オーケストラ・ニッポニカ第36回演奏会「日本バレエ・舞踏史における1950年」 | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


223日・紀尾井ホール)

 新型コロナウィルス感染拡大で次々とコンサートが中止される今となっては、貴重な機会だったオーケストラ・ニッポニカの演奏会。
指揮は、鈴木秀美。アマチュア・オーケストラから、まとまりのいい響きと、切れの良いリズムを引き出した。

 

 テーマは「日本バレエ・舞踏史における1950年~日本の舞踏界の礎を築いた小牧正英、江口隆哉、宮操子へのオマージュ」。

敗戦直後から、日本での舞台作品の上演は活況を呈した。19468月には、東京バレエ団が結成され、チャイコフスキー「白鳥の湖」全曲が初演された。当時、楽譜が入手できなかったため、上海から引き揚げてきた小牧正英(小牧バレエ団創立者)が持ち帰ったピアノ譜を、指揮者の山田和男がオーケストラに編曲した版が使われたという。

 

今回のプログラムは、1950年に創作された伊福部昭のバレエ音楽《プロメテの火》と、同じ年に小牧正英が踊り、朝比奈隆指揮で日本初演された「バレエ音楽《ペトルーシュカ》(1947年版)」、そして本来1950年に芥川也寸志によって作曲された《湖底の夢》《失楽園》を予定したが、楽譜が現存しないため、1968年作曲「舞踏音楽《蜘蛛の糸》」が演奏された。

 

伊福部昭作曲、今井重幸構成・編曲による「オーケストラの為の交響的舞踏組曲《プロメテの火》」は、もともと舞踏家・江口隆哉と宮操子によって制作・舞台初演された作品。伊福部の弟子のひとり今井が、2009年にピアノ四手版から構成・編曲した。同じ年に、オリジナルのオーケストラ・スコアも発見され、2013年広上淳一指揮、東京交響楽団により再演された。

 

ストーリーは、火をもたない人間に同情したプロメテは、大神ジュピターの拒否にさからい、火を盗み人間に与える、というプロメテウスとジュピターのギリシャ神話を翻案したもの。

 

おどろおどろしい「前奏曲」、ゴジラのテーマを思わせる第3曲「間奏曲その1」、タイトル通りの印象のある第6曲「魔神の踊り」、フルートの抒情的な旋律が印象的な「アイオの変身」、土俗的なリズムに始まり、狂乱に終わる第10曲「舞曲その1」から第11曲「舞曲その2」など、全11曲が演奏された。海外のオーケストラにも取り上げてほしい、エネルギーに満ちた舞踏音楽だった。

 

 

2曲目は、芥川也寸志「舞踏音楽《蜘蛛の糸》」。父、芥川龍之介の原作から、也寸志が独自に作った台本を、朗読の鈴木美登里が読み上げながら進行。1968年の作品で、クラスター音楽など当時最先端の語法も使われ、ドビュッシー的な和声も感じられる。鈴木美登里の朗読は、映像が浮かぶような素晴らしさがあった。この作品への拍手は、今日一番多かった。

 

ストラヴィンスキー《ペトルーシュカ》は、コルネットが厳しかったが、中々の力演。ただ、拍手は余り多くなく、聴衆は、ニッポニカの演奏する、日本の作曲家の作品を聴きに来ていることが伺えた。コンサートマスターは高木和弘、ピアノは長尾洋史が担当した。

 

次回のコンサートは,6月21日(日)14時半、紀尾井ホールにて、野平一郎の指揮で、東京オリンピックにちなみ「1964年前後・東京オリンピックの時代」と題して、古関裕而「オリンピックマーチ」、入野義朗「交響曲第2番」、三善晃「管弦楽のための協奏曲」、團伊玖磨「交響曲第4番」が演奏される。