【乱読NO.3625】「経済学はこう考える」根井雅弘(著)(ちくまプリマー新書) | D.GRAY-MANの趣味ブログ

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[ 内容 ]
私たちはなぜ、何のために経済学を学ぶのだろうか?
「冷静な頭脳と温かい心」「豊富の中の貧困」など、経済学者たちはこれまで、考えを尽くし、さまざまな名言を残してきた。
彼らの苦悩のあとを辿り、経済学の魅力を伝授する。

[ 目次 ]
第1章 冷静な頭脳と温かい心(貧富の差への憤り 経済騎士道の精神 ほか)
第2章 豊富のなかの貧困-ケインズ革命(マーシャルからの「逸脱」 「セーの法則」への挑戦 ほか)
第3章 経済学者にだまされないこと(J.ロビンソンの「主流派経済学」批判 何のための雇用か ほか)
第4章 時流にながされないこと(資本主義と社会主義 ハイエク=フリードマンの思想 ほか)

[ 問題提起 ]
著者の御専門は現代経済思想史ということで、本書も経済史的な観点から、ケインズを軸にして経済学の考え方について説明されています。

中高生向けということで、簡明には書かれていますが、必ずしも簡単な本ではなく、経済学を専門に勉強していなければ、一般の大人でも読みごたえのある本です。

本書は全部で四つの章から成ります。

第1章はケインズの師匠筋のマーシャル、第2章はケインズ、第3章はケインズの愛弟子の女性経済学者であるJ・ロビンソンにを中心にそれぞれの思想について簡潔に述べられており、最後の第4章はフリードマンやハイエクについても言及しながら、資本主義と社会主義をめぐる考え方について簡単に解説されています。

今回の金融危機をきっかけに、行き過ぎた市場原理主義への反省から、ケインズについて話題になる機会が増えるのかもしれません。

それどころか、一時期は葬り去られたと思われたマルクス主義の本までも書店で見かけるようになりました。

[ 結論 ]
自由と規制、富の集中と配分については、本質的にどちらが全くなくなるという性質のものではないので、時代によって流行があるのでしょう。

ケインズについても、ケインズ主義と言われ、どうしても公共投資とのからみでよく話題になりますが、本人が亡くなった後では、生前に影響力のある人ほど、その人が生前に言ったことや書いたことが一人歩きします。

基本的に思想や学説などの言葉によって明示的に表現されたものは、その思想や学説を述べた人とその時代環境との接点の部分で形成されます。

それは言葉によって表現されるので、その人が意識していたことが表現されることになります。

意識されているものは、その人の無意識と周囲の環境との接点であり、その接点を後の人がその人の思想や学説と考えているに過ぎません。

時代環境が変われば、その人が主張することも変化するでしょうし、場合によっては全く反対の考え方に変わってしまうこともあります。

たとえば、ケインズが現在まで生きていたとしたら、時代の変化に応じて思想や学説は変化していたことでしょう。

後世に大きな影響を与えるような人物は、思考に柔軟性がある人であることが多いと思います。

変わらないと考える方が不自然です。

そのように考えると、その人物の弟子がその人物が以前に言っていたことに固執するのは、場合によってはその人物の意向と反することをしている場合すらあります。

ケインズに限らず、マルクスが現在生きていれば昔と異なった主張をしていると思われますし、経済思想家に限らず、哲学者や宗教家も同様です。

シェイクスピアが現在に生きていれば、現代に合わせた作品を創作しているはずです。

ある人の考えは、言葉として表現された瞬間に他者によって固定されてしまいますが、人間は固定しているものではありません。

言葉は伝達の際に意味を固定してその人が伝えたいことのブレを少なくするので、コミュニケーションの重要な手段ですが、コミュニケーションの範囲を超えて固定してしまうと、かえってコミュニケーションの障害になることもあります。

ケインズを見直すということは、ケインズの本にどう書かれていたかということではなく、ケインズが生きているとしたらどのように考えるかということを考えることです。

著書に書かれていることだけで自分が判断されるのは、ケインズに限らず誰の本意でもないと思います。

[ コメント ]
ちょっと話が本書からそれてしまいましたが、本書はケインズを軸に経済学について考えるために役立つ本です。

ケインズについては、最近は否定的に語られることも多いのですが、これからトピックにはなると思うので、議論の土台を作るためにも本書はよいと思います。

[ 読了した日 ]
2010年3月21日