馬場 「(ガチャッ)おーいとっさん! いるか!?」

土佐犬民 「オイーーッ! デ・ジャ・ブ! 何回言うたら分かるがぞおまんは! ええ加減にせれよ! 鍵の意味が無いじゃろうが!」

馬場 「まあまあ、どうだよとっさん。初テレビ後の反響は」

土佐犬民 「反響? 知らん。どうせおらの悪口ばっかりじゃろ。じゃき誰とも会わんしテレビもネットも見んとマインクラフトばっかりしゆうぜよ」

馬場 「いや実はな、ネットで少し反響があったんだよ。リアルな放送事故ってタイトルで動画が上がってて、“本当にタイマン温泉だった”“今時こんな番組あるのか”とかいうコメントがちょこちょこあって結構な再生回数だったよ。“職種を明かさないのは怪しい”ってとっさんに否定的なコメントもあったんだけど、“もうちょっとこの人見てみたい”とか“初対面でえいじを引かせたのは凄い”とか、とっさんに注目してるコメントもあってな、だから落ち込むことなんてないよ。幸いとっさんの為に立ち上げた芸能プロダクション『おらんく』にも苦情は一件も来てない。ってか電話番号ないけどな、ガッハッハ!」

土佐犬民 「まぁ色んな意見があろうがあれが最初で最後のテレビ出演じゃろ。初テレビで放送事故起こした人間じゃきの、何するか分からん人間をテレビに出すわけにはいかんろう」

馬場 「でもドリー伊藤さんが言うにはああなることは織り込み済みだったってさ。生放送で温泉、しかもえいじをキャスティングすることで何か化学反応が起こるんじゃないかと。とにかく視聴者にショックを与えたかったってさ。で、実はまたドリーさんから手紙を預かってるんだ。とりあえず読んでみようや、あらら長文だな、『おい郷! 生放送観たけどなんだよアレ。初テレビで放送事故だぁ? 何だそれ? お前のやってることは逃げなんだよ逃げ!』」

土佐犬民 「ぬぬぬ、相変わらず偉そうに説教こいち・・・!」

馬場 「『でもな、お前にもう一回チャンスを与えてやる。いいか? 最後のチャンスだ。“踊る明石御殿”に出ろ!』」

土佐犬民 「な、なぬっ!? 明石御殿言うたらあのお笑い怪獣、明石がやりゆうゴールデンの番組かよ!? アレにおらが出るつか!?」

馬場 「『どうだビビッたか! 今ビビったろ? 絶対ビビっただろ!』」

土佐犬民 「ぐぎぎ・・・!」

馬場 「『郷・・・いやあえて芸名で呼ぼう、土佐犬民よ。お前のあの放送事故の後、俺が調べてみたらお前は各局の出演NGリストに載っていた。金輪際どのテレビにも出ることは出来ない状況だった。だけど土佐犬民、俺はお前のファンだ! 通る声、分かりやすい性格、川藤幸三そっくりの愛嬌のある顔、お前はテレビで売れる要素を持っている! だから俺はお前を売り出すためにとにかく頭を下げた! 下げたくもない頭を何度も下げた! そしてなんとか明石御殿という大舞台への出演を取り次ぐことができた! 土佐、俺ができるのはここまでだ。後はお前の力で羽ばたくんだ! じゃあな!』・・・うっ、うっ、ドリーさん泣かせるじゃねえかよぉ。とっさん、こりゃ期待に応えるしかねえぜ」

土佐犬民 「ぬぬ・・・ドリーの奴どこまでが演技かよう分からん・・・!胡散臭いけんどおらがNGリストに載っちょったがは間違いないじゃろう。じゃきそれを頭を下げて懇願してくれたことも事実じゃろう・・・。ぬぬぬ、まあええわ、そこまで言うならやっちゃらあや」

