【乱読NO.3267-2】「高校数学でわかるボルツマンの原理 熱力学と統計力学を理解しよう」竹内 | D.GRAY-MANの趣味ブログ

D.GRAY-MANの趣味ブログ

ココチよさって私らしく暮らすこと ~読書と音楽と映画と・・・Plain Living and High Thinking~

 

イメージ 1

 

[ 結論 ]
本書は「摩擦が不可逆過程である」というのが熱力学の第二法則だという。

ちなみに、F1では、ブレーキング中に失われるエネルギーを保存して、オーバーテイクなどの必要時に馬力に変換するKERSが話題になっている。

エネルギー効率を高めることが工学の役割であるが、ガソリンエンジンでも効率は20%ぐらいだという。

つまり、動力よりも暖房機として優れていると言えよう。

ディーゼルエンジンは少し効率がよく40%に達するものもあるという。

本書は、最も効率の良い熱機関でも50%に達するものを知らないと語る。

ちなみに、動物の生命活動の効率は25%ぐらいなのだそうな。

少し運動して汗が出るのも、捨てられる熱エネルギーが大きいということである。

そういえば、肥満な人ほど汗をかいているような、汗かきほどエネルギー効率が悪いというわけか。

クラウジウスは、カルノーサイクルの(1)と(3)の等温過程で、熱量を絶対温度で割った量(Q/T)は、得るものと失うものとで打ち消し合うことに気づいたという。

(2)と(4)の断熱過程で外部との熱量のやりとりはない。

したがって、カルノーサイクルの熱量の総和はゼロということになる。

これは可逆過程のみで成り立つ。

ここでdQ/Tがエントロピーである。

理想の熱機関では必ずしもエントロピーが増大するわけではない。

クラウジウスは、エントロピー増大の法則が成り立つ条件として、断熱系と不可逆過程が同時に成り立つ場合としている。

これは、熱が不可逆性に支配されることへの帰結ということだろうか。

となれば、熱機関では必然的にエントロピーが増大することになる。

気体を分子の集まりと考えて分子運動に力学を適応し、気体の圧力を最初に導いたのがベルヌーイである。

その後、気体分子運動を発展させたのが、マクスウェルとボルツマンである。

とはいっても、個々の分子の振る舞いを語ることは不可能である。

よって、気体のエネルギーは分子運動の総和として計算される。

ただ、固体となると、分子運動が完全に自由というわけにはいかないので事情が異なる。

気体と違って原子の回転運動も起らない。

それでも、固体の中の原子は微小な振動をする。

温度が高いほど、その振動も激しくなる。

気体分子運動を唱えたところで、まだ分子の存在が証明されていない時代である。

その論争に、マッハは攻撃し、ボルツマンは防戦するといった構図があったという。

電子の存在を明らかにしたのは、トムソンやミリカンの実験である。

更に、ラザフォードによって原子核が発見される。

アインシュタインは、ブラウン運動を分子のランダム運動による衝突によって起こる現象だと考えたという。

アインシュタインの論文には、「光電効果の理論」と「特殊相対性理論」の陰に隠れがちな「ブラウン運動の理論」があるという。

気体の分子が持つエネルギーは、全てが同じではない。

個々の分子にはそれぞれ大小のエネルギーがある。

よって、高いエネルギーを持った分子の集まる部分とか、低いエネルギーを持った分子が集まる部分といった現象がある。

このエネルギー分布は統計力学によって求められる。

気体分子のエネルギーを表すのが、マクスウェル・ボルツマン分布で、ニュートン力学から導かれる粒子を元に計算される。

そして、その総和(ベクトル和)が統計力学として求められるわけだ。

とはいっても、全てのベクトル方向を予測できるものではない。

どうしても確率論に持ち込まざるを得ない。

よって、最も起りやすいエネルギー分布として議論することになる。

そこで、登場するのが、「ラグランジュの未定乗数法」である。

しかし、電子の運動は、マクスウェル・ボルツマン分布ではなく、フェルミ・ディラック分布に従う。

