ヤニック・ネゼ=セガン フィラデルフィア管弦楽団 ハオチェン・チャン(ピアノ) | ベイのコンサート日記

ベイのコンサート日記

音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


 

115日、東京芸術劇場コンサートホール)
 ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」を弾いたハオチェン・チャンのピアノは折り目正しく品が良い。パワフルではないので、オーケストラの強奏に埋もれがち。どんなピアニストでも、この曲は実演ではそうなるのでよくわかるが、やはり線が細いという印象を受けた。

ネゼ=セガン、フィラデルフィア管弦楽団は、分厚い弦の響きで期待通りだが、昨日のバティアシュヴィリのときほどの感銘は受けなかった。チャンの演奏にそれほどインスパイアされていないのかもしれない。

 

聴衆は、昨日同様、咳一つ聞こえない集中ぶりだが、拍手は普通。アメリカから同行しているサポーターは、立ち上がる人もあり盛り上がっていた。

チャンのアンコールは、ショパンのノクターン第2番。上品で、詩情もあるが、もう一つ深く心に入って来ない。趣味の良いピアニストだとおもうが、会場のせいなのか?席は1階13列目中央なので、ピアノを聴くには問題ないと思うけれど、2階のほうがピアノの音が上がってきて良いかもしれない。

 

後半はドヴォルザーク「交響曲第9番《新世界より》」。ドヴォルザークがアメリカという新天地で刺激を受けて書いた勢いのある作品は、フィラデルフィア管弦楽団とネゼ=セガンに、ぴったり。引き締まり、活力がある演奏だった。

 

1楽章終結部でコントラバスが弾く第1主題が、地を震わすように、良く聞こえてきたのは初めてだ。提示部の繰り返しはなかった。第2楽章では、イングリッシュ・ホルンを始め、フルート、オーボエ、クラリネットのソロが温かい音色で癒された。楽章最後の弦楽四重奏も柔らかな響きがあった。

第3楽章スケルツォは躍動感があり、力強い。二つのトリオの木管のハーモニーもうつくしいが、民族色はない。第4楽章は、金管のパワーが全開。伸びのよい痛快なホルンやトランペット、トロンボーンの音が気持ちのよいほど鳴り渡る。最後のホルンはわりと長く伸ばして、余韻を残していた。3日の京都に続き、3日連続のコンサートのためか、昨晩のマーラーに較べると、オーケストラに少し、疲れがでているように感じた。

 

拍手の中、ネゼ=セガンは、マイクを持ち、通訳を兼ねた日系の第2ヴァイオリン奏者(*注)と一緒にステージ前に出て、『音楽は困難な時にも、人々をひとつにしてくれます。ラフマニノフのヴォカリーズをこのたびの台風と大雨で被災された方々に捧げます』と前置きし演奏した。オーマンディとの録音もあり、フィラデルフィア管弦楽団にとっては縁の深い曲。聴いていると、フィラデルフィア管弦楽団の楽員の温かな心と音色が一つとなっていることに気づかされた。同時にこのオーケストラの持つ音色の理由がわかる気がした。


*注)彼女はロビーコンサートの弦楽四重奏のリーダーも務め、演奏前に、台風と大雨の被災者の方々に捧げます、と挨拶していた。2曲目に「ふるさと」が弾かれたが、1曲目は曲想からメンデルスゾーンかな、と思って演奏後彼女に聞いてみたら、「よくご存じですね」と言われたが、何番か聞くのを忘れてしまった。


写真©Chris Lee