源兵衛が西郷隆盛から聞いた、一橋慶喜(徳川慶喜)は将軍候補の1人、老人では無いはず、まだ子供か?、もう大人なのか?は解らなかったが、おそらく、お供の者も何人か連れて来るはず、源兵衛は、そう判断して聞いて回った。
するとすぐに、それらしい、1団が時々来ている事が解った。
源兵衛は戻り、西郷隆盛が目覚めると、報告した。
「旦那ぁ、おそらく旦那が見つけようとしている、お方の事、この付近の人から聞いて来ましたぜ」、
「何じゃと、源兵衛どん、おいが寝ている間に、聞きに回っていてくれたでごわすか、それは、すんもはんな」、
「いやいや、旦那が起きるのを待っているのは退屈だったもんですから・・・、確かに20歳になっているか?いないか?ぐらいの旗本らしき、お方が、何人かの共の者を連れてやって来るらしいぜすぜ、馬で来る時もあるし、舟で来て、ここで乗り継いで行く時もあるみたいで」、
「ほ~、そうでごわすか」、
「へい、来る時は、だいたい3人連れで、それで、たまに、その主人らしき若侍は、投網で漁をやってから、この付近の絵を書いて行くらしいんで、そんで子供達が覗きに来たり騒いでも怒らないんで、子供達も気楽に話し掛けたり、その若侍に話し掛けられたりで、子供達と楽しくしている事もあるそうなんで」、
「源兵衛どん、良くやってくれもした、おいが、この辺、歩けば、体が大きいし、目立つもんでな、源兵衛どん、すんもはん」、
そう言って、西郷隆盛は、決めている料金とは別に、お金を渡した。
「あ~、旦那、これは、すみせんな頂きます、でも旦那、その、お方は次、いつ現れるか?、まさか冬まで続くなんてことは無いでごわしょうな」、
「ハハハ、それは、何とも言えんでごわすよ、源兵衛どん、おいどんに釣りば、教えてくれんでごわすか?、おいも退屈でごわすし、何もせんでおっては怪しまれもんでな」、
「それは喜んで、お教えしますよ旦那」、
待つ事、9日目、西郷隆盛が釣り糸を垂らしていると、向こうのほうを、一橋慶喜らしき人の乗った舟が進んでいる、西郷隆盛は、あれは間違いなく、一橋慶喜の乗っている舟だろうと思い、
「源兵衛、あれだ、あの舟さあ、近づけてくれもせ」、
「へい旦那、あの舟に寄せりゃあいいんですね」、
「ああ、おそらく、あの舟でごわす、一橋卿が乗っているのは」、
西郷隆盛は、まだ、はっきりと断言出来なかったが、近づいて行くと、顔は知らないけど、間違いなく、一橋慶喜だと確信した。
その舟は止まると、若侍の左右で従者らしき2人が、片膝立ちで座っている、その1人が平岡円四郎だった。
西郷隆盛は、「あっ、平岡どん?、間違い無い、平岡円四郎どんじゃ、源兵衛どん、打つけても構わんから、急いで近づけてくれもせ、知ってる男が乗ってる、打つけても、おいが全責任を持ちもす、勢いよく近づけてくれもんせ」、
「へい、旦那、解りやした」、
源兵衛は、勢いよく漕ぎ出した。

つづく。