馬場 「本当か! よっしゃ! でさぁ、俺思ったんだけど、何の仕事してる人だとか設定を決めるのはやめよう。実際バレたようなもんだからな。だから、聞かれたら無職ってハッキリ言っちゃおう! なんでテレビに出られるかってのもコネがあるって言っちゃおう! 逆にその方が面白いと思うんだよ。ただし! 何を言ってもいいわけじゃない、前回も言ったけどドリーさんや俺の名前は絶対言わないこと。これは冗談では済まない問題だよ」

土佐犬民 「うむ、もちろんそれは分かっちょる。まぁ、なるほどにゃ、オープンにすることで余計なことを考える必要が無いなるっちゅうことやにゃ。うむ、おらもその方がやりやすいしにゃ」

馬場 「ん? 番組の企画書も入ってる。見てみようぜ。お、西園寺豪も出るのか、あっ、しかもその後ろの席がとっさんだぜ!」

土佐犬民 「誰ぞ西園寺豪っち。そいつ有名ながか」

馬場 「マジか? アカダミー賞取った大御所俳優だよ。ホント興味ないことは知らねえな」

土佐犬民 「ふーん、ちょっと見せちみよ。なになに・・・司会者が明石・・そらそうやろ、他のメンバーは?・・・・知らん奴ばっかりぜよ。おっ?『昔田耕司』! こいつは知っちゅう!」

馬場 「あー、昔田は明石の参謀のような存在だから盛り上がりそうだな。それでなとっさん、俺はいつも通りのとっさんを出してくれれば世間が注目して、各局の出演NGリストからも外れると思う。でもいくらバラエティー番組だからといってもやっぱり戦場だよ。みんな爪痕を残そうと必死だ」

土佐犬民 「そらそうよ」

馬場 「つまりとっさんはな、ただでさえNGリストに入ってるんだからマイナスからのスタートなんだ。それをゼロに戻すレベルの活躍じゃ次に繋がらないわけだ。だから次に繋げるレベルの爪痕は残したいよな」

土佐犬民 「んん~、何回も言いゆうけんど無理してまで芸能界に入りたいわけじゃないぞ? そもそも芸能界に興味があったわけじゃないっち言うたろうが」

馬場 「でも売れたら今のアパートよりいい所に住める、ドリーさんへの恩返しにもなる、いい女と知り合うチャンスにもなる」

土佐犬民 「むむむ」

馬場 「とっさんの大好きな八代亜紀と共演できるかもしれないぜ?」

土佐犬民 「や、八代亜紀!」

馬場 「連絡先も交換できるかもしれないぜ?」

土佐犬民 「連絡先!」

馬場 「色んなことしちゃうかもよ?」

土佐犬民 「ハァハァ」

馬場 「とっさんが売れればみんなウィンウィンなんだよ。俺の株だって上がるし。とっさん、ピンチはチャンスっていうじゃないか。今回の件はまさに人生の転機だよ! 爪痕残そうぜ!」

土佐犬民 「ウガーーーッ!」


闘いは続く。
ヒョードル 「またかよベラトール! ローリー・マクドナルドvsジョン・フィッチ、ベンソン・ヘンダーソンvsアダム・ピコロッティ! もう潰れちまえクソ野郎!」
馬場 「(ガチャッ)おーいとっさん! いるか!?」

土佐犬民 「ぬおっ!! オイーーッ! 勝手にスペアキー作って部屋に入るなと前にも言うたじゃろ! 心臓がバクバクしよる! 何しゆうがぞおまんはホンッマに・・・。ほんで何ぞ!?」

馬場 「決まったんだよとっさんのテレビ出演が! 覚えてるか?」

土佐犬民 「テレビ? あー、そんな話もあったにゃあ。けんどなんぼいうたち待たせすぎじゃろ馬場ちゃん! 見ちみ、このマインクラフトの画面! 暇すぎち全マップでブランチマイニングやったぜよ! 現実世界やったら地盤沈下レベルぜよ! あ~あ、もう長すぎちやる気ん失せた。もうええ。馬場ちゃん、悪いけんどテレビとかもう面倒くさいちや」

