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静かな夜
俺たち二人の密談は開始される
智香の話に一点を見つめながら、耳を傾ける俺
息を大きく吸い込むと、智香がしゃべりだす。
「これからは、兄と妹ではなく、一人の人間対人間として、話す事にします。
もう解かっているとは思いますが、私は脳移植してこの身体を手に入れました
これは、あなたにはすぐ理解できますよね
ただし
私はあなたとはちがって、この移植は初めてではありません。
私は三回目の移植になります
最初は私と同じ・・・あ、失礼しました・・元々の私の事から話さなければいけませんね。
私の本当の歳、脳年齢とでもいいますかね、
28歳・・いや、あれから5年ですから33歳になりますかね。
もともとは男性でした。
一流の大学をでて、証券会社に進み、将来も約束されたような日々でした。
その時勤めていた会社は、私募ファンド系の会社で、よく一方的買収をやっていたんですが
その件で、相手ともめましてね、頭に血がのぼった相手の会社の役員に刺されまして、
緊急病棟に担ぎこまれました。
ICUでチューブだらけの私に脳移植の話を持ち込んできたのは、
あなたもよくご存知の田神でした。
そこで用意されていた身体は年齢も近い男性でした
まぁ、外見は変っていたものの、その身体の持ち主は天涯孤独だったということもあり、
そこそこ楽しい時間を過ごさせてもらいましたね
驚くべきは、今までに無い能力を身につけられたということでした。
ふぅ。
喉渇きません?飲み物取ってきますね。
少しお待ちください。」
そういうと席をたち、飲み物をとりに部屋を出る智香
俺は、智香の告白に半信半疑だったが、智香の落ち着き具合、話し方などを考えると
まんざらでもないような、不思議な気持ちだった。。。
しばらくすると、智香が缶ジュース二つもって帰ってきた
一つを俺に渡すと、自分の缶を開け、飲みだした。
「続きはじめましょうか?」と、智香
無言のままうなずく俺。
智香の口が開く
「どこまで話しましたっけね?んー能力の話でしたね。
そういえばこれから信吾君と呼ばせていただきますね。
あなたの本当の名前知りませんからね。」
と、にやける智香。
「信吾君、サヴァン症候群て、ご存知ですか?
知的に障害がある人が、その障害を埋めるがごとく
特定の分野で驚くほどの能力を発揮する人達の事です。
WOTは、それを利用して人工的にサヴァンの人々を作ろうという研究を
している組織なのですよ。
脳移植をしてあげて新しい人生を、なんて良心的に聞こえますが、
人体実験なのですよ。
方法としては、脳の一部分を削除して、新しい身体の頭に移植する
移植された脳は、足りない部分を補おうと、ちがう部分が飛躍的に
成長、発展するというしくみですね。
解かりやすく説明すると
脳は、大きく分けて大脳・小脳・脳幹、の三つにわけられます。
小脳は、欠落する部位があるとリスクが高く、脳幹の欠落は命に支障がでるみたいで、
いじることは現段階では、出来ないみたいです。
問題は残る大脳です。
人間にとってもっとも重要な部位ではありますが、
この大脳を人間が使っている割合は一割から二割ぐらいだと言われています。
残りの八割を簡単に引き出せれば問題は無いのですが、
やはりブレーキなるものがあるらしく、非現実的らしいです。
そこで、WOTが目をつけたのがサヴァン症候群です。
一番害の少ない大脳の一部を、一般生活に支障が無い程度に削除して、
ゆうなれば、現実離れした能力を、備え付けさせるという悪魔の考えですね。
私の事例で話しますと一度目の脳移植では
大脳の中でも、前頭葉、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、とありますが、
