コロナ禍で5年ぶりの来日となったタリス・スコラーズ。実は生で聴くのは初めて。客層は合唱を歌っている方や古楽ファン、あるいは声楽ファンだろうか、オーケストラや器楽のリサイタルなどのコンサートと異なる印象。
タリス・スコラーズは女声6人、男声4人の構成。指揮は創立者のピーター・フィリップス。
ルネサンス音楽に詳しくない者としては、ピーター・フィリップスがインタヴュー(註)で語った
『私たちが歌っているのは、コンサートで聴くための音楽、お客様にお届けするものであって、必ずしも宗教的な関係があるわけではありません。私たちの音楽を聴いていると、まるで天国にいるかのように感じられるとすれば、それが私たちの狙いなのです。皆さんにその体験をしていただきたいのです』
という言葉にとても共感した。
実際に、プログラムも教会や礼拝で歌われる曲もあれば、現代アメリカの作曲家、ニコ・ミューリーが英国の南極探検家ロバート・スコットの日記から歌詞を採った作品もあり、またアルヴォ・ペルトもあるなど様々。
フィリップスが言う通り、女声の透き通った高音のハーモニーと男声の高音や低音のハーモニーが美しく溶け合い、正確な音程と隅々までコントロールされた表現力で完璧に歌われると、いずれの曲も文字通り天国的に感じられた。
全ての合唱が完璧だったが、最もインパクトがあり心に刻まれたのは、カトリックの聖地バチカン宮殿システィーナ礼拝堂にて400年前の礼拝で歌われた門外不出の秘曲、アレグリ作曲「ミゼレーレ(神よ、憐れみたまえ)」。モーツァルトが一度聴いただけで記譜したというエピソードでも知られる。
ホール4階下手のテノールが先唱者(カントル cantor)として歌うと、4階上手のソプラノ1、2、アルト、バスの合唱と、ステージ上のソプラノ1、2、アルト、テノール、バスの合唱が応唱する。特に4階のソプラノ1の装飾音をまじえた超高音はホールの天井に反射し、天から声が降ってくるように感じられ、この世とは思えない雰囲気に包まれた。
昨晩の東京オペラシティコンサートホールでは正面バルコニー2階のオルガン席の左右に配置されたと聞く。東京オペラシティとミューザ川崎の応唱の違いをぜひ聴き較べてみたかった。
タリス・スコラーズはミューザ川崎シンフォニーホールに初登場。ピーター・フィリップスはホールの評判を知っているのかアンコールに際してマイクを持ち、『この素晴らしいホールで歌えることは限りない喜びです』と語った。
アンコール曲はArvo Pärt:Bogoroditsye Dyevo (アルヴォ・ペルト:おお、神の御母)
フィリップスは『ペルトがケンブリッジのキングズ・カレッジ合唱団から委嘱され書いた作品で、同合唱団による「9つの聖書日課とクリスマスキャロル」の一環として、1990年クリスマス・イヴに初演された。ロシア正教会の「祈りの書」にある教会スラヴ語のテキストに基づいている』という趣旨の説明を加えていた。
(註) タリス・スコラーズ 結成50周年日本ツアー特別インタビュー〔後編〕 | アーティスト&コンサートマネージメント 株式会社テンポプリモ (tempoprimo.co.jp)
出演
指揮:ピーター・フィリップス
合唱:タリス・スコラーズ
曲⽬
ギボンズ:手を打ち鳴らせ
ウィールクス:高みでは神に栄光あれ
トムキンズ:おお神よ、奢り高ぶった者たちが私に抗って立ち上がり
ミューリー:ラフ・ノーツ(なぐり書きのメモ)
パーソンズ:おお、やさしきイエスよ
(休憩)
アレグリ:ミゼレーレ・メイ・デウス
パーセル:ミゼレーレ
ゴンベール:ダヴィデはアブサロムのために嘆き
ジョスカン・デ・プレ:わが子アブサロムよ
ペルト:それは・・・の子
[アンコール曲]
Arvo Pärt:Bogoroditsye Dyevo