アンジェラ・ヒューイット(ピアノ) 第1夜 スペイン・プログラム | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。



427日 王子ホール

4月2425日インキネン日フィルと共演したブラームスの第1番に続いて、

この夜のプログラムもアンジェラ・ヒューイットにとっては初めて公開の場で演奏するものだという。(カナダのCBCレコードにグラナドスの「12のスペイン舞曲集」と「ゴイェスカス」からの2曲を録音している。)

 プログラムの構成は、前後プログラムの最初にスカルラッティのソナタを4曲置き、各曲の調性、曲想から4楽章作品に見立てて演奏した。

 そのほかの曲は、前半にグラナドスの「12のスペイン舞曲集」から「ビリャネスカ」「アンダルーサ(プライエーラ)」「ホタ(ロンデーリャ・アラゴネーサ)」と、グラナドスの「ゴイェスカス」から2曲。

後半はアルベニスの「スペイン組曲」から「セビーリャ(セビリャナス)」「アストゥリアス(伝説)」「カスティーリャ(セギディーリャス)」とファリャの

「ベティカ幻想曲」という内容。

前半ではグラナドスの「12のスペイン舞曲集」からの「アンダルーサ(プライエーラ)」が素晴らしかった。ギター編曲でも有名なポピュラーな名曲だが、情熱的なスペイン美女が目の前に颯爽と登場したような躍動するリズムと色彩感に満ちており、鮮やかな色で描かれた大きなスペインの絵画を見るような生々しさがあった。

前半のスカルラッティのソナタ(K9K159K87K29)の中では、ニ長調K.29,L461の難しい両手のクロスが見事で、見ても聴いてもほれぼれとする。

後半のアルベニスの「スペイン組曲」からの「セビーリャ」の中間部、「サエタ」と呼ばれるキリスト受難を悼む春の行事を表した部分はしみじみとした哀愁が出ていた。「アストゥリアス(伝説)」の冒頭の主題のスタッカートも鮮やか。中間部の「ピウレント」もよい。次の「カスティーリャ」にすごい気合で入って行くが、この変化は面白かった。

最後のファリャもすごかった。グリッサンドやアルペッジョが華麗。コーダもすごかった。
 一方、あまり心に響いてこなかったのは、後半のスカルラッティ(K113K430K8K13)で、まだ完全に自分のものになっていない演奏に思えた。グラナドスの「ゴイェスカス」からの「嘆き、またはマハと夜鳴き鶯」は余りロマンが感じられない。続く「わら人形」も表面的で、ラローチャの土臭く生命力にあふれた演奏に較べると味わいがない。

アンコールは2曲。最初のスカルラッティのソナタホ長調K.380は気品があり、ハンサムウーマンというヒューイットのニックネーム通りの誇り高い演奏になっていた。

最後に弾かれたドビュッシーの「月の光」はこの夜一番の聴きものだったかもしれない。ファツィオリの高貴な響きときれいに伸びるカンタービレがこの曲に良く合っていた。ヒューイットの演奏は非常に絵画的、描写的であり、舞台上に大きな月が浮かんでくるような気がした。最後の音が月の光のような繊細な余韻を残して消えていくさまは本当に美しかった。ヒューイットは絵を描くように、あるいは物語を語るように音楽を組み立てていくのではないかと思った。

(c)Bernd Eberle