東京大田を行く(1)国境越えるOTAの技(ものづくり現場発) 2011/10/14 日経産業 | OVERNIGHT SUCCESS

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東京大田を行く(1)国境越えるOTAの技(ものづくり現場発)
2011/10/14 日経産業新聞



町工場が連携 サムスン注目 タイ進出決断、飛躍つかむ
 町工場が軒を連ねる東京都大田区。金属加工を中心に日本のものづくりを支えてきたが、ご多分に漏れず、円高による取引先の海外シフトに悩んでいる。「このままではジリ貧」と危機感を強めたものづくり企業は、2つの道を探り始めた。一つは地縁を生かした技術の補完で、より高度な仕事をこなし、グローバル競争に備えること。もう一つは、大田に本社を残しながら積極的に海外展開に乗り出すことだ。日本の大田から、世界のOTAへ――。生き残りをかけた挑戦が続く。(関連記事17面に)
 「おもしろいことをやっているね」
 声の主は韓国サムスン電子の崔炳碩(チェ・ビョンソク)副社長。今年9月、自ら大田区に足を運んだ。お目当ては、地縁を生かした町工場グループの技術力だ。
 「大田区の匠(たくみ)がいる工場を見学させてもらえないか」――。大田区の製品を扱っている商社、栄商金属の佐山行宏社長がサムスン側からそんな打診を受けたのは6月のことだった。佐山社長は自ら参加する「お~ing!ニッポン」のメンバーなどを紹介した。
 「お~ing!ニッポン」には、旋盤や板金などの専門技術を持つ町工場が名を連ねる。1社では受けられない仕事を手際よく分担。仲間内ならではの柔軟さで“超特急仕上げ”にも対応する。
 崔副社長は来日時、サムスンの部品を手がける韓国系列メーカーのトップを引き連れてきた。協力企業の技術力を日本の町工場との連携でさらに引き出したいという思惑から、大田区に急接近を図っている。
 世界企業からの突然のラブコール。技術流出の不安もあるが絶好のチャンスであることは間違いない。サムスンの日本拠点で今月末開かれる展示会については、大田区の企業40社に声がかかっている。
 国内でも指折りの町工場集積地である大田区には約4000工場がひしめいているが、これはピーク時の半分以下だ。
 バブル経済の崩壊をきっかけにした内需の低迷や発注元である大企業の海外シフト、後継者不足などで廃業を余儀なくされた町工場は少なくない。そこに直近の超円高がのしかかる。自らの技術をテコにグローバル展開に乗り出す企業も出てきた。
 バンコクから東へ車で1時間。タイ最大のアマタ・ナコーン工業団地の一角に、ひとつ屋根の下で各社が肩を寄せ合うような集合工場がある。大田区が2006年に立ち上げた「オオタ・テクノ・パーク」だ。洪水被害は今のところない。
 「進出してなかったら、どうなっていたことか」。黙々と工作機械を操作する若い従業員に声を掛けながら、南武のタイ現地法人社長、吉富英明氏が振り返る。
 自動車などのアルミ部品の鋳造用金型に装着、アルミ注入後に引き抜いて複雑な形状を成型する油圧シリンダーの有力メーカー。技術力を自負し、かつては日本からの輸出で対応してきた。
 「そろそろ出てこないと厳しいよ」と納入先に背中を押され、02年に東南アジアのモノづくり集積地タイに進出。06年にテクノ・パーク開設を聞きつけ、入居第1号として工場を構えた。
 それが飛躍の転機になった。タイでの取引先から本業の金型用以外の仕事を受注する。地の利を生かし、東南アジア他国やインドへ輸出も開始。事業拡大で工場は手狭になり、来春には車で5分離れた場所に3億円で新工場を建設。テクノ・パークを“卒業”する。
 南武の背中を追うように、テクノ・パークには現在6社が進出。その中の1社、デジタルカメラなどに使われる精密プレス部品の西居製作所は07年に操業開始した。
 「絶対に失敗するな」。実兄の西居徳和社長からそう言って送り出されたタイ現法の西居広和社長は「進出してよかったかはまだこれから。生き残るには他に道がなかった」と打ち明ける。
 当初、プレス機6台で稼働したタイ工場は、今では12台に増やした。従業員は30人と、すでに20人の日本をしのぐ。現工場の隣接スペースを借り、近く金型生産も始める。
 新規投資負担は重く、累積黒字化にはまだ時間がかかるが「量が伸びるタイで新規納入先を開拓し、日本での仕事につなげられれば」と話す。
 日本のものづくりを底辺から支えた町工場。悩みながら変化を続ける大田区の町工場の姿は、製造業の空洞化に悩む日本のものづくりの縮図でもある。
(宇野沢晋一郎、
バンコク=高橋徹)
9社が連携 
仕事を分担
 「おおたグループネットワーク」は大田区の金属加工事業者中心の9社のグループ。リーマン・ショックで仕事量が激減した2008年末に営業力や技術を補完しあうため、2代目世代を主力に集まった。旋盤、フライス、研磨など、得意技術でとってきた仕事を分担して加工する。
 各社には職歴50年を超えるベテランの技が健在。匠(たくみ)の技がヨコにつながり、新たな加工の仕事にもつながっている。月に1度は情報交換もする。ベテランと2代目が融合した企業グループの進化形だ。
【表】“技”で世界に挑む、大田区に本拠を置くものづくり企業      
   大崎金属   特殊金属使うメッキ。手作業1品生産で航空機向けにも   
   上島熱処理工業所   セ氏1250度からマイナス196度まで幅広い温度範囲の金属加工   
   小松ばね工業   受注生産であらゆるバネを製作。インドネシアに工場進出   
   岩  崎   プラスチック加工。食堂向けなどのフードサンプル国内最大手   
   三  輝   工業製品から消費者向けに進出。区内に1億円投じ新工場   
   三信精機   化粧品生産設備製造の大手。爪研ぎ機など消費者向けも   
   三力工業   アルミニウム加工。暴漢抑える「さすまた」などアイデア製品も   
   シ  ン  シ   アクリル板加工。国内水族館の透明アクリル板の6割を製造   
   日進精機   精密プレス加工、金型製造。中国・タイ・フィリピンに工場進出   
   西尾硝子鏡工業所   ガラスの特殊加工。テナントのショーケースなど   
   フィーサ   ホットランナ成形装置製造、中国、タイに拠点   
   iMott〓(アイモット)   成膜技術に強い東工大発ベンチャー   
   堀内電機製作所   プリント基板実装、レーザーはんだ付けロボット   
   太洋塗料   遮熱や高反射などのハイテク塗料   
   イービーエム   心臓バイパス手術のシミュレーション器具を開発、製造   
   トキ・コーポレーション   装飾照明機器の製造。ラスベガスなどにも納入   
   ヱビナ電化工業   研究開発用の特殊メッキに特化   
   モステック   円筒研削。医療やオーディオ機器部品の精密加工が強み