ソリストとして活躍する一方、神戸室内管弦楽団首席コンサートマスターや各オーケストラのゲストコンサートマスターとして活躍する高木和弘のリサイタル。
高木和弘オフィシャルファンクラブ「倶楽部ササノハ」にちなみ、リサイタルはササノハと名付けられ、今回は4回目となる。
高木はリサイタルのプログラムは誰もが取り上げる名曲ではなく、知られていないが自分が素晴らしいと思う曲、弾きたいと思う曲で構成するという。
今回はフランスあるいはフランスで活躍した作曲家で、情熱的で交響音楽的とも言えるダイナミックで神秘的な趣のある曲が選ばれた。
前半は室内楽に詳しい方ならおそらくご存じだろうが、私にとっては初めて聴く作品。いずれも傑作で勉強になった。
ジョルジェ・エネスク:ヴァイオリン・ソナタ第2番ヘ短調作品6
1899年に完成。フランスのヴァイオリンの巨匠ジャック・ティボーに献呈され、初演もティボー。エネスクはピアノを担当した。
エネスコはこのソナタを独自のスタイルを見出した最初の作品と考えていたようで、ルーマニアの民族的な要素をソナタの古典的な構造に融合させた。
第1楽章と第2楽章は半音階の旋律とリズムが独特の美しさを放つ。終楽章はルーマニアの民族音楽の要素が濃厚。
高木はこの難曲に挑戦、曲想をよくつかんだ演奏だった。ピアノの大野真由子との息も合う。第2楽章コーダのハーモニクスのトレモロが独特。
惜しむらくは難曲のためもあり、第1楽章の音程がやや不安定だったこと。
オネゲル:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番
これは作品も演奏も素晴らしかった。
高木のリサイタルでは解説が主催者により場内アナウンスで話されるが、『狂気とも言えるダイナミックな作品』というコメントはおおげさだが、エネスクと双璧のユニークな曲であることは確かだ。
第1楽章のメランコリックなヴァイオリンが半音階的なクライマックスへ上り詰めていく高木の豪快な演奏は聴きごたえがあった。
第2楽章スケルツォは独創的だ。不思議に惹きつけられるスケルツォを高木は乗りよく弾いていく。
短い中間部はピアノのフレーズが独特。高木は弱音器を付け、安らぎの旋律を奏でていく。
第3楽章アダージョも不思議を極める曲想。ピアノが「葬送行進曲」のようなフレーズをオスティナートで繰り返す中、ヴァイオリンは神秘的なメロディーを弾く。中間部は激しくなる。ピアノにはジャズを思わせるフレーズやハーモニーも感じられた。アダージョの再現があり、深みと余韻を残し演奏を終えた。
後半はおなじみの作品が並ぶ。
イザイ:ヴァイオリン・ソナタ 第6番 ホ長調
7分ほどと短く、聴く側はさらさらと演奏しているように見えるが、6曲の中で最も難しいというヴァイオリニストもいる。
中間部は、作品を献呈したスペイン出身キロガにちなみ、ハバネラのリズムが現れる。高木はさりげなく超絶技巧を披露した。
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ
高木はドビュッシーの様式感をしっかりと意識していたが、これまでの挑戦的な作品の勢いがまだ残っているのか、強く弾く場面が少し気になった。弱音をもう少し意識的に打ち出しても良かったように感じた。ただ、第3楽章は華やかな曲想によく合った。
ラヴェル:ツィガーヌ
攻めのヴァイオリニスト高木和弘らしい力強い演奏。冒頭の4分近くのソロを臆せず弾いていく。ピアノが入ってからも情熱的に弾いていく。思い切りの良さは高木の特長だ。コーダは華やかに盛り上げた。
アンコールはイザイ「子守歌」をしっとりと弾いた。