上岡敏之 新日本フィル 豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 | ベイのコンサート日記

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331日、すみだトリフォニーホール)
 シューベルト「交響曲第5番」はマシュマロのように柔らかく、羽根が生えたよう。第14楽章提示部の繰り返しはなかった。第3楽章メヌエットの主題は、他の指揮者ならスケルツォ風の尖った響きを出すが、上岡はレガートをかけてなめらかにするところがユニークだ。メヌエットだけではなく、レガートは全体にかけられており、長いフレーズを弛緩することなく指揮する上岡の力量はやはりたいしたものだと思う。

 

 ソロ・コンサートマスターの豊嶋泰嗣が弾くバルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番」は、精巧なガラス細工のような繊細さがあった。上岡&新日本フィルも豊嶋との一体感がある万全のバック。録音マイクが多数立っていたので、オクタヴィア・レコードによる録音が行われたのではないだろうか。そのせいもあるのか、完ぺきな演奏だった。この曲は、野性的な荒々しい側面があるが、豊嶋泰嗣のヴァイオリンはどこまでも艶やかで美しく、細やかさを保つ。最も感銘が深かったのは第2楽章アンダンテ・トランクイロ最後の超微細な豊嶋の弱音と上岡&新日本フィルの繊細な音が高く昇っていく部分。天国的というのか、もっと別次元に移行していくというのか。不思議な瞬間だった。

 第3楽章コーダは、初演ヴァイオリニスト、ゾルタン・セーケイがバルトークに要望して追加されたヴァイオリン・ソロがオーケストラとともに終わる版を採用していた。

 

シューマン「交響曲第1番《春》」は、シューベルトと同じように、響きが柔らかく、レガート気味に進んで行く。幻想的なシューマンだった。第2楽章でチェロのパートがいい響きを出していた。チェロのトップには元、九州交響楽団首席長谷川彰子が先週に続いて、ゲストで入っていた。

アンコールはベートーヴェン「交響曲第4番第4楽章」。上岡らしい柔軟で俊敏な演奏だった。

写真:上岡敏之(c)大窪道治