道案内する銀蔵の後に付いて、吉田松陰と金子重之助は、松代藩真田の陣営に向かい歩いていた。
陣営に着くと、佐久間象山の陣屋へと案内され入った。
佐久間象山は、吉田松陰を見ると笑顔を見せ、
「お〜、2人とも、良く来たな」、
佐久間象山は、2人の目的を知っていたが、銀蔵がいるので言えない、
「銀蔵は、もう戻っていいぞ」、
銀蔵が部屋から出て行くと、佐久間象山は、
「寅次郎、重之助、アレを決行するため来たんじゃろ」、
吉田松陰は、「はい、その通りです、が、銀蔵に聞きましたところ、佐久間先生も漁師に頼んで、小舟で黒船の近くまで行くつもりだとか」、
吉田松陰は、銀蔵の言っていた言葉を確認すると、佐久間象山は、
「あ〜、そうじゃ、明日の夜、漕いでくれるよう、近くの漁師に、金を払って頼んでおる」、
「先生は、どうしてまた、まさか、わしらと同じ目的じゃ」、
「違うわ、わしはの、まず下から黒船を見上げて、糧食補給や夜間の艦上の警備状況や装備などをな見て調べておこうと思ってな、どうじゃ、寅次郎、明日、わしと一緒に来るか、そして、乗り込めるようなら、そのまま行け」、
「はい、先生、これはありがたい、是非ご一緒させて下さい」、
吉田松陰は、その日、早くも明日、決行できるかも知れぬと思い、喜び旅館へ帰ったが、その夜、布団に入り悩み考えた。
それは、ペリー暗殺の事で、
『佐久間先生と、黒船の近くに行けば、佐久間先生も深く関わったことになってしまう、それで、ペリーを斬り殺せば、佐久間先生にも、非常に迷惑をかけてしまい罪に問われることになる恐れもある、やはり明日、乗り込んだら、斬り殺すのはやめて、アメリカへ連れて行ってくれるよ頼むだけにするか」、
乗り込むのを手助けしただけでも罪に問われるのに、もしも、ペリーを暗殺したら、佐久間象山にも、どれほどの罪がかかるかと考え、明日、乗り込んだ場合、ペリー暗殺は中止するかどうか真剣に考えていた。
吉田松陰は、「えい、今、考えていても始まらん、明日、乗り込めた時の状況で考えよう」と、呟き、眠りに入った。
次の日、佐久間象山の陣屋に行くと、雇った漁師が、断って来たという、漁船が黒船に近づくのは、きつく禁止されているのだった。
「すまんな、寅次郎、漁師が断って来た、まあ漁師たちにしても、もし捕まりでもしたら、重罪になるやも知れんからな、恐ろしくなったんだろう」、
「そうですか、それは仕方ないですね」と、吉田松陰と金子重之助は、ガッカリした様子だった。
その後、2人は、何人かの漁師に声をかけ、酒をおごったりして、黒船まで乗せてくれないか頼んだが、酒が入っているときは、酔った勢いで引き受けてくれるが、次の日になって酒が冷めると恐くなって断ってきた、そうして何日か経って、2人が焦り出した頃、ペリー艦隊は下田へ向かって行ってしまった。
【私が参考にしている本たちの中には、佐久間象山から神奈川村の船頭に紹介状を書いてもらい訪ねて行ったというのと、別の本では、佐久間象山から、神奈川に今、浦賀同心の吉村一郎という者が出張して来ているので、薪水積込みの船に乗せてもらえばいいと紹介状を書いてもらったというのがあって、どちらにしようか迷いましたが、決められずに、下田に向かうことにしました】。

つづく。