海外ホール体験 第15回 アン・デア・ウィーン劇場(ウィーン) | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。


19995月ある音楽ツアーの同行役として再び「ウィーン芸術週間」に行った。

音楽祭のオープニング・コンサートはコンツェルトハウスでのバレンボイムの指揮とピアノ、ウィーン・フィルによるモーツァルトのピアノ協奏曲第22番とR.シュトラウスの「英雄の生涯」で、これについては第9回で書いた。


今回ご紹介するホールは「アン・デア・ウィーン劇場」。モーツァルトの「魔笛」の台本を書いたシカネーダーが皇帝の認可を受け着工、1801年に開館。当時の建物は残っていないが、ベートーヴェンが音楽監督を務めた時期もあり「英雄」「フィデリオ」「運命」「田園」が初演されている。1800年代にはオペレッタを数多く上演、1874年にはヨハン・シュトラウス2世の「こうもり」もここで初演された。


その「こうもり」初演の会場で、アーノンクールが指揮するウィーン交響楽団で「こうもり」を聴いた。私が観たのは2日目で、初日は日本にも衛星中継されたのでご覧になった方もいるかもしれない。アイゼンシュタインにヴォルフガング・ブレンデル、オルロフスキー侯爵としてアグネス・バルツァが出るということでも話題になった。


ただこの公演の評判はあまりよくなかったみたいだ。確かにアーノンクールの指揮もウィーン交響楽団の演奏も、シュトラウスのしゃれっ気や陶酔感を表すには重く感じられたし、現代風の衣装や傾斜を持たせた舞台も中途半端のような気がした。バルツァが十八番の「カルメン」の「ハバネラ」をちょっと披露するところで客席は沸いたが。


狂言回しの看守フロッシュ役のエルヴィン・シュタインハウアーが、第3幕で冗談を言うのだが、途中からコソボ紛争(時期的にこの紛争だと思う)についての政治的演説になり、会場からブーイングが起きたりしてエンタテインメントどころではなくなってしまった。終演後も賛同する人たちがホワイエで募金活動を行っていた。


アン・デア・ウィーン劇場のこぶりでクラシックな内装はオペレッタやモーツァルトのオペラなどにはぴったりで、またミュージカルの会場としても成功している。2003年の「エリザベート」再演の大ヒットや、2006年以降は「新オペラ劇場」を名乗り、モーツァルトはもとより、バロックオペラ、現代ものまで上演し、シュターツオパーやフォルクスオーパーのレパートリー・システム(日替わり)ではなく、同じ演目の連続上演で独自性を誇っているようだ。