三ヵ月後


どれくらい眠ったのだろう・・・


気だるい中、俺は目を覚ました

ん?

何処だここは?病院か?

俺は事故ったことを思い出した

手!手は!?・・・・・ある!

夢だったのか・・・しかしすごくリアルな夢だった・・・いやまてよ

事故したのに身体に痛みがないぞ・・・

多少、頭がふらふらするものの俺の身体は大丈夫そうだ。


どこまでが夢でどこからが現実なのか、わからないまま俺のベットを仕切っていたカーテンを開けた


少し離れた位置に俺と同じようにカーテンで仕切ってあるベットがもう一つあった

部屋の広さは10畳くらいだがいろんなところに監視カメラみたいなものが無数にあった


入り口のドアが「コンコン」と鳴る


ドアが開き入ってきた人物は、なんと夢で見たと思っていた男、田神だった!


夢ではなかったのだ。

ということは、俺は全身麻痺状態だったところから田神との約束の手術のおかげで回復したのか・・・

いや、新しい身体とか田神は言っていたが・・・そういえば・・・

なんだか身体が一回り痩せたような気もする


俺は田神に真意を問いただした


田神は冷静に聞いてくれというと、淡々と説明を始めた。

俺はこの後、驚くべき事実を聞くことになる。


俺は脳死状態だった男子高校生の身体を禁断の脳移植という形で手に入れていた。


田神は一枚の紙を俺に渡した

その紙には俺の拇印らしきものがおしてあった

意識が薄れゆくなかで俺が最期にかわした書類だった。


俺は読み始めて、今自分が置かれている立場あらためて知った


俺の死亡届は提出されていること

以前の親族、友人、知人との接触を禁じること

記憶喪失として今後は「宇野 幸一」ではなく「榊 信吾」として生きていくこと

頭にはチップが埋められ24時間監視されているということ

この秘密を他人に話せば強制連行されるということ

月に一度はWOTの施設で検査をうけること

後遺症、副作用には責任を持たないということ

以上のことを守れば自由に生活していいとのこと


普通だと不安に悩ませるのであろうが俺には願ってもないチャンスのように思えてきた

自分の人生に不満だらけだった俺だ

金が無くなると同時にいなくなった友人、知人

親族といえば九州のおふくろだけだ、正体は明かさずともなんらかの援助はできるはずだ

以前から人生やりなおせればと、夢にまで願ったことかもしれない。


俺は田神に鏡を要求した

鏡に映った自分を見ると、そこには見たことも無い顔の若い男がいた

少し切れ長の二重の目、鼻筋のとおったシャープな鼻、髪の毛は短かく

何よりも印象的だったのは、薄情そうな口もとだった。

特別男前というわけではないが、肌の艶は若さの象徴だった。


これが俺の新しい顔なのか・・・


榊信吾としての人生に不安はあったものの

俺は新しい人生を前向きに受け止めた。



田神から渡されたもう一つの書類

榊信吾の書類に目を通しながら俺は新しい身体と顔を何度も何度も触りながら何週間かを過ごした。



もうお分かりだろうがWOTの緊急車に巻き込まれ踏まれた身体は俺だった。


目が覚めると、俺は真っ白い部屋の中央におかれたベットに寝ていた

痛みはまったく無く、なんだかふわふわした感覚だけがあった

俺は自分が事故にあって記憶が飛んだことを思い出した

身体には何十本の管が通してあり、目で辺りを見渡すのが精一杯くらいのがんじがらめのなか

俺に一人の男が近づいてきた。

男は自分が脳神経外科医の田神だと俺につげると耳元で俺にささやく


「生きたいか?」


突然のその言葉に俺は、一瞬頭が真っ白になった・・・

俺は死ぬのか?それほど重症なのか?生きたいといえば助かるのか?

色々な思いが頭をめぐる


涙を流しながら声にならない声で必死に叫んだ「い・き・た・い。」


田神はある書類に俺の拇印の許可を求めてきた

詳しくはわからなかったが生き残るための手術とかの書類だろうと思い、小さくうなずき

俺は手を出そうと・・・・・

!!

感覚はあるが、俺の右手の肘から先がない!

