ベン・グラスバーグ 都響 ブリュノ・ドルプレール(ベルリン・フィル第1ソロ・チェリスト) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(3月5日・東京芸術劇場)

ベン・グラスバーグは2017年9月、23歳で第55回ブザンソン指揮者コンクールに優勝。同時に聴衆賞、オーケストラ賞も受賞した。同年夏、グラインドボーン音楽祭「皇帝ティートの慈悲」でロビン・ティチアーティの代役で大成功を収め、現在はルーアン・ノルマンディ・オペラの音楽監督を務める。都響とは初共演。今日のコンサートマスターは山本友重。

 

サン=サーンス:歌劇『サムソンとデリラ』より「バッカナール」

グラスバーグは色彩感豊かな、切れ味の良い指揮を1曲目から聴かせた。27歳と若いので体の切れが違う。金管がいかにもイギリスのブラスと言える明るく輝きのある響きになっていた。最近都響への客演が多い新日本フィルオーボエ首席の神農広樹が堅実なソロを披露した。

 

 

サン=サーンス:チェロ協奏曲第1番 イ短調 op.33

ブリュノ・ドルプレール(ベルリン・フィル第1ソロ・チェリスト)は、調子があまり良くないように思えた。覇気が感じられず、全体的に表情が一本調子で起伏が少ない。音色はやわらかくサン=サーンスにも合っているのだが、第3部の第1主題再現の後に出る美しく豊かな主題も、もう少し深みがほしい。第2部最後は豊かに朗々とした音だったが、そこだけで終わってしまい、全体的には彼本来の力を発揮できなかったのではないだろうか。そのためかアンコールもなく、グラスバーグ都響のバックもいまひとつ冴えがなかった。

 

後半はグラスバーグの長所が良く出た充実の演奏だった。

1曲目、リャードフ:交響詩《魔法にかけられた湖》 op.62 は、弱音の維持と色彩感に加え、緩徐な音楽にもかかわらず、リズムがしっかりと感じられ音楽の流れが良かった。グラスバーグの才能を感じた。

 

ストラヴィンスキー:バレエ音楽《ペトルーシュカ》(1947年版)

ロシア的な雰囲気は少ないが、メリハリが利いており、竹を割ったように明解。クリアな画像を見るように音の切れがよく、色彩感も豊かだった。

 

第1場「謝肉祭の市場」のチェロ群の音が爽快。人形遣いが吹くフルートが瑞々しい(首席柳原佑介)。グラスバーグの指揮は少し性急だったかもしれないが、「ロシア舞曲」は長尾洋史のピアノが快調だった。

 

第2場「ペトルーシュカ」はトランペット(高橋敦)が切れの良い吹奏。

 

第3場「ムーア人」は3拍子のグロテスクな踊りがいい味を出していた。シンバルのリズムと弦のピッツィカート、クラリネットとバスクラリネットが絶妙の表情。一方で、フルート、トランペット、ハープの「ワルツ」はもうひとつまとまりがなかった。

 

第4場「謝肉祭の市場とペトルーシュカの死」はグラスバーグの鮮やかな指揮とそれに応える都響の演奏が充実の極みだった。

「謝肉祭の市場」は、より華やかになり、「乳母の踊り」は色彩が輝く。「農夫と熊」のテューバも雄大。「御者の踊り」での弦全員がダウンで弾く音が16型ならではの厚みがある。「仮面」の激しい動きはスピード感があり若々しい。グラスバーグのエネルギーが爆発した。

突然、トランペットが鋭く吹かれペトルーシュカが叫びながら乱入してくる。ムーア人とペトルーシュカの乱闘となるが、ペトルーシュカはあっけなく倒される。

人形遣いが現れ、人形を連れて帰るが、トランペットが鋭く吹かれ、ペトルーシュカの幽霊が現れる。人形遣いは恐れおののいて逃げ出し、最後はピッツィカートで静かに終わった。

 

グラスバーグはオペラ指揮者だけあり、物語性のあるバレエ音楽でもその手腕を発揮したと言えるだろう。太鼓が連打され転換していく場面から場面への切り替えが巧みで、各場面の描写が鮮やか。
ただ、時に勢いがあり過ぎて上滑りになるが、色彩感やエネルギー、切れの良さ、リズムの冴え、センスの良い響きなど、彼の長所のほうが印象に残るコンサートだった。都響との再共演を期待したい。