ナクソスミュージックライブラリーを1年更新した。膨大なカタログを自由にストリーミングできるので、コンサートの予習に重宝していたが、しばらく演奏会に行けなくなったため、その時間をナクソスで目新しい曲や珍しい曲を聴くことにあてている。
今日は「推薦CD」のなかで、クネヒト(ユスティン・ハインリヒ、1752-1817)の「自然の音楽的描写」を聴いた。5楽章からなり、それぞれに作曲者による説明がつく。
第1楽章:美しい田舎、そこでは太陽は輝き、優しい東風はそよぎ、谷間に小川は流れ、鳥がさえずる。急流は音を立てて流れ落ち、羊飼いは笛を吹き、羊たちは跳びはね、羊飼いの女は美しい歌声を聴かせる。
第2楽章:突然空が暗くなり、あたりの自然は不安に息をのむ。黒い雲が集まり、風が吹き始め、遠くでは雷鳴がとどろき、嵐がゆっくりと近づいてくる。
第3楽章:ごうごうと音を立てる風を伴う嵐がやってくる。雨は叩きつけ、木々の先端はざわめき、激流の水は恐ろしい音をたてながら流れていく。
第4楽章:嵐は次第におさまり、雲は消え、空は晴れ渡る。
第5楽章:自然は喜びに満ち、天に向かって声を張り上げる。それは、創造主への心からの感謝を捧げる甘く心地よい歌だ。
これらはベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の構成や各楽章につけられた言葉にそっくりだ。
「田園」では、
第1楽章「田舎に着いたときの愉しい感情のめざめ」
第2楽章「小川のほとりの情景」
第3楽章「田舎の人たちの楽しいつどい」
第4楽章「雷雨、嵐」
第5楽章「牧人の歌、嵐のあとの喜びと感謝」
となっている。
ベートーヴェンが「田園」を完成したのは1808年、クネヒトは1784-5年ころ作曲したといわれているから、ベートーヴェンよりも20年以上前にこの作品はあったことになる。
クネヒトの曲はバロック音楽のパストラーレ風のおだやかな作風だが、第1楽章と第5楽章の曲想や雰囲気には共通するものがある。第3楽章はベートーヴェンに較べると嵐の様子はずっとおとなしく、単なるアレグロくらいにしか感じられない。
楽章の説明や曲の構成の共通性から、ベートーヴェンが「田園」を作曲するさいにクネヒトの作品を参考にしたと考えることに無理はないと思う。
クネヒト自身はベートーヴェンの「田園」を聴いたことはあったのだろうか。そのとき彼自身はどう思っただろう。