左手はどうだ!?

肩から包帯でぐるぐる巻きだがなんとかあった

しかしピクリともうごかない・・・


田神は動揺する俺を見ると動かない俺の左手の親指に朱肉をつけると書類に押し付けた。


準備が整ったらしく俺はオペ室へ移動させられる

このとき俺は気づいた

この、ふわふわした感覚は首から下の自由がきかない身体の独特の特徴だということに

今にも動きそうなのにピクリともうごかない全身

何もできない俺はすべてをこの医師、田神にゆだねるしかなかった。


手術室に入るとそこには白衣に身を包みマスクをした全身白ずくめの白髪の女が立っていた

まるでそれは白い悪魔のようだった

手術は田神とこの白髪の女がおこなうようだ


手術服に着替えた田神が俺に近づき話し始めた

「もうあまり時間が無い、君の身体は限界がせまっている、これからいうことを

 心して聞くように。

 先ほど承諾してもらった書類に従いこれから手術をおこなうが

 君の身体は事故により、脊髄がぼろぼろに損傷して

 首からしたの神経は修復不可能だ。

 君がこれからも普通に日常生活を続けることは出来ない

 だから今から君に新しい身体を提供する。

 成功すれば、君は今までどおり、いや今以上の身体を手に入れることができる。

 文句は無いはずだ。

 失敗、後遺症、問題はあるかもしれないが君は一生ベットの上にいるつもりは無いだろう。

 では、始めるぞ。」


いろいろ聞きたいことはあったが

なぜか説得力のある田神の話と、口に当てられた麻酔のせいで俺は眠りに落ちた・・・・



俺は夢をみていた


実家の九州に一人で住んでいる母の夢だった・・・






即死の夫の遺体は奥田の病院に残すことになり

信吾と智香はWOTの医療施設に移すことになった


二つのストレッチャーが病院内を走る

緊急出口の先には、大きな霊柩車を想像させるWOTの特別緊急車らしきものがあり

その見た目はとても救急車には見えないのだが、中は飛行機のコクピットのように

素人には扱えない精密機械の要塞のようだった

四つある医療ベットの二つに信吾と智香は運ばれた。


「さぁいくぞ」と声をあげる田神


母町子は田神と女がのる先導車の後部座席に乗り込む

ハンドルを握るのは白髪の女

WOTの施設へと走り出す二台の車


WOTの施設兼本部はこの病院から車で約40分

容態が悪化しつつある信吾と智香には時間の猶予はなかった

帰宅を急ぐ車の群れで高速一般道ともに混雑しているなか二台の車は施設をめざしていた


病院から20分ほど走った時、先を走っていた田神と町子同乗の車から後ろのWOTの救急車が少し離れた。

その隙間にするりと割り込む若いカップルが乗るミニバン

ミニバンを追い抜いて田神の車に近づこうとしスピードをあげるWOTの緊急車

パッシングをしてミニバンに合図をおくるがいちゃつくカップルには目に入らない

三車線の右から抜こうとするが前には大型トラックが

やむなく左にハンドルを切りアクセルを踏み込んで車線変更をしたその時!


同時にアクセルを回してスピードをあげた一台の原付バイク


接触する二台

緊急車の左のドアにぶつかりバイクごと車体の下に引きずりこまれる男

後ろのタイヤに全身を踏まれ体がよじれる

巻き込んだバイクを引きずりながら走る緊急車

飛び散る火花の中

緊急車のブレーキ音が鳴り響く


左に車を寄せる白髪女

あわてて飛び出し後方へ走り寄る田神と白髪女

緊急車の下を覗き込むと、グチャグチャになったバイクと血を流して倒れている男

バイクをはねのけ男を引きずり出す緊急車の運転手


とりあえず男は息はあるようだった。


緊急車はタイヤエンジンともに走れる状態だったため

田神はこの男を緊急車に乗せて施設へ運ぶように運転手に指示をした


抱き合って白い顔をしているミニバンのカップルを横目にWOTの緊急車はまた走り出した。



こうして信吾、智香、バイクの男を乗せた緊急車は田神、白髪女の車の先導のもと

WOTの施設へと向かっていった。