BostonでのCAR-T療法、TCR療法関連会議への参加 | BBブリッジ公式ブログ クワトロB(BB-Bridge Blog)

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現在、T細胞遺伝子改変療法であるCAR-T(Chimera Antigen Receptor T-cell Therapy)療法およびTCR(T Cell Receptor Therapy)療法の世界の開発動向や将来展望に関するレポートを作成しております。

「T細胞遺伝子改変療法(CAR-T/TCR)開発の最新動向と将来展望」(2016年1月発刊)


本レポート作成のための情報収集を目的に先日Bostonで開催されたビジネスカンファレンスに参加しました。本会議にはBluebird bio、Cellectis、Juno Therapeutics、Kite Pharma、Novartis、GSKなどCAR-T/TCR療法の開発を進める有力ベンチャー・大手製薬の大半が参加しており、参加者は300名以上、T細胞遺伝子改変療法への注目の高さを改めて感じさせられました。

 T細胞遺伝子改変療法はがん医療に革新をもたらす技術として欧米の多くの企業が参入、研究開発が急速に進んでいます。欧米における現在の研究開発はベンチャー企業が中心ですが、大手製薬企業はこれらベンチャーと提携することで技術や候補品の開発権を得ています。世界ベスト10に入る製薬企業の多くがCAR-T/TCR療法開発に参入しています。

CAR-TやTCRの開発動向について、最も開発が進んでいる候補品はフェーズII段階であり、製品として上市されるにはあと1~2年かかるものと思われます。
一方、CAR-T/やTCRは既に第2世代や第3世代の開発に入っています。これらの開発の方向性は安全性の向上や他家細胞の利用による利便性の向上/低コスト化です。安全性に関して、CARを投与後に無効化・コントロールする技術が進んでおり、例えばT細胞にCAR-Tだけでなく市販抗体医薬に対するエピトープも同時に発現させ、CAR-Tの投与後に副作用が生じれば抗体医薬を投与することでCAR-Tを無効化させる技術などの開発も進んでいます。また、キメラ受容体の遺伝子導入はex vivoで行うため、ゲノム編集との組み合わせとの相性も良く、例えばゲノム編集によってT細胞のTCRをノックアウトすることで、他家細胞由来でHLAの適合を考慮する必要がないCAR-Tを利用できる研究開発も進んでいます。
さらにキメラ受容体をT細胞に発現させるのではなく、NK細胞に発現させることで対象疾患や標的の異なったCARの開発を進めているベンチャーもあります。
 CAR-T/TCR療法は急速に技術開発が進んでおり、今後、がん治療の主役になる可能性があります。適用疾患も血液がんから固形がんに広がり、さらにHIVやHPVなどの感染症や自己免疫疾患などへの応用も検討されています。また、日本ではCAR-Tへの注目度が高いですが、欧米ではCAR-Tだけでなく安全性の高いTCR療法の開発も多く進んでいます。

 このように期待の高いCAR-T/TCRですが、実用化への課題も多くあります。例えば製造や知財、コスト(薬価)です。
 製造について、患者由来のT細胞を用いるのであれば、Local展開は通常の医薬品のようにはできません。開発側はそれぞれの国で適した事業パートナーを見つける必要があります。これは再生医療等の外部委託に関する法整備がされた我が国において大きなビジネスチャンスであるとも考えられます。
 特許についても入念な検討が必要です。例えばCD19を標的としたCAR-Tの開発元であるSt. Jude Children's Research Hospital(Juno Therapeuticsが実用化権を取得)とUniversity of Pennsylvania(Novartisが実用化権を取得)の間では2012年より特許係争が続けられていました。係争の詳細は割愛しますが、2015年4月に両社は和解し、Novartisは和解金として1,250万米ドルをJunoおよびSt. Judeに支払い、さらに当該製品が上市されればその売上の一部をロイヤルティ(2ケタ台前半)をとして支払うという内容です。
 CAR-T/TCRの価格(薬価)について、一連の治療で1,000万円を超えることが確実で、製造工程の標準化や他家細胞の利用などによって低コスト化も非常に重要です。

 日本のCAR-T/TCR関係の動きとして、国立がんセンター発ベンチャー「ノイルイミューン・バイオテック」が2015年4月に設立されています。一方、欧米のような大手製薬企業の参入はまだ少ない状況です。
 CAR-T/TCRが実際にどのようにがん医療に貢献し、各企業がどのように研究開発を進めるのか、ビジネスとしてどの程度成功するのか、非常に注目されます。


会議場の様子