おはようございます。
BBブリッジの番場です。
前回のブログではポーランドのライフサイエンス産業の概況について記載しました。今回はポーランドのバイオ系ベンチャーの概況や注目企業の動向についてご紹介したいと思います。
(1)Selvita S.A
2007年に設立された創薬ベンチャー。がん領域において各種キナーゼ阻害剤の開発を進めており、Merck SeronoやH3 Biomedicine(エーザイ子会社として2011年に設立)と提携している。2015年8月時点で従業員は260名以上。
(2)Mabion S.A.
2007年に設立されたバイオCDMO(バイオ医薬品の受託開発・製造企業)。動物細胞は400L、微生物は200Lスケールまで対応。また、自社製品として抗CD20抗体や抗HER2抗体のバイオシミラーの開発も進めている。
(3)Blirt S.A
2008年に設立された創薬ベンチャー。感染症およびがん領域を対象とした低分子医薬品の開発を進めている。また、製薬企業等からの研究受託も行っている。
(4)Proteon Pharmaceuticals
2005年に設立されたバイオベンチャー。家畜を対象とした医薬品の開発を進めている。
(5)Genomed S.A
2007年に設立された診断系ベンチャー。次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析サービスなどを提供している。
(6)MEDICALgorithmics S.A.
2005年に設立された医療機器開発ベンチャー。ポケットサイズのポータブル心電図の開発・販売を行っている。
上記のように医薬品や診断分野において2005年以降多数のベンチャーが設立されています。この中でも新しい乳がん用の検査システムの開発を目的に2008年にポーランドの研究者によって設立されたBRASTER S.A.(http://braster.eu/)について詳細を記載したいと思います。
通常乳がんのスクリーニング検査はマンモグラフィが利用されますが、マンモグラフィは放射線被ばくがあり、さらに乳房を挟むため検査を受ける人に痛みが生じるなどの課題がありました。
BRASTERが開発している新規乳がん検査システムである「BRASTER Tester」は、乳がんの発見のために立体型サーモグラフィ検査装置を利用しています。がん細胞は毛細血管を多く作り細胞分裂を繰り返しているため、正常組織に比べて温度がやや高いという特徴があります。この特徴を小型の接触型立体サーモグラフィで検査することで安全かつ非侵襲的に乳がん検査が可能というものです。
BRASTERのコア技術はサーモグラフィに独自開発した温度によって変化する特殊な液晶を利用していることで正確に温度変化を検出することです。具体的にはchiral liquid-crystalと呼ばれる特殊な液晶を用いることで、3色(青、赤、緑)で温度を表すことができます。実際の検査時間は20~30分程度です。
同社が行った臨床試験ではBRASTER Tester単独でも十分な効果/有用性を確認していますが、従来のマンモグラフィや超音波検査と組み合わせることでより効果が上がることを確認しています。サーモグラフィによって得られた画像の自動解析機能を活用することで、検査の性能は感度90%・特異度75%以上に向上する可能性があるとのことです。
BRASTER Testerは欧州で既にClass Iの医療機器として登録されており、2016年にはポーランド国内で販売が開始される予定です。同社のビジネスの特徴はBRASTER Testerの販売だけでなく、遠隔診断を利用した診断補助サービスを組み合わせていることです。これは検査で得られた画像をBRASTERが持つデータセンターに転送し、そこで一定のアルゴリズムに従って画像解析を行い、その結果がクリニック・病院に返却されます。解析された画像を見ながら医師は最終的にがんの疑いが強いかどうかを判断し、がんの可能性が高い場合は生検を行うなどの処置が行われます。日本で一般的に販売されている画像診断装置には解析ソフトウェアが付属しているケースは多いですが、BRASTERのようにデータを送付し、解析後のデータを受け取るというサービスは非常に珍しいです。
がん検査としてのBRASTER Testerの性能やサービスの利用料にもよりますが、読影に忙しいクリニックや病院ではBRASTERのようなサービスへのニーズは高いと思われます。
BRASTER Testerの最も大きな課題は検査時間です。乳がんのスクリーニング検査に患者一人当たり20~30分程度かかるのは長いと思われます(従来のマンモグラフィ検査は10分程度)。実際には10分以下での検査終了が望ましく、また、実際の検査も人件費の高い医師ではなく検査技師でも高い精度の検査が実施できることが必要です。
放射線を使用しない乳がんの非侵襲検査は、光超音波(光音響)技術など新しい技術を導入した開発が積極的に進められています。この状況の中でBRASTERの技術がどれだけ医療現場で受け入れられるか、注目されます。
また、教育水準も高くEUに加入している利便性がありながら物価が比較的安価なポーランドは、医薬品の製造拠点やバイオベンチャーの設立等で今後、注目される国の1つになると思います。