他にもマクスウェル・ボルツマン分布に従わない粒子が存在する。

ニュートン力学では扱えない粒子である。

電子などフェルミ・ディラック統計に従うのがフェルミ粒子。光子などボース・アインシュタイン統計に従うのがボース粒子。

電子の特徴は電荷を持っていることであり、外部からの電磁場でかなり自由に操れる。

一方、光子は電磁場による直接的な影響を受けないので遠くへ飛ばしやすい。

したがって、現在の通信手段で最も大きな容量をささえているのが、光ファイバーということになる。

通常の粒子は二つあれば、その区別がつく。

しかし、フェルミ粒子やボース粒子は、その区別がつかないという奇妙な性質がある。

おまけに、フェルミ粒子は「パウリの排他原理」の制約に従う。

フェルミ粒子は、絶対零度でフェルミ・エネルギーの大小関係で存在確率が0%か100%のどちらかになるという。

だが、室温では、フェルミ・エネルギーで存在確率が1/2になるという。

その中間的な位置は、お湯を沸かした例で説明がなされるのは分かりやすい。

分子が水として存在するものと、水蒸気として存在するものに分かれ、水面がフェルミ・エネルギーというわけだ。

あらゆる原子は、原子核と電子でできているので、電子の分布が観測できれば、物質自体の分布を観察することができる。

フェルミ・ディラック分布は、電子の分布を論じたものであり、固体物理学や半導体工学で重要な役割を果たしている。

では、ボース粒子はどうなるのか?

アインシュタインは、分子間に相互作用のない理想気体を冷却すると、ある温度以下では最もエネルギーの低い状態に多数の粒子が集まることを理論的に導いたという。

例えば、液体ヘリウムの超流動現象である。

液体には水のように粘性があるが、ボース粒子は冷却していくとその粘性がなくなるという。

そして、超流動状態になると、分子1個しか通れないほどの隙間を抜けたり、容器の壁をよじ登って外にあふれたりといった面白い現象が起こるという。

まさしく量子の世界は何が起っても不思議ではない。

量子の世界では、エネルギー障壁を越えるトンネル効果という現象もある。

ボルツマンの原理は、エントロピーの統計力学的な表現であるという。

「ある系が、場合の数の多い状態に向かって変化していく。」

エントロピーというと、一般的には「乱雑さ」と表現される。

なるほど、乱雑さを「系の場合の数」と考えればいいようだ。

「系の場合の数」は、「存在確率の最も高い分布の場合の数」へと近似される。

そして、安定な分布の場合の数となり、この数が増える方向へ分布するという。

より安定状態に変化するというのが、エントロピー増大の法則というわけか。

[ コメント ]
第一章から第三章までで熱力学について、第四章と第五章で統計力学の基礎について学び、第六章でそれら二つを結びつけるボルツマンの原理を導くといういたってオーソドックスなスタイルでこの本は書かれている。

内容はかなりわかりやすい。

どうしても熱力学、統計力学は、電気電子学科の学生にとって蔑ろにされがちな学科であり、うちの科では熱力学と統計力学は専門科目に無い(教養という位置づけ)なのでかなりこの本は役に立った。

何より、なぜ化学ポテンシャルが一定なのかという話は、半導体を扱うにあたってこの様な簡単な描写で理解できるのはうれしい。

ただ、高校生が読めるかといったらやはり疑問。

タイトルにもあるけど『高校数学でわかる』であって『高校生がわかる』とは書いてないし。

しかしながら、『金属材料の最前線』と異なり、考えながら(そして手を動かしながら)読めばわかる内容になってるので、高校生以上にお薦め。

ただ、残念なことに、他の著書『高校数学でわかるシュレディンガー方程式』『高校数学でわかる半導体の原理』に比べると、熱力学、統計力学が縁の下の力持ち的学問のため魅力的に映らなそうだ。

前文は↓を参照。
http://blogs.yahoo.co.jp/bax36410/60677451.html

[ 読了した日 ]
2010年1月1日