(2月3日・東京芸術劇場)
3月末で6年間務めた読響首席客演指揮者を退任する山田和樹。2月は古典派から現代音楽まで実に幅広いレパートリーからなる3種類のプログラムで読響との5回の演奏会に臨む。この日はその初日。ワルツが最初と最後に入る多彩な曲で構成された。
グラズノフ:演奏会用ワルツ第1番 ニ長調 作品47
スイス・ロマンド管、モンテカルロ・フィルでの経験が生きており、軽やかで色彩豊か。コンサートマスターは日下紗矢子。オーケストラは16型。
ハイドン:交響曲第104番 ニ長調 「ロンドン」
16型のハイドンはさすがに重厚。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンは全て倍管4本ずつ。トランペットのみ2本。ヴィブラートはそれほどかけず、響きはすっきりとしている。第1楽章序奏は堂々としており、16型の威力を発揮。第2楽章は分厚い。第3楽章中間部が対照的に優雅。第4楽章は巨像のダンスのよう。ハイドンがブルックナーのように聞こえた。シンフォニックな演奏で、ハイドンが聴いたら喜んだかもしれない。
上野耕平をソリストとするカプースチン:サクソフォン協奏曲 作品50。
読響は12型。冒頭から4分間は、ムーディーなサクソフォンとストリングスが続く。そこから突然ノリのいい4ビートのジャズが始まる。エレキギター、エレキベース、ドラムス、ピアノが加わり盛り上がると金管がビッグバンドのようにバックを付ける。ボンゴも入り、サクソフォンはジャズのアドリブ風に演奏していく。上野の演奏は完璧。一流のジャズミュージシャンも顔負けだ。ピアノとミュートトランペットが夜のジャズの雰囲気を醸す。ストリングスも入って豪華なシンフォニックジャズになる。テンポが落ち、再びムーディーな雰囲気にもどる。静かになった後、突然サクソフォンが技巧的なアドリブを開始し、盛り上がって終わる。カプースチンはアドリブ的な個所も全て記譜したというから驚く。
上野のアンコールはポール・ボノー(1918-1995)の「ワルツ形式によるカプリス」。パガニーニの「24のカプリス」のサクソフォン版のような超絶技巧曲。
最後はラヴェル:ラ・ヴァルス。
オーケストラは再び16型に戻る。山田は日本フィルのインタビューで『ムースが軽やかな口当たりであるように、フランス音楽も空気の動きなのです。そして、美しさの中に毒がある』と答えているが、この曲は山田の言う通り、幻想的に始まり華麗に盛り上がるが、徐々に狂気が現れ、最後は奈落に突き落とされるように終わる。まさに美しさの中の毒のように。
山田和樹の指揮は、カタストロフィーに向かって緻密に組み立てられており、時に軽やかに、時にダイナミックに進めていく。ワルツでのドレスの裾がひらりと舞うような優雅なリズムは、山田はヨーロッパの舞踏会で踊ったことがあるのでは、と思わせる。
クライマックスはデュトワのような巨大な世界とは異なり、どこか爽やかな風が吹き抜けた。
充実のコンサートだったが、ドイツ音楽の伝統を持つ読響とは言え、響きが少し粗く、特に弦がザラついて聞こえた。多彩過ぎるプログラムのため、演奏を整えるためのリハーサル時間が足りなかったのかもしれない。