馬場 「まあ聞いてよ、この件でドリーさんからとっさん宛ての手紙を預かってるんだよ」

土佐犬民 「うぬっ? ドリーから?」

馬場 「じゃあ読むよ。『おい郷ひろむ! 久しぶりだな! お前、俺と会ったとき番組お蔵入りにしてやるとか息巻いてたけど、そんなの中学生でも出来るからな! それは単なるビビリのやる事だぞ! 男だったら視聴率取ってみろ! 何が郷ひろむだ! バーカバーカ! 郷のバーカ!』以上」























土佐犬民 「・・・・ドリー殺す!(ペットボトルグシャッ)」
























馬場 「・・・・」

土佐犬民 「クソッ! ビビリのする事じゃと? 生意気に・・・! 別にテレビ出ることにビビっちょるわけじゃないぜよ! ほんなら出ちゃらあや! けんど馬場ちゃん、番組の内容次第ではブチ壊すかもしれんきにゃ!」

馬場 「まぁそう言わずにさぁ、とっさんにはウチの芸能部門で売れっ子になってもらいたいからちゃんと出て欲しいんだよ、頼むよ。とりあえずこれが番組の企画書だ。番組名が『タイマン温泉』つって、初対面の二人が温泉に入りながら本音でトークするっていう趣旨の30分番組らしいんだが」

土佐犬民 「ちょっと見せちみよ。なんぞ『タイマン温泉』っち・・・。だいたいおらからしたら芸能人は全員初対面やし本音もクソも、なになに・・・共演者“えいじ”? うぬっ?? おい、えいじ言うたらあの兄弟で芸人しよる兄貴の方の、あの態度のデカイ奴か! あいつとおらの二人が温泉に浸かりながらトークするっちゅうことか。ふうむ、えいじか。おらはあいつの正直なとこは嫌いやないぜよ。よっしゃ馬場ちゃん! この内容ならちゃんとトークしちゃってもかまんぜよ。約束する」

馬場 「そうこなくっちゃ! で、とっさんがさぁ、今回の番組に出るキッカケが必要じゃん? それでドリーさんがとっさんの印象を踏まえて考えてくれた設定がこれだ、“叱られたい人ランキング2019”第1位」

土佐犬民 「なぬ? 叱られたい人ランキング? そんなランキング聞いたことないぜよ?」

馬場 「だからぁ、そんなの無いけどとっさんを売り出すためのテイだよテイ。こういう手段を使って芸能事務所はタレントを売り出すんだよ。ちなみにえいじは2位ってことにしてるからトップ同士のトークって事だな」

土佐犬民 「いやちょい待てよ、有名人ばっかりならともかく、何で一般人のおらの名前が1位で出てくるがぞっちゅう話にならんかよ?」

馬場 「・・・言われてみればそうだな」

土佐犬民 「いや、そうだなじゃなくて大丈夫かよ? あ、ひょっとしてアレか? あのー、カットカット言うやつ。編集よ編集! ヤバい部分は編集でなんとかするっちゅう事かよ?」

馬場 「いや、実は生放送なんだ・・・」

土佐犬民 「オイッ! なんか色々と詰めが甘い! おい、すぐにおらのキャラクター設定を考える時間を作れ! 収録はいつぞ!?」

馬場 「・・・明日」

土佐犬民 「オイーーーーーーーーッ!」

馬場 「もうとっさんのアドリブに任せるよ! けど、くれぐれも俺たちの事は口にしちゃダメだよ! 信じてるから!」

土佐犬民 「あぁ、もう知らん。当たって砕けろぜよ!」



収録当日、温泉に浸かった土佐犬民のシーンからスタート。



えいじ 「(ガラッ)ああどうも、千原えいじと申します。初めまして」

土佐犬民 「おっ、えいじ! 来たか! 入れ入れ!」

えいじ 「えっ、いきなり呼び捨て? まぁ見た感じ俺より年上っぽいけど」

土佐犬民 「おっ、そうやにゃ、自己紹介を忘れちょった。えいじ殿! 土佐犬民と申します! 歳は60、高知出身、趣味はカラオケ、好きなタイプは色白ポッチャリ、血圧はとうとう200の大台を突破! そんな土佐犬民じゃけんどよろしゅう頼んます!」

