調布国際音楽祭2022フェスティバル・ガラ「名手たちの室内楽」 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。



調布国際音楽祭2022フェスティバル・ガラ「名手たちの室内楽」
〜ブラームス:ホルン・トリオと管楽器のための名曲たち〜

(6月23日・調布市グリーンホール 大ホール) 

出演:白井圭(ヴァイオリン)、山本徹(チェロ)、上野星矢(フルート)、荒木奏美(オーボエ)、福川伸陽(ホルン)、河村尚子(ピアノ)、森下唯(ピアノ)


「フェスティバル・ガラ」のタイトルにふさわしいスター奏者が勢ぞろいしたコンサート。

 

プーランク:オーボエ・ソナタ

荒木奏美と森下唯による演奏。

プーランクがプロコフィエフを追悼するために書いた作品。
第1楽章エレジーは冒頭のPaisiblement(フランス語、ピースフル、平和に)と指示された第1主題を荒木が滑らかに歌い出す。第2主題も美しく奏される。荒木のオーボエは安定度抜群。全ての音、フレーズが明快で本当にうまい。冒頭の牧歌的な主題が戻る前に、思いがけず雷鳴のような爆発を引き起こす激しい第3主題も揺るがない。

 

第2楽章スケルツォも、速いテンポで跳躍する音やトリルを荒木は着実に吹いていく。

トリオは荒木が伸びやかに歌い癒される。

 

第3楽章は、Déploration(哀歌)。オーボエが悲しい歌を歌い続ける。かすかな希望も見えるが、最後は悲しみの中に余韻を残して消えていく。

東京交響楽団のコンサートで荒木のソロはいつも際立っているが、久しぶりに室内楽で聴くと素晴らしさがよくわかる。荒木の音楽に身をゆだねるような感覚を覚える。

 

 

フランク: フルート・ソナタ イ長調

名曲中の名曲フランク「ヴァイオリン・ソナタ」を名手上野星矢がフルートで吹く。ピアノは森下唯。

第1楽章はゆったりと丁寧に進めていく。

情熱的で力強い第2楽章。アレグロの速いテンポでフルートにとっても難しいと思われるが、上野はなにげないように滑らかに吹いていく。清澄な第2主題はフルートの響きによく合う。展開部の速いパッセージや、コーダでの高音の激しい動きがフルートで奏でられるのはスリリング。

 

第3楽章のベン・モデラートの主題は上野が格調高く奏でた。長い展開はヴァイオリンのほうが音色の変化をつけやすいのかもしれない。

第4楽章は熱い演奏で盛り上がった。ピアノの森下も大健闘。

 

後半は受講生が書いた作品のスケッチを第一線で活躍する奏者が初めて音にするワークショップ「新しい音楽をつくる」(6月18日・せんがわ劇場)で選ばれた3作品が演奏された。いずれも世界初演となる。金子仁美、細川俊夫、藤倉大(Zoomで参加)という錚々たる作曲家がアドバイザーとなった。

 

最初は、古田土 明弥(こだと めいや)の「チェロのために」。『夜の森をイメージした』とのこと。山本徹の独奏。重音で始まり、中間部は弱音。意味深長でミステリアス。

 

次は、東島 由衣(ひがしじま ゆい)の「累」。

オーボエとチェロという珍しい組み合わせ。荒木奏美と山本徹の演奏。『2つの楽器が激しくぶつかり合う。俊敏な動きがある。折り重なり、追いかける、新しいもの、それが累のイメージ』だという。

これはチェロのフラジョレットなど技巧的で良くできた作品。

 

最後は井上 莉里(いのうえ りり)「ピンクノイズ~オーボエのための~」。『テレビのホワイトノイズからイメージした刺激的な音』だそうだ。藤倉大は『苦しい音を書かなくてもいいんだよ』と井上にアドバイスしたという。それを聞いて井上は今日のために手直しをしたとのこと。

荒木のソロ。鳥がさえずるような可愛らしい曲だが、時にノイズとして、オーボエが極端なヴィブラートを使って不協和音を出す。

 

作曲した若者たちも会場に招かれ、アーティストと聴衆の拍手を受けていた。

 

最後は、ブラームス:ホルン・トリオ 変ホ長調 作品40。

福川伸陽(ホルン)、白井圭(ヴァイオリン)、河村尚子(ピアノ)という豪華なメンバー。

第1楽章アンダンテは、福川のホルンが遠くから呼びかけるように奏される。白井がそれに応える。河村のピアノが低音部を支える。

 

第2楽章スケルツォは、ピアノとホルンが合うが、ヴァイオリンは少し異なる動きをしていた。河村のピアノはいつもながら活気と迫力がある。トリオでのホルンはここでも遠近感を出す。河村のピアノはロマンティック。スケルツォの再現は3人の息が合ってきた。

 

第3楽章アダージョ・メストはブラームスが作曲の年1865年2月2日に母が76歳で亡くなり、追悼の気持ちがこめられている。ホルンが主題を悲しみをこめて吹き、胸に刺さる。母との思い出を振り返るような少し明るい部分を経て、決意を示すようなクライマックスとなり、厳粛に消えていく。三人の力のこもった演奏が展開された。

 

一転して明るい第4楽章アレグロ・コン・ブリオは活気に満ちた。河村のピアノが終始激しい。福川が伸び伸びと吹き、白井もそこに加わる。アンサンブルのまとまりもこの楽章が一番良かった。アンコールは第2楽章がもう一度演奏された。

 

演奏機会は多くない作品だが、今年は3月のブラームス「室内楽マラソン」で日髙剛(ホルン)、小林美樹(ヴァイオリン)、菊池洋子(ピアノ)というトリオでも聴いた。

 

それぞれの奏者の個性の違いが出ており比較は難しいが、3月は小林美樹のヴァイオリンが、今回は福川伸陽のホルンと河村尚子のピアノが印象的だった。

 

Photo:K.Miura