その中の頭頂葉を一部削除しました。
結果、異常なまでの集中力と持続性が新しいサヴァンスキルとして覚醒しました。
何時間同じ体制でいても、同じ行動をとっても疲れが感じにくくなり、
このグローバル化したネット社会では、寝ることも無くトレーダーライフ三昧というわけです。
副作用も・・・ありますが、それはスキルの代償だと思わなければ仕方ないですね。
ここの場所まで脳のスキルが到着することを、WOTではセクション分けしていて
脳移植なしでのスキル、まぁ本当のサヴァン症候群の人達を、セクションA。
一度の脳移植でのサヴァンスキル覚醒がセクションB。
二度目の移植でのサヴァンスキル覚醒がセクションC。
以降、D、E、F、G、と呼ばれていますね。
信吾君にスキルが備わればセクションBの住人と言うことになりますね。
信吾君のことだからもう気づいているとは思いますが、
WOTで脳移植されて監視下におかれている人は私達だけではなく、
もっと沢山いると言うわけです。
なかでも・・・別格ですが・・シオン・・・
あいつは・・・セクションJとか・・Kとか・・・恐るべきは、あいつですね・・
何者なのかもわかりません。
ただ、すべての移植手術はシオンが、おこなってっています。
神の手を持つ医者です。
何故あいつだけが、監視もされず、田神と共に行動しているかは謎ですが。。。
私には覚醒した仲間が何人かいて、今も連絡をとっています。
私は・・・シオンに対抗しているというわけではないのですが・・
一度目の覚醒に飽きた時期に、セクションCにたどり着きたくて
自らの命を絶ちました・・・。
当然脳には損傷はないようにです。
より協力なスキルを得る為に、私が五年間スキルのおかげで稼いだ
すべてマネーと交換に、異性異世代脳移植を志願して智香の身体を手に入れたと言うわけです。
今回は、前頭葉の一部の削除も以来しました。
新しい智香の頭蓋骨は、少し小さすぎたみたいで、多めに削除したそうですが。。。
これから成長する骨格なので、脳が成長するのが楽しみですね。
重要なことは、異性移植です。
男性の脳と、女性の脳は、ホルモン等による影響で、異なるみたいですが、
それが、どう転ぶのか非常に興味があります。
信吾君・・・
これから言うことは、忘れないでください。
サヴァンスキルを身に着けたとはいえ・・
私達は、モルモットと同じなんです!
私は・・・副作用が確実に、身体を蝕んできています。
智香の身体になってからは、聴覚、視覚の発達がものすごい勢いで覚醒しています。
ただ・・・
運動機能の低下と、なぜか抑えられない自分自身の感情に悩まされています。
まだまだ、この症状は悪化していくにちがいありません
WOTを絶対に信用、信頼しないでくだい。絶対に!」
智香は熱く俺に語った・・・
智香が何故俺にここまで話すのか、このとき俺にはわからなかった。
田神は待ち合わせの時間きっかりに迎えに来た。
俺と智香を見送る町子。
なんだか遠足にでも出掛けるかのような態度の智香。
施設に着くとさまざまな検査を受けた
二、三時間は、過ぎただろうか
最期のほうには、なんだかIQテストみたいなこともやらされた
すべての検査が終わり面談室みたいな部屋に案内された
机の上にはパソコンと、先ほどのデータの書類らしきものがファイリングされてあった
奥のイスには、あの白髪の女医が、鋭い目つきで、こちらを見ていた。
田神からの質問が始まる
「榊信吾君。
新しい身体、生活には少しは慣れましたか?
若い身体はいいものでしょう。
ところで移植による副作用の件ですが
少しずつ変化が出てきている傾向がありますね
御自身でも、なにか感じることがあるのではないかね?
