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高齢者の孤立防げ―とくし丸、移動スーパー、「買い物難民」救う。



2016/01/07 日経産業新聞



RT.ワークス 歩行補助ロボ 見守りや健康維持
 朝10時。徳島市の中心地から離れた住宅地に、1台の軽トラックが到着した。オレンジのシャツを着た夫妻が降り、素早く荷台の棚を開く。肉や野菜、パン、総菜……。スーパーにある商品がぎっしりと並んでいる。近くの1軒の呼び鈴を鳴らし、70代の女性が現れた。「きょうはこんなものが置いてあるのね」。トラックの周囲をゆっくり歩きながら食材を選ぶ。
 この「移動スーパー」の事業を2012年に始めたのは同市内に本社を置くとくし丸だ。目的は過疎地に住み、車を運転できない高齢者、いわゆる「買い物難民」を救うこと。経済産業省の推計によると、その数は全国約700万人。すべてがとくし丸の潜在顧客だ。
 とくし丸の社員は住友達也社長(58)を含め、わずか2人。軽トラックを持つ全国の個人事業主にノウハウとブランド名「とくし丸」を提供してネットワークを築いている。北は青森から南は鹿児島まで、現在の契約数は約100台分に達する。それぞれの個人事業主は1カ所あたり週2回、1日25~30件の住居や集合施設を巡回する。
定期的に訪問
 「顔をあわせて会話し、製品もトラックから選べる楽しみがあるのがなによりの強みだ」と住友社長は胸を張る。両親や近所の知り合いが買い物難民になる様子を目の当たりにし、ネット販売では提供できないサービス価値を生み出した。「定期的に訪問するので、独り住まいの様子もわかる。『見守り』の機能も併せ持っています」
 個人事業主はとくし丸が業務提携するスーパーの販売を代行する形で、商品を無料で調達する。トラックに積むのは生活用品などを含め毎日1000~1500点。個人事業主は店頭価格に10円を上乗せして販売し、売上高の約18%を得る。残りはスーパーが受け取り、売れ残った商品も引き取る。移動スーパーに在庫は残らない。とくし丸は1台単位のブランド使用料などが収益源だ。
 ユニ・チャームの高齢者向けおむつや、キユーピーの飲み込みやすい食品のサンプルを顧客に配り、アンケート調査を代行する取り組みも始めた。メーカーから手数料を得られるだけでなく、評判の良い商品を取り扱って売り上げを伸ばす好循環も期待できる。今は徳島県限定だが、16年中に全国に広げるという。
 少子高齢化や過疎化が生み出す問題は買い物難民にとどまらない。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると世帯主が65歳以上の高齢世帯は年々増えており、35年には独り暮らしの世帯がそのうちの約4割を占める。孤独死を防ぐ見守りや、介護の負担を減らす需要が高まっている。
 RT.ワークス(大阪市)は歩行を補助するロボットを開発し、15年夏に販売を始めた。全地球測位システム(GPS)や歩き方を検知するセンサーも搭載し、見守りや健康維持に役立てることができる。
 カートのように押して歩き、坂道では自動で加速し、下り坂ではブレーキがかかる。高齢者は家の中や近辺を歩くだけでも負担がかかる。代表取締役の河野誠氏(60)は「70代でも2倍歩くようになりますよ」と笑う。
 GPSやセンサーを搭載しているため、家族は携帯端末やパソコンから利用者の居場所を確認できる。歩数や歩行距離、歩幅の把握も可能。普段と大きく変わった項目があった場合は1カ月単位で家族にメールで知らせる機能なども開発中だ。
医療にも活用
 集めた情報は医療にも活用できる。歩行ロボットの今までの使用者は実証向けの場合も含めて100人以上で、膨大な歩行データが集積している。現在はある大学と共同で、利用者が脳梗塞や心筋梗塞など病気を患う前段階の傾向を分析。河野氏は「近くに家族がいなくても、大病の前兆を早く察知できる」と語る。
 河野氏はもともと船井電機で高齢者向けの製品を開発していたが、事業化が困難となり14年に部門ごと独立した。16年5月期の売上高は数億円になる見込みで、16年中に海外でも歩行補助ロボットを販売する。
 ソフト開発会社のフューブライト・コミュニケーションズ(東京・港)は独り暮らしの高齢者と会話ができるロボット用アプリ(応用ソフト)の開発に挑んでいる。「会話をせずに生活すると認知症になりやすい」と居山俊治社長(41)は指摘する。16年4月以降に高齢者関連の専門家と共同で、ロボットとの会話で孤独感の解消や認知症の改善にどんな効果があるかを検証する。
 ひな型はすでに仕上がっている。2月にソフトバンクグループのヒト型ロボット「ペッパー」に取り込むアプリを介護施設向けに売り出す。クイズや簡単な体操をペッパーが進行する機能を備える。居山社長は「施設での実証を何度も繰り返して開発した」という。
 クイズの答えが間違えていても、高齢者がクイズを嫌いにならないように否定的な言葉は発しない。話す速度もゆっくりで、高齢者の注意をひけるようにした。こうした技術やノウハウは独り暮らしの高齢者に対しても十分に生かせる。
 高齢者の孤立は生活水準の悪化につながる。いずれは誰でも直面する可能性があり、社会全体の活力を損なう深刻な格差問題だ。新しい発想で少しでも改善に向かわせようとするベンチャーの種まきは、今後も増え続けるだろう。
【図・写真】RT.ワークスの歩行補助ロボットで行動範囲が広がる