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BBブリッジ公式ブログ クワトロB(BB-Bridge Blog)

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おはようございます。
BBブリッジの番場です。

先日、米国Proteus Digital Health(プロテウスデジタルヘルス)のCEOであるAndrew Thompson氏の講演を聞く機会がありましたので、ご紹介したいと思います。
Proteus Digital HealthはITと医薬品・医療機器技術を融合させた製品・サービス(これを彼らは「デジタルヘルス」と呼んでいます)の研究開発を行っている米国ベンチャーで、2003年にカリフォルニアで創業しています。会社の概要については以下のHPを参照ください。
http://www.proteus.com/

Proteus Digital Healthの中核技術・サービスは薬剤の服用を正確に把握・管理できるデジタル錠剤システムです。デジタル錠剤システムは通常の医薬品の錠剤に小型のセンサー(大きさ1mm)を結合させたもので、このセンサーはシリコンチップ製であり、微量のマグネシウム・銅が含まれています。この錠剤を服用すると胃液とマグネシウム・銅が反応し電流が発生し、センサーからシグナルが発します。このシグナルを患者の体表面に張り付けたパッチ型の小型検出器で検出するというものがデジタル錠剤の原理です。デジタル錠剤の仕組みはガルバニ電池の原理を応用しています。
体表面に装着する検出器は医薬品の服薬データだけでなく、心拍数・活動量(歩数・カロリー)など様々なデータを検出することが可能です。集めたたデータはスマートフォンやタブレット端末などに転送され、医師や看護師などの医療従事者、家族が行う服薬管理に役立てることができます。また、日常現場では異なった複数の医薬品が同時に服用されていますが、シグナルの種類を変えることで複数の医薬品を同時に服用してもそれぞれ個別に検出できる技術もすでに確立されています。

本製品は既に欧州・米国で製品名「Proteus® Patch Including Ingestible Sensor」として医療機器の承認を得ています。CEOの話では本センサーシステムを複数の種類の錠剤に利用することについて、FDAと合意しているとのことでした。

Proteus Digital Healthのデジタル錠剤はまずは治験での利用が有望であると思います。治験では被験者から様々なデータを取得します。仮に患者間で効果や副作用の発現に違いがあった場合、従来では治験中の定期的な検査データや医師の見解に基づいて検討されます。本システムを使っていれば正確な服用時間や服用時の心拍数など様々なデータが入手できるため、より正確で詳細な解析が可能になります。これによって効果が得やすい/副作用を抑えやすい患者群や服用パターンを明らかにできるかもしれません。既にProteus Digital Healthではシステム大手Oracleと治験向けのデータ取得・管理システムの開発を進めています。将来的にProteus Digital Healthはデジタル錠剤という製品の販売ではなく、治験のデータ管理システムとして製薬企業に対してビジネスを行うことが想定されます。

もう1つの利用場面である日常生活においては、慢性疾患や精神神経疾患の服薬アドヒアランスに利用できます。例えば服用時間のバラツキが大きくなればスマホなどで患者や家族に注意を促すなどの対応が考えられます。正確な服薬アドヒアランスは治療効果を最大限得るという面で非常に重要です。但し、服薬状況が正確に把握できるだけでは不十分であり、患者自身がより正確な服薬を心掛ける仕組みが必要です。そのためには患者へのインセンティブが必要で、Proteus Digital Healthでは様々なインセンティブを検討しているとのことでした。例えば正しく服薬ができていればポイントがたまり、そのポイントを患者団体への寄付に利用するなどです。インセンティブが働くことで患者はより正確な服薬を心がけることができ、医薬品の効果を最大限に発揮させることができます。課題はインセンティブのための資金をどこが負担するかということですが、個人的にはインセンティブは高額にはならないため、製薬企業が負担することになると思います。製薬企業もデジタル錠剤システムで得られたデータの一部をフィードバックしてもらうことで十分な価値を得られます。

Proteus Digital Healthでは2012年には大塚製薬とCNS領域におけるデジタル錠剤の共同開発を締結しています。大塚製薬は統合失調症治療薬エビリファイに代表されるCNS領域に注力しており、センサーシステムを活用することでより正しい服用アドヒアランスを促進するシステムを開発することを共同開発の目的の1つにしています。

医薬品産業に大きな影響を与える可能性があるProteus Digital Healthの技術ですが、解決すべき課題もあります。例えば通常、患者は異なった製薬企業の多数の医薬品を同時に服用しているため、デジタル錠剤をシステムとしてどのように導入するか、製薬企業間の利害関係の調整を如何に上手く行うかが普及拡大の大きなカギになると思います。また、日常生活での利用において服薬アドヒアランスのためだけにパッチ型の検出器を常に装着し続けることは容易ではありません。腕時計型の検出器の開発など利用者により負担の少ない検出システムの開発も必要です。


いずれにしても治験の現場ではProteus Digital Healthが開発しているようなITを使った服薬管理システムが普及することは間違いないと思います。今まで得られなかった患者データによってどのような新たな発見や革新が起こるのか、非常に期待されます。