今後も定期的に、こちらに通っていただくことになりますが
くれぐれも、契約違反だけはないようにお願いしますね。」
わかってますよ。と、言わんばかりに俺はうなずく。
まだ智香の検査には時間がかかるみたいで
しばらくこの部屋で、待機することになった俺は、
テーブルの上に置いてあるタバコを見つけた。
そういえば・・・あの事故のとき以来吸ってないなぁ・・
まぁ、吸いたいと思ったことも無かったが。
待ち時間が長引きそうだったので
田神に訊ねた
「タバコいいですかね?」
田神はチラッとこちらを見ると、にやつきながら答えた
「君はまだ、未成年なんだよ。
まぁ、かまわんが、好きにするといい」
タバコに手を伸ばし 一本取り出すと 高価そうなライターで火をつけた。
一服目を大きく吸い込むと、おおきくため息まじりに、煙を吹き出した。
ゴホッ!ゴホッ!ゲホッ!!
俺は激しくむせた
榊信吾は、タバコも吸ったことが無かったらしく
この若い健康体の身体には、ニコチンは初体験だったらしい
それよりなにより・・・
すごくまずく感じている俺もいた。
頭がクラクラしてきて、吐き気さえもしてきた・・・
もう二度とタバコを吸う事はないだろう。。。
田神は何も見なかったようなそぶりで、智香の検査室に行ってくると告げると
部屋を出て行った。
部屋は俺と白髪女二人だけになった。
なんだか異様な空気が漂う中
白髪女のキーボードを叩く音だけが響く
カタカタカタ・・カタカタカタカタカタカタカタッ・・
今まで見たことの無いような恐ろしいほどの速さ・・
本当に間違いがなくタイピングできているのであろうかと疑うほどの速さだ
名前を聞こうと思ったが、その光景に見とれてしまった。
と、その時
タイピングの早さはそのままで、白髪女の口が動く
「私はシオン」
!?
ん?
俺は、いきなりの出来事に
「あぁ、よろしく・・・」
としか言えなかった。
シオン・・・不思議な女だ
すごいタイミングで名乗りやがるな・・・まるで見透かしたみたいに
するとまたタイピングがてらに、シオンが話す
「名前、そろそろ聞きたいだろうと思って」
まただ・・・
こいつは・・・俺の考えが解かるのか・・
タイプの音が止む
こちらを向くシオン
目と目が合う
と、その時ドアがノックされ
田神と智香が入ってきた
「もう今日は帰っていいぞ。表の車に乗っていてくれ」と田神。
シオンの事が気になったが、何も無かったようにタイプを続けるシオンを横目に
俺と智香は、部屋をでて、車に乗り込むことにした。
帰りの車の中で智香は、なんだかすごく上機嫌だった。
俺はといえば、シオンのことが気になってしょうがなかった
家に帰ると町子は、すき焼きを作って待っていてくれた
シャワーをすませ、台所に行くと、智香がテーブルに座っていた。
久々に三人そろっての夕食の時間だ
帰りを待つ間に作るすき焼きは、町子にとっては、苦い思い出だったみたいで
町子は、それが『とらうま』みたいになっている様子だった
「私が、すき焼きを作って待っていると誰も帰ってこない・・・
そんな気がした・・ でも今日は、二人とも帰ってきた」
泣きながら町子はそう言った。
俺は、この人は大切にしなければいけないような気がしたが、
まだ、なんて言葉をかければいいのかは思い浮かばなかった。
家族いや、言うなれば【仮族】の食卓は、会話こそはずまないが
町子にとっては、嬉しいことだっただろう。
夕食後部屋に戻ると、智香が俺の部屋を訪れた。
智香は雄弁に話し出す
「田神から聞きました。あなたには、何か能力が備わったようですね。
早く使いこなせるようになるといいのですが。
私は、セクションCの段階までたどり着きました。
まぁ、こんな事を言ってもあなたには、さっぱりだろうけど
田神には禁止されているけど、私がこれから色々説明して
あなたの能力をレベルを上げるようにしていきます。
私に任せておけば問題ありませんから。」
俺の不安は的中していた。
やはり!こいつは脳移植だったか。
どんな奴がこいつの中身なんだ・・・
能力?セクション?レベル?
智香には、聞かなければならないことが山ほどあった。
そして俺は恐ろしい事実を知ることになる。。。