隣に東響の楽団長廣岡克隆さんが座られたので、「広上淳一さんと東京交響楽団の共演は珍しくないですか?」と伺うと、相性はとても良く、年に何度かは共演しているとのこと。
個人的には一度だけ、2020年11月14日、ミューザ川崎名曲全集で広上&東響、小菅優との矢代秋雄「ピアノ協奏曲」を聴いた。これは小菅が凄くて超名演だった。ほかに珍しいベートーヴェン「序曲《命名祝日》」と「交響曲第4番」が演奏されたが、こちらはオーソドックスな演奏だった。
ドリーブ:バレエ組曲『コッペリア』(マカリスター版)
クラーク・マカリスター(1946-)による校訂版は、作曲者承認のホイーゲル原典版からつくられた。
広上淳一東響の演奏は明るくエネルギッシュ。広上の踊るような指揮に東響も乗せられ、のびのびと演奏した。
第1曲「導入とワルツ」は、有名なスワニルダのワルツが堂々と演奏される。
第2曲「前奏曲とマズルカ」はホルンの重奏から始まる。首席に読響の松坂隼が入って安定した演奏を聴かせた。マズルカもノリノリ。東響がよく鳴った。コントラバスの首席も読響の石川滋*だった。
第3曲「バラードとスラヴの主題による変奏曲」のバラードではコンサートマスター小林壱成のソロが格調高い。ラヴの主題による変奏曲は第6変奏が叩きつけるように大盛り上がり。第8変奏も同様に盛り上がっていく。フィナーレのように派手に終わるので、ここで曲が終わったと思われ、拍手も起きた。
第4曲「人形のワルツとチャルダッシュ」では楽しい人形のワルツのあと、金管のファンファーレに始まる堂々たる前奏に続いて、ハンガリー舞曲チャルダッシュが勢いよく始まる。バレエでは若者たちの踊りの音楽の場面に登場する。これも東響がデッドな会場とは思えないくらいよくオーケストラが鳴って楽しく締めた。
*石川滋のyoutubeのクラシック番組「滋荘」に広上淳一がゲストで出演して、バーンスタインからのレッスンのエピソードを話している抱腹絶倒の映像があった。。
『滋荘』 エピソード1「世界的な指揮者がスタジオ降臨!」~第4楽章 後半~ゲスト:広上淳一(指揮者) - YouTube
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調
広上は2007年にサイトウ・キネン・オーケストラで同曲を指揮しており、京都市交響楽団との東京公演(2017年9月17日)の録音もある。いずれも残念ながら、聴いていない。
広上が得意とするレパートリーのひとつで指揮にも余裕があり、流れが非常に良い。東響も広上のリードのもと、自分たちの持てる力を最大限発揮し、広上のバトンに乗ってここでものびのびと演奏した。
全体がバランスよく鳴り、デッドなテアトロ・ジーリオ・ショウワでこれだけ鳴らせるのはたいしたものだ。小林壱成のリードもあるのか弦の音がきれい。
第1楽章は提示部の繰り返しも行うなど、全体にカットはほとんどなかったような。コーダはふだん聴いたことのないフレーズも出ていた気がする。コーダが長い。
第2楽章アレグロ・モルトのA主題はしっかりとしていた。フガートは強烈。
第3楽章アダージョ、クラリネットのソロは首席の吉野亜希菜に替わり若い女性奏者が吹いていたが、素直ないいソロだった。名前は不明。ホルンの松坂隼、コンサートマスターの小林、フルート相澤政宏の各ソロも名人芸。オーボエもゲスト、元読響の方?広上の指揮は、温かくゆったりたっぷり。心地よい。
第4楽章アレグロ・ヴィヴァーチェは文字通り輝かしい。第3楽章アダージョの主題が拡大される長大な中間部も息長くたっぷりと歌う。コーダの盛り上がりも無理がなく、自然体。第3楽章の主題と第4楽章の主題が重なりあいながら盛り上がっていくクライマックスは金管打楽器とともに胸がすくように豪快に終えた。
これでホールがミューザ川崎だったら、とは思う。