺品の中から、この手紙が出てきたらしいです。

つづく。