山上紘生(やまがみこうき) 藤岡幸夫の代役で鮮烈なデビュー!(6月9日・東京オペラシティ) | ベイのコンサート日記

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写真©金子力

東京シティ・フィル首席客演指揮者藤岡幸夫が、肺炎により1週間程度入院治療が必要との診断を受け、出演することができなくなり、プログラム後半の吉松隆「交響曲第3番」は、藤岡に代わりリハーサルを行いサポートした指揮研究員の山上紘生が急遽代役として指揮した。
 

高関健はプレトークで『藤岡幸夫さんの体調から、1回目は山上君がリハーサルをした。彼は頑張った。2回目のリハーサルも彼に任せた。3曲とも私が振る選択肢もあったが、作曲家の吉松氏とも相談し、本番を任せられるのではないか、という結論になった。たぶん頑張ると思います』とエールを送った。

 

作品の持つエネルギーを圧倒的な高揚感とともに再現した山上の指揮は見事で、ブルーノ・ワルターの代役で指揮、一晩でスターとなったレナード・バーンスタインのような鮮烈なデビューを飾った。

 

コンサートマスター戸澤哲夫をはじめ、東京シティ・フィルの楽員が山上を応援する姿勢は凄まじいものがあり、文字通り全員一丸となって、火が噴くような演奏を展開した。
 

『前3楽章の素材が合流し堆積してゆく大団円。雲の切れ目から射すかすかな日の光が巨大な日の出へと拡大してゆき、太陽の祝祭をむかえる』(吉松隆自身の解説)という第4楽章の後半は、ティンパニをはじめ打楽器が打ち鳴らされ、輝かしい壮大な祝祭が展開されていく。若い指揮研究員の突然の代役デビューというドラマティックなストーリーと重なり、いやがうえにも盛り上がる。

最後を全管弦楽の爆発で終えると、聴衆は熱烈な歓声と拍手を送った。山上は客席の吉松隆を紹介、ステージに上がった吉松は山上の肩を抱き、大健闘を讃えた。

 

山上のことを高関は『藝大時代彼を担当した。指揮は教えられるものではなく、勝手にうまくなっていく。彼もそのうちの一人。まじめで内気だが、実は面白い。鉄ちゃんでもあり話が合う』とプレトークで紹介した。悠揚とした表情は政治家のようでもあり、人を惹きつけるものを持っている。

劇的なデビューを大成功させた山上は、何かを持っている指揮者であることは確かだ。ぜひ大成してほしい。

 

コンサート前半は高関健が指揮した。

シベリウス「悲しきワルツ」は10型の小編成。遅めのテンポで休止が長く感じる。高関の的確な譜読みによる新鮮な解釈。

 

務川慧悟をソリストとするグリーグ「ピアノ協奏曲」は、務川の巨大とも言えるスケールの大きなピアノと、高関東京シティ・フィルの重厚で重心の低いオーケストラが四つに組む充実した演奏。

聴いていて、マゼールN響の外連味たっぷりな演奏に引けを取らない迫力で共演したアリス=紗良・オットの演奏を思い出した。
 

楽しくて爽快。マゼール&N響の初共演、最終日の演奏を聴く。 | ベイのコンサート日記 (ameblo.jp)

 

務川のアンコールビゼー作曲(ホロヴィッツ編曲)「カルメン幻想曲」

全盛時代のホロヴィッツもかくやと思えるヴィルトゥオジティ。


山上 紘生プロフィール
宮崎県生まれ。4歳よりピアノを小倉貴久子氏、ヴァイオリンを向井理子氏、瀬戸瑶子氏のもとで始める。第9回日本演奏家コンクール弦楽器部門特別賞受賞。17歳より指揮の勉強を始める。埼玉県立浦和高等学校を経て東京藝術大学音楽学部指揮科に進学し、高関健氏、山下一史氏に師事。2017年6月パーヴォ・ヤルヴィ氏の指揮公開マスタークラスを受講。また、尾高忠明氏、角田鋼亮氏、広上淳一氏、ジョルト・ナジ氏、ラースロー・ティハニ氏のレッスンを受講する。在学中に「宮田亮平奨学金」、卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞、若杉弘メモリアル基金賞を受賞。 同大学院音楽研究科指揮専攻修士課程に在籍中。公益財団法人日本製鉄文化財団 2021年度若手指揮者育成支援制度に合格し、紀尾井ホール室内管弦楽団などで研鑽を積んでいる。
2021年10月3日より東京シティ・フィルの指揮研究員。