東京21世紀管弦楽団 北原幸男(指揮)務川慧悟(ピアノ)ショパン「ピアノ協奏曲第1番&第2番」 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(10月3日・紀尾井ホール)
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22

ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21

ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11

 

東京21世紀管弦楽団は「音楽を通して、多くの人たちと手を携え、今までの固定観念にとらわれない新しい時代の『楽しいオーケストラ』を目指して、演奏活動を進めていくオーケストラ」として2020年4月、浮ヶ谷孝夫(ブランデンブルク国立管弦楽団フランクフルト首席客演指揮者)を音楽監督に迎えて発足した。
昨年11月に第2回目となる定期演奏会を東京芸術劇場で行ったが、今日は、紀尾井ホールで開催する新しいシリーズ「お昼のコンサート in 紀尾井」の第1回。

 

指揮は浮ヶ谷ではなく、北原幸男が務めた。ソリストに2019年ロン=ティボー=クレスパン国際音楽コンクール第2位、2021年エリーザベト王妃国際コンクール第3位入賞のほかテレビ、ラジオなどの出演で人気の務川慧悟が登場、ショパンの協奏曲2曲がメインのプログラム、紀尾井ホールという音響の良い会場で開催という条件が揃い、会場はほぼ満席。女性が9割だった。

 

東京21世紀管弦楽団は8-6-4-4-3の編成。紀尾井ホールの規模では十分で、ピアノとのバランスも問題ない。

 

コンサートマスターは中島ゆみ子。東京フィルで首席奏者を務めたが現在はソロ、室内楽のほか各オケで客演コンサートマスターを務める。

他の首席は、弦が第2ヴァイオリン西田史郎(各オケで客演2ndVnを務める)、ヴィオラ佐々木真史(仙台フィル首席)、チェロ大宮理人(元東響)、コントラバス松井理史(フリー)というメンバー。

 

管の首席はフルート佐藤百恵(ドイツで活動。帰国後は来日歌劇場、オケに客演)、オーボエ杉浦直基(元東響首席)、クラリネット内山厚志(各オケ客演、室内楽)、ファゴット吉田早織(フリー)、ホルン友田雅美(横浜シンフォニエッタ首席)、トロンボーン多田将太郎(第8回東京音楽コンクール第1位、東京室内管弦楽団首席)という布陣。

 

経験豊富なベテランや中堅が揃っており、音的には最初少し粗さもあったが、演奏が進むにつれまとまってきた。ヴィオラとチェロがいい音をしていると思ったが、首席の力量もあるのだろう。北原幸男の指揮は、きびきびとして誠実なものだった。

 

務川慧悟は、最後のピアノ協奏曲第1番に向かって調子を上げていき、第1番が最も内容が良かった。第1楽章展開部は華やか、終結部のアジタートも華麗に盛り上げる。

第2楽章はピアノにからむファゴットがもうひとつ前に出てこない。楽章後半はピアノの3連符とオーケストラが美しく混じり合った。第3楽章のポーランド民族舞曲のリズムの主題も生き生きとしていた。コーダは華麗に盛り上げ、満員の聴衆の拍手も熱狂的だった。


務川の演奏を聴くのは昨年のフェスタサマーミューザでの反田恭平とのデュオによるプーランクの「2台のピアノのための協奏曲」に続いて2度目。瑞々しい音の美しさ、尖ったところのない滑らかなタッチ、歌心のあるフレーズという点が今回も印象に残った。ただ、心に突き刺さってくる深みという点では、まだ物足りないところもある。

 

アンコールで弾いた「ノクターン第20番嬰ハ短調」(遺作)は、序奏に続き左手のアルペッジョにのせ右手が弾く繊細な詩情溢れる主題にもう少し深い情感があればと思った。


巨匠メナヘム・プレスラーはこの曲を必ずアンコールで弾くが、以前サントリーホールで聴いた演奏も音楽から『深い愛』があふれ出し、感涙にむせぶ聴衆のすすり泣きが聞こえてきた。務川もいつかあのような深い愛に満ちた演奏を聴かせてくれるのではと期待したい。とは言え、務川の弾くコーダの弱音のニュアンスが素晴らしかったことは書き留めておかなくてはならない。
オーケストラが去った後も拍手が止まず、ステージに務川と北原がもう一度登場した。