天才中の天才!ダニエル・ロザコヴィッチ!今まで聴いた中で最も高貴なベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」。クライスラー、ハイフェッツ、フランチェスカッティ、ミルシテインという巨匠たちの再来と言いたくなる完璧な技術と深い音楽性の持ち主だ。超繊細で磨き抜かれた弱音から、芯と核のあるきりりとした強音まで、自在に弾くだけでなく、何よりも驚異的だったのは、その深い解釈。すべてのフレーズ、一音一音に意味が感じられ、語り掛けてくるものがあふれ出て、汲めども尽きない。ヨーロッパ音楽の正統中の正統の流れを汲むヴァイオリニスト。ベートーヴェンが貴族の支援を受けていた時代にタイムスリップするような、まさに高貴に輝く気高い演奏。
ロザコヴィッチの演奏を聴いていると、音楽とはこれほどの幸福感を与えてくれるのか、という驚きと喜びに包まれる。
ヴァイグレと読響はロザコヴィッチに完全に魅了されていたように見えた。彼のヴァイオリンの細やかな変化に合わせ、繊細極まる演奏を展開した。
ロザコヴィッチは2001年生まれ。まだ22歳。「恐るべき才能」というキャッチフレーズは決して誇張ではない。15歳でドイツ・グラモフォンと専属契約を結んでいる。
演奏は最初から最後まで驚異的だった。第1楽章のオーケストラの主題提示の後、ヴァイオリンがカデンツァ風に入ってきたとたん、すべての音が磨き抜かれ細やかで奥が深いことに驚嘆した。
カデンツァはクライスラー作。そのスケールの大きいこと。弱音から強音、重音まですべてが聴いたことのない美しさ。品格、気品、どんなに言葉を尽くしても言い足りないくらい魅入られてしまう。
第2楽章の変奏のロザコヴィッチのヴァイオリンの細やかな美しさには言葉がない。中間部のG線とD線で弾くカンタービレの主題は、文字通り「天国的」だった。
そのあと華やかに繰り広げられる変奏とピアニッシッシモになってオーケストラの弦のピッツィカートにのせて弾くロザコヴィッチの高音の繊細な強さたるや!「繊細で強い演奏」、これもロザコヴィッチの凄さでもある。
ヴァイグレ読響が重厚にトゥッテイを響かせ、ロザコヴィッチが短いカデンツァを弾いてアタッカで入る第3楽章も完璧に弾いていく。ファゴットとともに弾くト短調の副主題がとりわけ美しかった。
コーダのきらびやかなトリル、カデンツァなど、最後まで超美技の連続を繰り広げ、最後はヴァイグレ読響とともに堂々と締めくくった。
新年早々、超弩級の名演に巡り合えた喜びと幸運に酔った。
アンコールはバッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番第1楽章アダージョ」。正直言ってこれだけ聴いただけではロザコヴィッチのバッハがどういうものか、よくわからない。耽美的で繊細なバッハであり、これまで聴いたことのないアプローチであるように思えた。
ヴァイグレ読響のそのほかの曲目の演奏についても書かなければならない。
ワーグナー「歌劇《リェンツィ》序曲」はオペラ指揮者ヴァイグレの面目躍如。トランペットの信号ラッパの動機を細やかに指示、「リェンツィの祈り」の主題が格調高く演奏された。オペラへの期待を高める堂々とした演奏だった。
R.シュトラウス「交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》」は、ヴァイグレが読響の力を最大に引き出した隙のない名演。ドイツ音楽とヴァイグレ、読響の3つの伝統の共通性、相性の良さを感じる。
今日のコンサートはNHKFMで収録された。ロザコヴィッチの記念碑的、衝撃的な読響デビューでもあり、放送日が楽しみだ。