えいじ 「何やけったいなおっさんやなぁ(笑)。それにしても俺が言う事やないかもしれんけど、アンタ声量がえげつないなぁ? 温泉やし余計に反響しまくってるで」

土佐犬民 「そう! おらは声がよぅ通るが! じゃき喋ると相手が怖がることがあるがぜよ。それがちと悩みかのぅ」

えいじ 「あっ、それ! せやねん! 俺もよう怖い言われんねん! 何やおっちゃん話合うやんけ!(肩をバンバン)」

土佐犬民 「オイーーッ! 年上の肩を叩くな! おまんはようテレビで観るけんど、そういうとこがいかん! 態度がデカいというたちホンッマに・・・・けんどまぁ、ふっふっふ」

えいじ 「ん? 何や急に笑い出して」

土佐犬民 「それぜよそれぇ。えいじよ、おまんのそのクッソ生意気な態度、おらは嫌いやないぞ。世間からは態度が大きいとか言われるかもしれんけど気にするこたぁない! おまんはこれからもそれで行け! 自分を貫き通せえいじ!」

えいじ 「分かっとるわ! 何回も言われとんねん!」

土佐犬民 「ヒッヒッヒ! 分かっちょったか!」

えいじ 「二十年以上言われてんねん! ほんであのー、土佐さん、なんちゅうかそのー、・・・・アンタ何してる人なん?」

土佐犬民 「おおお、おらはそのー、アレよ、アレ。そのー・・・」

えいじ 「え? 何? なんで急にドギマギし始めたん?」

土佐犬民 「えーとその、アレよアレ。ご想像におまかせしますっちゅうか、まぁアレぜよ」

えいじ 「え? 無職ってこと? 無職でテレビ出られるん?」

土佐犬民 「い、色々とあるがぜよ! もうこの話はええじゃろ! 次、次!」

えいじ 「ちょっと待った! 違うって、じゃあ誰なんやって聞いてんねん。土佐犬民て一回もテレビで観たことないし名前も聞いたことないし。言うたら悪いけどアンタその辺の酔っぱらいみたいな感じやで?」

土佐犬民 「ぐぎぎ・・・!」

えいじ 「俺、今回の叱られたいランキング見ててぇ、並み居る有名人を抑えて聞いたことのない人が1位になってるから、なんか変やなぁ思うててんけどぉ・・・。あ、分かった! ははーん、さてはお前、何の実績もないクセに誰か偉いプロデューサーのツテを使うて出てきたズブの素人やな!?」





















土佐犬民 「ぐっ・・・・(硬直)」

















えいじ 「ほら図星やろ! 汚いことしよんのぉ、恥ずかしないんけ!? テレビ出たい人間いっぱいおんねんぞ!」

土佐犬民 「うるさーーい!!(えいじのタオルを奪い取る)」

えいじ 「あっ! 何してんねん、生放送やぞ! お前も取れや!(土佐犬民のタオルを奪い取る)」

2人がフルチンで取っ組み合いを始め、急にCMに入る。

馬場 「あぁ~、やっちゃったよ。こりゃ次回はねえな・・・」

ドリー 「あーっひゃっひゃっひゃ! 最高だ! 思った通りだよ! いいぞ郷! ブッ壊せ! 昔の滅茶苦茶なテレビを取り戻せ!」


闘いは続く。