短編小説『汚泥の底』 | 田中創の薫製サラダのブログ

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 2.部屋

 

 小さなアパートの小さな部屋、寝室とキッチンと居間があるシンプルな俺の家に着くと、まず冷蔵庫からビール缶を取り出して今日の仕事や、外で繰り広げた見知らぬ男との一方的な戦闘の疲れをビールで喉の奥に流し込んだ。
 現在は一時半。今から風呂に入った後に最近買った本を少し読んでから寝よう。そう思いながら煙草をふかした。
 煙草は高校の頃に親からくすねたのを吸ってからずっと吸い続けている。昔は背徳感や大人ぶるのを楽しんで吸っていたが、今や怠惰で吸っているのが現状だ。金に余裕がある今、禁煙をする必要もないし、自分の体なんかどうでもいい。むしろ早く朽ちてしまえとも思っている。自暴自棄もいいとこだ。
 さて、風呂に入ろう。

 正直、小説というのはくだらない。代表的なのは本格派ミステリーというものだが、本格派というのは何だろう。にわか派ミステリーの存在を語らずも裏付けしているのに気づいているのだろうか。そう思って買ったのが本の帯に『本格派ミステリーの革命!密室殺人の新しい形!』と書いてある小説だ。
 著者名は浮ついた名前で、恐らく若い作家だろうと予想ができる。実際作家の年齢は21で新人だそうだ。しかし、本格派ミステリーといいながら『新しい形』『革命』とのたまっていいのだろうか。むしろにわか派か改革派ではないのだろうか。
 現代の小説家のセンスはよく分からない。そう思いつつも床に直接敷いた布団の上に横たわり、買った本を読んだ。
 最初はなかなかテンポがよく、本の舞台が現代では無いところが気に入ったが、次第に飽きてきて結局は半分まで読んで栞を挟んで布団の外に置いた。
 思ったことは、この作家は他の奴らとはひと味違うミステリー小説を書きたい思いが強すぎて、結局は一周回って一昔前なら沢山あったただろうミステリー小説と似たものとなり得てしまっていた。まぁ、それはそれで若い世代には新しいものと感じるだろうが、昔から本を読んでいる三十代前後の人からみれば、古い時代を感じさせる逸品だ。
 文の書き方も気取った書き方をしていて、はっきり言って先の未来はあまり期待が出来ない作家だ。あと二、三冊で消えるだろう。
 ふと時計を見ると三時を回ってた。明日は仕事がない日曜日だが、いつもに二時には寝ている生活リズムを崩すのはよろしくない。このまま寝てしまおう。
 俺は体を丸めて胎児のような格好で、布団に包まれ、寝た。



 朝、この部屋にはカーテンがないのと、日の向きが直接射し込んでくるのとで明るくなる。まるで俺の鬱屈とした心を晴らすかのように。無理だろうが。
 あぁ、頭が痛い。悪い夢を見た気がする。見てない気もするが。しかし、どっちにしろ頭が痛いのは事実だ。風邪にでもかかったのだろうか、微かに熱っぽい感じもある。病院に行かないと治らないとは限らないが、長引くと仕事に支障をきたす。なら、早い時間から病院へ行こう。
 布団から起きあがり、その足でキッチンへ行き、水を飲む。そういえばこの家には水道水の他に飲み物がない。いずれ買おう、滅多に来ない客が来たときに水道水を出して驚かれたくはない。病院の帰りにでも買うとするか。