藤田東湖と妹の、かの子は駕籠に乗って、一色家へと向かっていた。
この頃、将軍家慶は亡くなって、家定が十三代目の将軍になっていたが、家定は廃人同様で、子供の生まれるような健康体では無く、
そして、七郎麿(一橋慶喜)は、もう、一橋家の当主になっていて、次の十四代目になる可能性が出てきていた。
藤田東湖の乗った駕籠の後ろを、藤田かの子が乗った駕籠が後から走っている、駕籠の中で、藤田かの子は考えている、
『もしも、須賀さんが七郎麿様の側室になってしまって、七郎麿様が将軍様になってしまえば、須賀さんは、大奥に入らないといけなくなってしまう、あんな女同士の陰湿なところへ、女の墓場みたいなところへ、私の教え子の須賀さんを行かせたくない、もし兄上が最初から手紙に書いていたら、私は、須賀さんだけでなく、私の教え子の中から、いや、どこの娘さんも紹介なんてしないのに、兄上は、大奥の中が、どんなに陰湿で、いびり合うところか知らないから、はぁ、なんとか須賀さんに、この話を断るように説得しないと』、
藤田かの子は、駕籠の中で、一色須賀を側室として、一橋家へ行かせ無いようにすることを考えていた。
藤田かの子は最初、手紙が届いた時は普通の縁談と思ったみたいで、手紙には、これぞ水戸の女性だと思う女性を選んでくれというような内容で、それで兄の望みに答えるために、自分の教え子の中から、一色須賀を選んだ。
一色家は、栗原郷の中に7、8件ぐらいあって、足利家の一族みたいで、本家、分家とあり、本家は五百石どりで、
藤田東湖は江戸の藩邸に居る時、藤田かの子からの手紙の返信を見て、先に江戸の、一色家の本家へ行き、この話をしていた。
すると本家のほうは、すぐに、「こちらの養女にして・・・」と、いい返事が帰ってきて、
江戸の一色家には、大奥へ杉浦という名前で奉公していた老女がいて、その老女が一色須賀に作法を教えさせるようにして刑部様(一橋慶喜)付きにしようかと、話は進んでいたが、
水戸へ帰って来て、相手が、一橋家と聞くと、藤田かの子が反対しだした。
やがて駕籠が栗崎に入り、一色家の門の前に着くと、一色家の夫婦と娘の須賀が、出迎えた。
藤田かの子は降りたが、藤田東湖は、わざと降りるのを遅らせ、一色須賀の、藤田かの子に対する挨拶を駕籠の隙間から見ていた。
いかにも村娘という感じに見えたが、藤田東湖も降り、須賀は藤田東湖の前へ行き挨拶したが、その時の目の感じを見て、藤田東湖は、
『どことなく、かの子に似た感じの目だ』と、思った。
春の日差しに、頬、えり、足は灼かれ、小麦色になっていて、健康そうな感じだった。
藤田東湖は、『性格も、かの子に似ているのかな』と、考えていると、
父親の、一色太左衛門が、
「ささ、どうぞ中へ」と、
屋敷の中へ通され、部屋に入って、須賀の家族と藤田兄妹は向かい合って座った。
しばらくすると、藤田かの子が話を切り出した。
つづく。